第13話① 適性検査
==杏耶莉=マクリルロ宅・庭==
「それじゃあ、お願いするよ」
チェルティーナとの話し合いから数日、私はマークの頼みで庭に立っていた。
「このドロップを一つずつ試すだけで良いんだよね?」
改めて確認を取るが、「それで問題ない」と返答される。
私が彼と出会った当初から一応助手という肩書だったものの、時折お使いでドロップを買いに行っていたのを除いてそれらしいことはしていなかった。
だが今回初めて、私の適性を正確に知りたいという理由で、ドロップの使用実験という手伝いらしい手伝いが実行されようとしていた。
「託宣のドロップで判明した剣と、キミが使えたという火と水のドロップは除外しているから、その中のものを試してもらえれば問題ないね」
「りょーかい」
中には危険なドロップも存在するので、それなりにマークと距離を取った状態でドロップの一つを取り出してディートする。
(……あれ? 何も感じない……)
普段ドロップをディートした際の、不思議な感覚が全く感じられない。炭酸飲料の泡が抜ける様に全身から力が消えて行く。
「ん! ふぬぅ! んー! ……駄目だ、何も出来そうにない……」
「そのドロップの適性をキミが持っていなかったってことだろうね」
マークはあっけらかんと答える。面と向かって「才能がない」と言われた気分だった。
「……因みにこれ何のドロップなの?」
「毒」
「毒?」
「毒だね」
「……あそう」
だが、物騒で使いたい様な能力ではなかったので、落ち込んだ気分は普通に戻った。
「まだまだドロップは残っているよ。 どんどんお願いするね」
「よし、任せて!」
……
次々とドロップを使っては、その結果を報告していく。
一応適性があったものは生成物を出したりしているが、剣のドロップや、火のドロップと比べて抵抗に近い感覚があったので、そこまでうまく使用できなかった。
「適性があったのは、判明していた物の他に氷、雷、短剣に傘だけだね。 殆ど似た系統のものばかりになったね」
「そうなの?」
言われてみると雷の様に、現象に近いものばかりを使うことに成功している。
「……風、岩石とかは発現しなかったけどね。 それ以外にも剣に近い短剣は適性があったのにレイピアは駄目だった。それに槍みたいな別の武器も使えないみたいだね」
「……こういう適性ってどうやって決まるの?」
「? ……それを今調べているんだよ?」
「あ、そうなんだ……」
さも当たり前だろうという態度で言われるが、私は今回の目的は聞いていなかった。
何故私の適性を調べると、ドロップの適性がどうやって決められるかがわかるのかがわからないけれど……。
「何人かに、こうして適性を調べさせてもらうことはあったけど、キミ程に偏った適性の人は居なかったね。 それでも適性保持数は多いみたいだけど」
多様な適性を持っている、才能があると言われているみたいで悪い気はしない。
「……普通の人達ってこうやってみんな調べてるの?」
「一部の貴族や富豪は片っ端から試すことはあるみたいだね。 でも、この国……いや、この世界に住む殆どの人々は自らの適性を知らない。託宣のドロップから得られる第一適性しか知らずにその生を終えるのが当たり前だよ」
「……」
「だからこそボクはその法則を調べて、その人の適性を当人が把握できるようにしたいんだ」
「そっか……」
「それが、最終目標に繋がると信じているからね」
その言葉に嘘偽りはないのだろう。何故そうまでしてドリームドロップを求めているのか……。
「……そういえば、これでドロップの種類は全部なの?」
「そんな事はないよ。 これまでの歴史において発見されているドロップのほんの一握りだね。 数百年単位で見つかってない珍しいドロップもあるから、全てを調べるのはどの道難しいんだけど……」
以前、ドロップの発現する種類が加工するまで分からないと言っていたことを思い出す。
「……ドロップの中身って決められないって前に聞いたけど、珍しいドロップって何で珍しいんだろう。 それに法則とかってないのかな?」
「……確定ではないけど、タガネが育った土地で必要とされているドロップが出来上がることが多いみたいだね。 寒い地域では火のドロップが多く排出されるし、この大陸から遠くにある乾いた土地では水のドロップがよく発現するらしいね」
「へー……」
必要とされるものが能力として現れる。その言葉に人間に都合の良すぎるものではないかと感じずにはいられない。
「当然この国で入手し易いドロップを中心に今回は調べたけど、次は別の国で産出するドロップで調べるつもりだから、その時はお願いするね」
「りょーかい」
改めてドロップという不思議なアイテムに触れて、考えるが……、私の脳ではその解明には至らなかった。
兎に角、現時点でよく使用する剣のドロップを生成できるのであれば、それ以上の理由は理解出来なくても良いのかもしれない。
(でも、新しく適性のあるドロップが知れたのは良かった)
雷のドロップなどは利用方法がわからないし、使い慣れた剣と比べると感覚が弱かった。
それに対して傘のドロップは突然雨に降られた際に便利そうなので、これからは持ち歩こうと思う。
(……あれ? でもこの世界で雨って降った事ってない……かも?)
思い返してみるものの、雲量の差で晴天、晴れ、曇りの違いこそあったが、雷雨はおろか雨にすら出くわしていない。
「……マーク、この国って雨降らないの?」
「雨かい……? 確か、雨天の節以外は滅多になかったかな?」
「雨天の節……」
今が快天の節で、その四節後ということは……一年以上間が開いていた。
(絶対降らないってことはないみたいだし、一応持っておこう、うん……)
年間雨量の多い日本の感覚のままでは良くないと、再度実感した。




