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第12話③ お嬢様との恋バナ


==杏耶莉(あやり)=レスタリーチェ家エルリーン別荘==


「それならどんな名前で呼びますか? そういえばチェチェって呼ばれることありましたよね?」


 私がそう質問すると、チェルティーナや彼女の従者たちはきょとんとした不思議そうな表情で私を見た。


「……アヤリ様、女性ですわよね?」

「何ですか急に……。 着替えの時とか見てますよね?」

「……そうでしたわね。 っと……もしかするとアヤリ様の世界では常識ではないんですの?」


 彼女は表情を普通に戻して、今度は考える素振りに切り替わる。


「……何の話ですか?」

「その……、愛称は異性間でしか交わしませんの。 ですので、同性の(わたくし)とアヤリ様の間では使いませんわ」

「そうなんですか……」


 そう説明されて思い返すが、今まで()()という愛称で呼ばれることがあった。反対に愛称で読んで欲しいとも言われたが、その何れも異性であった気がする。


「そうだったんですね。 私の世界ではそういうのはないので気が付かなかったです」

「……ですわよね。 もしやアヤリ様が同性愛者かと疑うところでしたわ」

「……そっちの気は全くないです……」

「でしたら、今後は気をつけてくださいませ。 (わたくし)の様にアヤリ様の境遇を知る者ばかりではありませんし、あらぬ趣向の方に襲われる危険性もございますので……」

「えぇ……。 き、気をつけます……」


 ここでは異性に愛称を使うのが普通で、同性に使用することは暗に恋愛対象として見ているという意味になってしまうとのことだった。


「とはいっても異性に愛称を使う事が、その相手を恋愛対象として見ているという訳ではありませんわ。 異性であれば誰に対しても愛称を使う方は珍しくありませんもの」

「……逆に、愛称を異性に使わない人ってどうなんですか?」

「特に異性に愛称を使わない方が、異性に興味がないと決まっているということはないですわ。 注意すべきは同性に愛称を使う方のみですの……」

「りょーかいです」


 両腕を組んで身震いする彼女の様子を見て、過去に何があったのか気になるものの、敢えて聞かないでおいた。


 ……


 冷えてきた紅茶が淹れ直され、彼女との話が続けられる。


「そういえば、もう少しで今節の社交界ですわ。 前回騒動ありましたので時期が少し遅れてますが、アヤリ様は参加なされますの?」


 社交界と言われても、華やかなそれよりも襲撃があったことを思い出してしまう。


「……参加の予定はないですが、出たほうが良いんですかね?」

「……アヤリ様は平民ではありませんが、貴族でもありませんわ。 参加の意思があればそれを補助するよう頼まれてましたの。 では、不参加ということで宜しいですわね?」

「……そうですね。 別に出たい理由もないですし、参加しないということでお願いします」

「わかりましたわ」


 チェルティーナが目配せすると、背後で控えていたフェンが木の板のようなものを彼女の目の前に置く。それに何かを記載すると、フェンがそれを回収した。


「……そういえば、その……。 今回も第二王子様? から参加するかどうかの話があったんですか?」

「いえ、今回は第一王子殿下からですわね。 第二王子殿下とは違って、(わたくし)の負担も踏まえて早い段階で話をしてくださるのは助かりましたわ」

「へー。 第二王子様ってどんな人なんですか? 前回の社交界で私を呼び出したのがその人なんですよね?」

「…………以前も話ました通り、第二王子殿下は日々城内で過ごしている方ですわ」

「そうじゃなくて、何で私を呼んだのかとかですよ。 会ったことがないので人となりが見えてこないんです。 何でもいいから教えてください」


 以前から気になっていたことだった。私との面識がないにもかかわらず、結果的には襲撃に巻き込まれたとも言えてしまう。


「……冗談が好きな方ですわね。 時に人をからかったりすることがありますの」


(それは意外かも……)


 引き籠っていると聞いていたので、勝手に暗い性格なのではないかと想像していたのだが、そうではないらしい。


「それ以外の情報はないんですか?」

「……笑顔の素敵な方、ですわね」


 彼女は口元を手で隠して目も泳いでいる。


(もしかして……、その第二王子のことが好きなの?)


 歯切れの悪い彼女の様子を見て、少し楽しくなってきた。私自身、恋バナは嫌いではないのでさらに問い詰める。


「他にはないんですか? 例えば……名前とか」

「……ラングリッド。 ラングリッド・エルリーン殿下が名前ですわ」

「愛称で呼んだりするんですか?」

「……目上の方にあたりますので、愛称では呼びませんわね……」

「――その人のどこが好きなんですか?」

「っ!? べ、別にお慕いしているということはありませんわ!!!! そういうアヤリ様は、気になる殿方は居ませんの?」


 矛先を変えるべく、彼女は私に話題を返す。


「私? 私は特に誰もいないですかね?」

「そ、それはズルいですわ! 例えば、一緒に暮らしているマーク様はどうですの!? あの方は見た目()()は整ってますわ!」

「うーん……、どっちかというと保護者って感じで異性として見てないですかね。 私的には年も恋愛対象外ですし……」

「では! メルヴァータ様は!? 第七隊に所属することで気になるんじゃありませんの!? あの方は見た目内面共に問題ありませんわ!」

「……隊長も年齢的になしですね。 私の世界基準としては上下六歳(二周歳)ぐらいが限度だと思ってます」


 実際は成人した後ならば年齢差は気にならないのかもしれないが、中学生の私として二十歳越えは対象外だった。

 かといって、年下の小学生も恋愛対象としては未熟であると言わざるを得ないのだが……。


「……アヤリ様は面白みがありませんわ!」

「それなら、チェルティーナさんの恋愛話を聞かせてくださいよ」

「そ、それはお断りさせていただきますわ!」

「でも――」


 珍しく話の主導権を私が握っての恋バナがこの後も繰り広げられたが、あまりにも抽象的な表現が多かったので、新たな情報は得られなかった。


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