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第13話② 危険な料理


==杏耶莉(あやり)=マクリルロ宅・キッチン==


「よし……、始めるぞー……」


 私はある挑戦を始めるべく、これまでにない程に気合を入れて食材に視線を送る。


「何を始めるんだい?」

「――ぬぉっ! ……ってマークかー。 脅かさないでよ!」

「……別に脅かしたつもりはなかったんだけどね。 で、何をするんだい?」


 その言葉に準備された食材が、彼にも見える様に横にズレる。


「それは()()()を作ります」

「あゲモの? 翻訳できてないけど、どんな料理なんだい?」

「それはね――」


 揚げ物についての説明をする。卵とパン粉を使うフライに、卵と小麦粉を水で溶いたのを使う天ぷらである。

 今回は豪華にフライと天ぷらのどちらにも挑戦する予定なのだった。なお、手間と量の兼ね合いで今回下味の必要がある唐揚げは見送りである。


「――って感じの料理だよ」

「てンぷラは知らないけど、フらイはこっちの世界の揚げ物という料理に近いかな」


 脳内翻訳で、今後はそっちの単語を使う様に気をつけることにする。

 そもそも天ぷらとフライみたいな揚げ物の境界は近年では曖昧になっているらしいので、この世界ではまとめてしまおう。


「で、それらに挑戦してみるんだよ。 だから気合が入ってるの」

「……? キミは普段から料理を十二分に作れていると思うけれど、何故気合が入るんだい?」

「それはー……、作ったことないんだよね」

「そうなのかい?」


 実践経験はないが、お手製のレシピ本でその調理法を眺めることが多かったのでその方法はバッチリである。だが、それと同時に手元にないレシピ本の記憶が少しずつ薄れる感覚もある。

 こっちの世界に永住しなければならない可能性もあるのだから、いっその事作れるようになってしまおうという魂胆である。


(本当は高校生になったらって約束してたんだけど、……ごめんなさい!)


 心の中で父へと謝罪する。表情に出ていたのか、不思議なものを見る目のマークが視界に入った。


「……キミは脳内で暴走することがあるよね」

「……気にしないでください……」


 興味深そうに見学を決め込んだマークを無視して、下ごしらえからしていく。これは手伝っていたので問題なかった。

 適当なサイズに切った野菜や肉に、卵、パン粉の順で付けて行く。


(わかってはいたけど、ぬるぬるで気持ち悪い……)


 鍋に油を注ぎ、コンロを点火する。


「――危ないから下がって!」

「は?」

「危ないの!!」


 揚げ物は危険を伴うので、マークを無理やり後ろに下がらせる。

 そのうちに油の海に十分な熱が伝わったので、先程準備した野菜や肉のうちの一つを投入する。


(ひえ~。 バチバチいってるよ……)


 激しく音を立てて投入物が揚げられる。近くに居た私は無事では済まず、肌を露出している二の腕に小さな痛みが何度も伴う。


(油が跳ねるのは想定通り。 大事なのは驚いて急に動かない事……)


 微細な痛みに耐えてじっと待っていると、投入物がきつね色になった。それを網で掬って、油をきったら古紙を乗せた皿の上に置いた。


「ふぅ……」


 一息つくが、まだまだ未調理の食材が多く残っている。


「……それって、そこまで気を使うものかな?」

「危ないから、気をつけないとだよ……」


 揚げ物の危険性を把握できていないマークにそう返答する。

 父から揚げ物を失敗した人の怖い話を何度も聞かされているので、私は気を抜くことはない。


「よし、次!」


 フライ用に準備していた物も順に揚げていく。その後は、天ぷらとして準備していた食材の下ごしらえを始める。

 容器に卵と氷を入れてい置いた冷水を入れて混ぜる。その後は、同じく小麦粉を入れて混ぜる。

 大きめの野菜は半分に切って、それを含めた食材を出来上がった天応ら衣に浸してから油に投入した。


(我慢ガマン……)


 フライの時よりも大きく音をたててバチバチ跳ねる油。それに耐えて、揚げられたそれを油から掬った。


「……よし!」


 全ての食材を揚げ終えて、火を落としたら気が抜けてしまった。


「……キミは何と戦ってるんだい?」

「……揚げ物だよ……」


 その一言に呆れた表情のマークだったが、そんな彼と一緒に実食することにした。


 ……


 今回地球の生体とは異なるものを調理する関係上、どうしても実験的な内容になってしまった。

 日本での記憶や私の舌を頼りに、揚げ物に見合う食材を選んだつもりだが、成功に到っているという自身は持ち合わせていなかった。


「……じゃあ、食べようか」

「そうだね」


 まずはフライからである。以前お好み焼きで準備したソースにさらに改良を重ねて、濃厚な一品となったそれを少量かける。

 衣のガリッとした独特の触感を越えると、中から油と共に野菜の味が口内に広がる。これは南瓜みたいな味のものなので、独特な風味だが、美味しく食べられた。

 続けて鶏、豚のフライを食べるが、慣れ親しんだ味で安心感を覚える。


「……味が薄いかな?」

「あ、そっちはそこの塩を付けて食べて」


 マークは天ぷらをそのまま食べたらしく、不満げな感想を述べる。調理段階で味付けがされていない天ぷら用に塩を準備していた。

 本来なら天つゆが欲しいところだが、生憎市販品を活用していたので天つゆは作れそうになかった。


「……成程ね。 これなら食材本来の味を十全に味わうことができるね」

「そうなの! 天ぷらは良いよねー。 けど、カロリーが気になるから……次回以降は作りすぎに気をつけるけど」


 試作と銘打って、テーブル一杯に広げられた揚げ物を見る。これをマークと二人で処理するのは聊かヘビーだろう。


「……もう少し考えて行動して欲しいな」

「すみません……」


 冷えた揚げ物は美味しくないだろう。と、味見も兼ねての昼食で満腹になるまで揚げ物だけを食べ切ってしまった。

 夕食は軽めで、カロリーの低そうなものにしようと、心に決めるのだった。


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