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第2話① 荷物整理とお嬢様


==杏耶莉(あやり)=エルリーン・マクリルロ宅前==


 マークの自宅前に到着し、改めてその建物を見上げる。出かける際には気が付かなかったのだが、この世界基準でかなり高級な部類に入りそうだ。

 エルリーン(この町)を見てきてわかったことだが、現在居る場所はその中でも高級街と呼ばれる立地なのだろう。近辺の建物も大きくて庭がついている。そして、マークの家はそんな街中でもさらに豪華であると感じられる。


「ベレサーキス様、お待ちしておりました。 荷物を運び入れるので、玄関の鍵開けをお願い致します」

「ご苦労様。 少し待ってね」


 手入れの行き届いた庭には筋骨隆隆の男性が三名と、本日購入した品々が置かれていた。


(荷物持ちの必要はないってそういう……)


 購入の際に荷物を持たず、お金とは別に何かのメモを渡していた。具体的なシステムはわからないが、おそらく宅配サービスなのだろう。

 待っていた男性方は共通のユニフォームこそ来ていないが、私の知る宅配業に携わる人の雰囲気があった。


「それは二階の左手前の部屋に、それとそれはリビング、それはいつもの部屋前にお願いするよ」

「承知しました!」


 マークの指示を受けて宅配の方達が動き出す。腰に負担をかけづらい持ち方でそれらを建物内に運んでいく。


(というか、食材もそうだけど、それ以外の私が知らないものも購入してたんだ)


 用意が良いのか手際が良いのか、まるで私の回答をわかっていたかのような行動の速さである。

 マークが家に入っていくのを見て、追いかけようとするが、それを宅配の一人に呼び止められる。


「新しいお手伝いさんっすか? ここの旦那、羽振りがよくってしょっちゅうウチや庭師なんかを利用されるんすよ。 お貴族様は専属の従者を雇ってるんっすけど、それもしてないみたいっすし……。 なんか知らないっすか?」

「し、知らないです」


 そう答えると「そっすか」とだけ残して、男性は荷物を運びこんでいく。


(確かに、お金に一切困ってなさそうなのは何でだろう……)


 マークの自宅へと入ると、階段の前でマークが私を待っていた。


「二階の服を運び込んだ部屋をキミの部屋にするよ。 掃除はされているはずだし、キミの自由に使ってくれて構わないよ」

「りょーかい」

「それと、服は時期を見て追加しようか。 キミはそういうものに興味があるみたいだしね」

「うん……ありがとう」


 服を選ぶ際に時間をかけていたことを思い出す。服を一度に揃えるという経験がなかったので、以外にも舞い上がってしまっていた。

 その時は気にせずに何着も買ってしまっていた。今思えば自重すべきだっただろう。


 マークに断りを入れて、階段を駆け上がって自室へと入ってみた。

 購入したばかりの服が入った木箱が中央に置かれ、それ以外には一人用の小さなベッドに、小さな椅子と机のワンセットのみである。


(殺風景……なのは居候の身、我慢すべきだよね)


 気持ちを切り替えて、服の入った木箱を漁る。着てきてしまった制服を除けば数少ないので、大事に扱いたい。


(クローゼットがないから、皺になるけど畳んで管理するしかないか。 あ……)


