第16話① ノークレスに着く
==杏耶莉=ノークレス・北側出入り門前==
「……やっと到着だね」
ドレンディアの北部に位置する大都市、ノークレスという町に到着していた。
「ここで間違いないの? 私はてっきり首都に向かってるのかと思ってたんだけど……」
「ボクの用事を済ませるなら、この規模の町であれば十分だからね。 それに、この国の首都まで向かおうとすると、ここまでの移動時間の倍以上掛かるけど、それでも行きたいのかい?」
「……いや、いいです……」
距離だけ見れば、今回移動した分の半分程で首都に行けるらしい。だが、移動距離の大半を列車を利用して一日で進んでいるので、馬車の移動時間で計算するとそれぐらいの日数が必要になってしまうらしかった。
「懐かしいな」
「そういえばカティくんは来た事あるんだよね?」
「そうだな。 レスプディアで列車を利用するために、この町で稼いでから向かったんだ。 だから、他よりも滞在期間が長いからよく覚えてる」
「列車の設定料金、高いもんね。 開発者さん、どうにかなりませんか?」
エアマイクを差し出して、マークにインタビューする。
「利用料金の設定はボクがしたわけじゃないし、技術を一度で売却してるから管轄外だよ。 それに、燃料のドロップも馬鹿にならないんだよ。 現技術ではあの燃費が限界だしね」
「そうなの?」
「そうなんだよ。 利用客があれだけ居る状態でも、点検なんかの費用を考えると利益はそこまで出ていない。 国を豊かにするという考えの元運用されているに過ぎないね」
「へー」
日本でも鉄道開通当初は国営で、そういった運用がされていたと習った記憶がある。
そんなことを考えていると、私達を乗せた馬車は町の出入り口の検問に到着する。そのまま大した検査もされずに町へと入った。
「では、わたしはこれで……」
「はい、お疲れ様でした」
「皆様に旅のご加護がありますように――」
御者をしてくれた商人の男性は去っていった。彼はこの後、この町で仕入れをして別の町へ行くのだろう。
「じゃあ、一先ずは宿に移動しようか」
「……また領主かなにかに承知されるってことはないよね?」
「……ないと思うぞ」
そのまま何事もなく宿に着いた私達は、荷物整理をし終えて今後の予定について話すことになった。
「今日は日が暮れて遅いから、明日知り合いの所に行こうと思う」
カティは嬉しさ半分、不安半分という表情でそう話す。
「会いに行く人って、どんな人なの?」
「そうだな……、一言で表現するなら、変人だな」
「変人……」
カティがそう表現するだけの相手だということなのだろう。私は近づきたくない人種なのかもしれない。
「……キミのその友人というのに、ちょっと興味があってね。 可能ならボク達も同伴してかまわないかな?」
普段は自らの研究以外興味を示さないマークが、珍しくそんなことを提案する。
(というか、また勝手に巻き込まれてるし……)
天才肌というか、頭の回転が速い人は説明不足な事が往々にしてある。恐らく理由を聞いたところで結局付いて行くことになるので、適当に同意することにした。
「……私も予定がないし」
「……まぁ、別に構わないんじゃないか? あいつは人見知りとかじゃないしな」
そんなこんなでカティの友人とやらに会うことになった。
……
この町に到着した翌日、その友人が住んでいるという集合住宅らしき建物の一室の前に、三人でたどり着いていた。
「……ここだ。 引っ越してなければだけどな……」
この世界には、電話に該当する連絡手段が存在しない。伝書鳩みたいなのはあるらしいが、不確定要素も多いので利用されることは稀なのだそうだ。
そうなると、必然的に行き違いが発生することになる。今回もそうでなければ良いのだが……。
「おーい、居るかー?」
扉を遠慮なく『ガンガン』と叩いて呼び出す。呼び鈴やドアノッカーは取り付けられていないと思ったが、左右の別の住民が住んでいる扉にはドアノッカーが付いていた。意図的にそれを外しているのか壊れただけなのか……。
「おーい、聞こえてんだろ! 開けろ! おい!!」
呼び出してもなかなか開かれない扉に、カティは怒りを露にする。
「……カティくん、留守とかなんじゃ……」
「いや、間違いなく今居る。 あいつは殆ど外に出ないんだよ」
引き籠りということなのだろうか。
「いい加減にし――」
「――まったく、五月蠅いな……」
カティが扉を蹴破る勢いて叩いていると、ようやく中から一人の女性が現れる。
「ん……。 面白い顔ぶれじゃない?」
(面白い……?)
現れた女性はカティ、マークそして私を順番に見つめると、大きく欠伸をした。
「ふわぁ……、一先ず入るかな?」
「……頼む」
狭い通路で進路阻害をし続けるのも迷惑なので、彼女の部屋へとお邪魔することになった。
部屋に入って最初に感じたのは、日本で嗅いだことのある美術室のような匂い。つまり絵の具の香りだった。
「まずは久しぶりだね、カーくん。 最近は見かけなかったけどどうしたんだい?」
「……レスプディアに向かうと伝えた筈だが?」
「そうだったかな? そんな事よりも、何かお土産があるんじゃないかな?」
「……自分から催促するなよ……」
カティは呆れながら持ってきていた袋を差し出す。その中には彩色豊かな石が入っていた。
宝石と呼ぶには武骨なそれを見るや否や、彼女は大喜びで掲げる。
「素晴らしい! 相変わらずの審美眼で持ち込んでくれるね! これなら良い顔料になるよ」
顔料とは着色料の一種だったはずである。それを嬉しそうに受け取ると、頬ずりし始める。
(へ、変人だ……)
「……それと、何故お前が来ているんだ? 連れ戻すつもりか?」
その後、カティからのお土産に十分満足したと言わんばかりに突然態度が急変する。そしてマークを睨みつけると両足を開いて構える。
「そういう訳じゃないよ。 彼の話からおそらくキミなんじゃないかと思って顔を出しただけだね。 楽しく暮らしてるらしいキミにボクとしては干渉するつもりはないから安心して貰えるかな?」
マークの話しぶりから、どうやら彼もこの女性と知り合いらしかった。
「そうか? ならば構わない。 けど、お前が連れているということは彼女もそうなのか?」
「……キミにしてはよくわかったね。 その通りだよ」
「……? 何の事?」
突然蚊帳の外だった私に、注目が集まる。
「それなら、わたしはあんたの先輩になるのか」
「……先輩?」
いまいち話が呑み込めない。
「そう先輩。 だってあんたはわたしと同じ異世界転移者なのだろう?」
「え……」
公言を控えている異世界の人である事実を言い当てられ、それを彼女は同じであると答える。
「あ、あなたは一体……」
「わたしはアドルノート。 よろしくたのむぞ、後輩」
絵の具の香りが漂う女性。アドルノートと出会った。




