第15話③ 意思を受け継いだ当主
ややこしそうなので名前をまとめておきます。
□チェルグリッタ
チェルティーナの高祖母で歴代勇者の一人
□メルグリッタ
チェルティーナの祖母で現レスタリーチェ家当主
□エルメナ
チェルティーナの母
□ルピルド
チェルティーナの弟
==カーティス=レスタリーチェ本家・当主の部屋==
メルグリッタに案内された部屋は、かつてチェルグリッタが使用していた部屋だった。
現在の内装から彼女、メルグリッタが使っているらしい。
「……私には一目で理解できました。 貴方が今代の勇者ですね」
「……その勇者ってのはノーヴィスディアに籍を置いているんじゃないのか?」
彼女は、誤魔化す様に放った一言を否定するように首をゆっくりと横に振る。
「実際に私は目にしていませんが、貴方の存在がこの場にある時点で紛い物だと断言いたします」
「……仮にも一国のお偉いさんがそんな発言をして良いもんかね?」
「『人伝の噂は己の目で確かめ 自らで見た事実を信じよ』」
「……レスタリーチェの教え第七条、か」
「これは貴方の言葉でしょう? 御ばあ様」
「……俺はお前の祖母じゃない」
どこか縋る様な高齢の女性に対して、きっぱりと否定をした。
「……それは存じております。 でも、最も共に過ごした人間の一人として、やはり貴方は御ばあ様なのですよ……」
「……」
彼女の話す御ばあ様とは、先代レスタリーチェ家当主にして二十五代勇者、チェルグリッタ・レスタリーチェの事である。
「今の俺は、カーティスだ。 それだけは譲れない」
「そう、ですわね……。 失礼な事を申し上げてしまいましたわ……」
寂しげな表情のままではあるものの、俺の発言を受け入れて真っ直ぐ前を見据えた。
「では、改めましてカティ様。 貴方はこの国の為に動いてくださることはできませんか?」
「……それは出来ない。 あくまで勇者は中立の立場を貫かなきゃならないからな。 チェルグリッタがレスプディアに属していたのは生まれ持った肩書に準じていただけで、勇者としての能力を国政に利用してはいなかった」
「……」
「一切勇者という肩書が影響していなかったとは言わないけどな」
「やはり、そう言われますか……」
遠い目をしたメルグリッタは、恐らく俺を通して自らの母親を見ているのだろう。記憶に引っ張られるのも癪だが、この言葉で人一人を救えるのであれば、それをしない理由はなかった。
「はぁ……。 一回しか言わないぞ」
「え?」
「メルグリッタ。 貴方は私亡き後もこの家、この国を守り支えてくれていたみたいですわね。 ありがとう存じますわ。 でも、少し私に拘りすぎですわね。 もう少し伸び伸びとやってくれれば良かったですのに……」
「……」
「でも、僅かとはいえレスターの町を見て感動しましたわ。 これから先も、守るべき者の為に全力実行で突き進んで下さいませ!」
「お、御ばあ様……」
「……はぁ、こうなると思った。 俺が悪者みたいじゃねぇか……」
でちょっとした口真似の言葉を聞いたメルグリッタは、大粒の涙を流しながらその場に崩れた。
==杏耶莉=レスタリーチェ本家・第二客室==
「あれ、カティくんは?」
私が借りる部屋に案内されて荷物を置いた後、カティとマークが借りる部屋にお邪魔したが、カティの姿が見えなかった。
「カーティスさまでしたら、おばあさまのつきそいでたのみごとをしております。」
ルピルドというチェルティーナの弟という男の子は丁寧にそう答える。年齢こそ六、七歳と思われるのに、私以上にしっかりしている。
「大したことじゃないみたいだけど、彼も大変だね」
「なんだかんだ断らないのがカティくんの良いところだしね」
口ではいやいやでも、実際は誰かの為に動ける子。それが私の中でのカティの評価だった。
「マクリルロさま、アヤリおねぇさま。 つぎのかねでしょくじのよういができますので、つかいのものにあんないさせます。」
「りょーかい」
「はいはい」
返事をするのは問題ないのだが、何度か呼ばれているアヤリお姉様という単語が妙に引っかかる。
「ルピルドくん、そのアヤリお姉様って何なの?」
「? アヤリおねぇさまはアヤリおねぇさまです。 チェチェおねぇさまよりそうよぶようにといわれております。」
「……」
何の意図かは知らないが、この子を問い詰めても仕方がない。後日チェルティーナ本人に問いただすこととしよう。
「では、ぼくはしつれいいたします。」
「うん、ありがとうね」
「はい。」
側仕えの者に扉の開け閉めさせてルピルドは退室して行った。自ら行うのが困難な背丈しかないので当然かもしれないが……。
「持て成してもらってる感じはあるけど、何でやってくれたんだろうね」
「……あくまで推測だけど、この町レスターの領主でもあるからね。 正式な訪問ではないとはいえ、ボクとの顔合わせの意味があるのかもしれない」
「その割にはマークの扱いがカティくんと同じっておかしくない? 一応あれは知らないはずでしょ?」
あれとは勇者のことである。本人より口外はしないで欲しいと頼まれているので、今では濁した表現に慣れてしまった。
「そのはずだね。 ……この家の者は自らの力を誇示するのが好きそうだからね。 意外とキミに自慢したかっただけかもしれないよ?」
「えぇ……、まぁ、私としては豪華な所に泊まれるから構わないけどさー」
そんな理由で招待されるのもどうなのだろう。この国の貴族の在り方が未だに把握できないでいる。
「で、明日の話をしよっか。 確か馬車での移動なんだよね?」
「そうなるね。 列車は国内でしか開通していないから、国境越えもそれ以降も馬車の旅だよ。 諸手続きも済んでいるからすんなりと通れるはずだね」
「国境って、そうほいほい通って良いものなの?」
「ドレンディアとは友好国だからこそ検問が緩やかなんだよ。 冷戦中のギルノーディアはこうはいかないさ」
日本育ちの私的には、やはり地続きで国を跨ぐのは想像できなかった。
「ドレンディアか……、どんな所なんだろ」
「それは行ってからのお楽しみだね。 まぁ、そういうボクも初めてなんだけどね」
「そこはベテランのカティくんにお任せだね」
そんな話をしていると、鐘の音が窓の外から聞こえる。それと同時に客室の扉がノックされるので、夕食の準備ができたということなのだろう。
「それじゃあ行こうか」
「そーだね」
彼女らレスタリーチェ家の持て成しを受けるために、目の前の扉を開けた。