 そういえばインナーを購入していなかった。これでは現在着けているものしか持っていない。


 自室を後にして、マークへと相談をしに行く。


「買い忘れがあったんだけど……」

「今日はもう店が閉まっているだろうね。 残念だけど明日にしてくれるかな」

「そうなんだ……」


 一先ずは諦めるしかなさそうだ。


「それで、何を買い忘れたんだい?」

「え、えーっと……。 一人で買いに行くから……」

「キミは文字が読めないだろう? ボクも付いて行くよ」

「いや、それは……」

「???」


 煮え切らない態度の私に、不思議そうな顔をするマーク。踏ん切りをつけて買い忘れたものについて告げる。


「……ちょっと、男の人に言いづらいものを買うから」


 目を逸らしながら小さな声でそう伝えると、マークは眼鏡を持ち上げる仕草をする。


「配慮が足りなかったね。 ゴメン……」


 そして謝られた。


 ……


 届けられた食材の箱を見ると、見たことがあるようでないような野菜や、部位ごとに切り分けられた動物不明の肉はあったが、魚はなかった。

 何かわからないものを料理はできないので、いくつか小ぶりのものを選んでナイフで切り分けて味見をする。


(これ、やわらかいけどカボチャみたいな味がする。 色は違うけど味はトマトだ。 酸っぱぁ……、見た目青トウガラシなのにレモンじゃん)


 咳き込むようなアクシデントこそあれど、野菜の判別をつける。翻訳機に付随する知識で野菜の名前は知っているのだが、以降は独断と偏見で味を基準に日本の野菜として脳内変換することにした。

 肉はどれもすぐに使えるサイズに切り分けられているので、経験のない解体をする必要もなかったのだが、何の肉か判断できなかったのでマークに確認を取る。

 同封されていたメモから牛、豚・鶏・鹿・羊・馬のものであるとわかったが、鹿・羊・馬は調理法がわからないと告げた。


「それならエルリーン(ここ)の料理人に伝手があるから、今度紹介するよ。 それまでは保存だね」


 そういいつつ、キッチン横にあった蓋付きの箱へと放り込む。蓋を開けた一瞬冷気がその箱から漏れる。


「え、マーク。 これって……」

冷凍庫(冷凍保存機)と、隣が冷蔵庫(冷蔵保存機)だね。 反応からしてキミの世界にもあるみたいだね」

「え”!?」


 マークの口から突如現代的な機械が出てくる。文明レベルが低いと思っていたのだが……。


「なんで……」

「ボクのドロップ研究の副産物かな? まだ普及もしてない超高級品で、燃費も悪いんだけどね」


 簡単に構造を説明してくれる。そもそもドロップは密閉された状態で砕くことで生き物ではなくても、効果をさせることができるのだそうだ。それを氷及び水のドロップの力を適切なコントロールで操作しているらしい。

 話の半分も理解できなかったが、マークの研究がすごいということは理解できた。


「因みに、超高級ってどれくらいなの?」

「そうだね……、今購入しようと思ったらこの家がいくつか建てられるだろうね」

「……」


 家が複数建つ程の道具……。丁寧に扱おうと心に決めた。


 ……


 翌朝、マークに断りを入れて出かけることにした。目的はインナーの購入である。

 服を購入した通りまでたどり着いたのだが、具体的にどの店に入れば良いのかがわからない。昨日服を購入した店では扱っていなかったはずなので、別の店を探さなければならなかった。

 その際に障害となるのは文字が読めないことだ。ぱっと見で服屋だと判断できるが、インナーを取り扱っているとあからさまに表現している店はなかった。


(窓の隙間から店内を覗く、って不審者じゃん……)


 入店して確かめる程の度胸もなく、怪しいムーブを繰り返していると、一台の馬車が私の前で止まる。

 内カーテンを開くと、いかにもお嬢様な女の子が覗いていた。


「貴方、そこで何をしていらっしゃるのかしら?」

「え、私ですか? それは……」


 初対面の相手に言いずらい内容だけに、躊躇する。少考の末に軽く説明することにした。


「実は、衣類を買いたいのですが、どの店に目的のものが売っているのかわからず、困っていました」

「成程、奇天烈な恰好をしていたのはそれが理由ですのね」


(奇天烈……)


「ですが、困っているというのであれば、(わたくし)が助けて差し上げます。 レスタリーチェの教え第四条『傷持ちであろうとも 窮する人に救いの手を』ですわ!」


 高らかにそう宣言する女の子は腕を組み、見事なまでのドヤ顔を披露した。


(もしかして私、変なのに絡まれてる?)


 とはいえ困っていたのも事実、一先ずこの女の子を頼ってみることにした。


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