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第13話④ 引っ手繰りチェイス


==杏耶莉(あやり)=デュレークヌーン前==


「とても満足だなー」

「美味しかったですね」


 持ち帰り用のスイーツを持ったマローザと店を後にする。


「でわ、私は休日を謳歌するので――」

「誰か捕まえてくれ! 引っ手繰りだー!」

「「!?」」


 大声で叫ばれた方角を見ると、大きな袋を持って逃走する人影が見える。

 私とマローザは顔を見合わせると、その男性を追って走り出した。


「――これ持っててくださーい」


 マローザは私と並走しながら、「窃盗だー!」と叫んでいた男性にお土産の箱ごと押し付けると、振り返らずに追いかける。


「退いて退いて!!」


 人混みを縫う様に押しのけながら、追いかけ続ける。私もマローザも動き易い服装ではないが、窃盗の男性も盗んだ品が重いので少しずつ距離が詰まる。


「――っ、馬鹿野郎! 危ねぇじゃねぇか!」

「す、すみません!」


 時折道を歩く人に衝突しそうになりつつも、何とか回避しつつ追いかけ続ける。

 大通りから外れて細道へと入って行くのを見逃さずに突入すると、窃盗男性はこっちを見て苦々しい表情を浮かべる。


「くそっ!」


 盗んだものを持ち逃げする事を諦めたのか、窃盗男性は袋を私達に投げつけるように手放す。


「おっと……」


 マローザはそれを上手い事キャッチするが、当然立ち止まりざるを得ない。


「後は任せてください!」

「――頼んだー!」


 動きを止めた彼女と対照的に、私はそのまま追いかけ続ける。

 どうやら、この細道は通り抜けることが無理らしく、遠くに行き止まりが見えた。


「チッ、舐めんじゃねぇぞ!!!」


 壁を背に私に向き直った窃盗男性は、懐から短剣を抜き出す。そのつもりなら遠慮をする必要もないので、私も剣をディートして生成した。


「くそっ、ディーターかよ!?」

「……大人しくしてください」

「う、うるせぇ餓鬼がぁ!!」


 短剣を構えて突撃する窃盗男性だが、その動きに洗練さは感じられない。


(――遅い!)


 突き出された短剣を私の剣で半ばから斬り落とす。驚きの表情をする男性だが、突撃した勢いが殺されずに突っ込んでくるので右足を底を向けて構えて押し返す。


「ごっ……」

「観念してください」

「ひっ!」


 剣を持ち直してこの男性に向ける。苦しませるつもりはないので、首筋に剣を当てる。


「……さよなら」

「た、助け……」


 剣を振り上げて狙いを定めて振り下ろそうとした瞬間――


「――待ったーー!!!!」


 背後から聞きなれた声を掛けられる。そこには大きく呼吸を乱したマローザと、ランケット所属だというラッヅが立っていた。


「アヤリちゃん、何してるのー?」

「何って……、普通に()()を倒そうかと」


 そうしてもう一度窃盗男性を見ると、泡を吐いて失神していた。

 彼女は切り折った短剣に視線を移し、再度私を見る。


「武装解除出来てるみたいなのに、そこまでする必要ないよねー?」

「? でも、この人犯罪者ですし……」


 そう答えて首をかしげると、彼女はさらに困惑の表情を浮かべる。


「いや――」

「ちょっとちょっと! オレらで争う必要はないじゃんね?」


 会話の途中に駆けつけてたラッヅが遮る。


「アヤちゃんと君は騎士かもだけど、オレはランケットだからこの泥棒を引き受けるじゃん。 それでいいじゃんね?」

「は、はい……」

「まー、それはいいけどー……」


 ラッヅは失神した男性に近づくと、何度か頬を叩いて無理やり起こす。

 その男性を引きずるように大通りへと戻って行った。


「……」

「……アヤリちゃん、何であそこで殺そうとしたのー?」

「それは……、犯罪者だったので……」

「そうかもだけど、アヤリちゃんの剣なら安全に気絶させれるよね? そうじゃなくても武装解除出来てたのに、そこまでする必要はなかったと思うなー」

「……」

「仮に違法をした人でも、可能な限り捕まえて処罰させなきゃなの。 だから、先輩騎士としてあの行動は看過できないなー」

「……すみません」


 マローザはため息をつくと、私の頭に手を置く。


「アヤリちゃんは正義感が強いんだろうけど……、私達も決まりには従わないとねー」

「……はい」


 この話はこれで終わり。そう雰囲気を切り替えるように彼女は伸びをしてから、普段通りの表情に戻す。


「じゃー、戻ろうかー」

「はい……」


 細道を引き返す様に大通りへと戻った。


 ……


「よし、私は戻るからねー」

「はい、ありがとうございました」


 私が一礼すると、満足そうな表情でマローザは去っていった。


(私も帰ろう……)


 これ以上無意味に街を歩き回る気分にもなれなかった私は、そのまま帰宅することにして歩き出した。


「――あれ、アヤリ?」


 帰宅する道すがら、馬車の中から見知った顔の男の子が顔を覗かせた。桜色の髪をした少年、カティだった。


「カティくん!?」


 どうやらエルリーンを出ていたらしく、外部からの流入口からのんびりと馬車で来ていた。


「……アヤ?」


 同じく車内からサフスも顔を出すが、その表情はからあまり体調が優れないらしい。


「俺はここで降りるぞ。 じゃあな!」

「ちょっ!」


 御者をしていた男性が驚く最中に、カーティスは低速度とはいえ走っている途中の馬車から無理やり飛び降りた。


「おう、じゃーな~!」


 馬車の奥から知らない男性の声が聞こえる。サフスも何か言っていたみたいだったが、声量が足りずに聞き取れなかった。


「何してんだアヤリ?」

「……特に何もしてないけど」

「そうか……」


 カティは頭をがしがしと掻いて悩ましいという表情をする。

 私と彼が出会ったのはベージルの時が最後だった。


「何て言うかさ……、あれからお前のことが気になっててな」

「私が?」


 見た目は子供だが、彼は時に下手な大人よりも大人みたいな言動をすることがあった。むしろ、年相応なのは食事の時ぐらいかもしれない。


「なんか前に悩んでただろ? その時に『強くなりたい』とかって言ってたし……。 それにほら、アヤリって特殊な境遇にあるからな。 俺で良ければ相談に乗るぞ?」


 その自分の言葉に照れているのか、そっぽを向いてそんなことを話す。


「えー? 年下の男の子に相談するの?」

「……年齢とか、関係ないだろ? 俺の方が人生経験摘んでるだろうしな」

「そうかな?」

「そうだよ! ……ったく、折角人が気を使ってやってんのに……」


 私よりも頭一つ分は背の低い男の子だが、そういう行動にどこか愛らしさを感じる。


「……じゃあ、お願いしちゃおっかなー!」

「――ぬぉっ!」


 背を向けていた彼のを後ろから抱きかかえてみる。驚きと同時に暴れだすが、がっちりとホールドしているので、抜け出せずに足をばたつかせる。


「や、やめろぉー!」

「いーじゃん。 減るもんでもないんだし」


 往来で抱っこされた男の子を通りがかった人達は、微笑ましい様子で見ながら通過して行った。


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