第12話② 両方の世界の談話
==杏耶莉=レスタリーチェ家エルリーン別荘==
「待ち侘びてましたわ。 早速入ってくださいませ」
「お邪魔します」
私はチェルティーナの滞在している彼女の家の別荘へと来ていた。
出会った当初の約束として彼女に元居た世界、日本の話をする交流の場を定期的に設けていた。
「それでは内容について……。 前回はぴーしーやすまほという機器で想像の難しい話でしたので、今回は交通手段について教えて欲しいですわ」
「……こっちの交通手段というと、馬車か列車ですか?」
「ですわね。 我が国で列車という最先端技術が開発されてそれなりに経っておりますが、まだまだ話題としては目新しい事ですので、アヤリ様の話も聞いてみたいですわ」
こうして彼女からリクエストを受けてそれについての知識を話す。
と言っても、私は専門家ではないので仕組みを聞かれても答えられないことの方が多かったりするが……。
「へー、列車って最近出来たんですね」
「その通りですわ! レスプディアが誇る、三大革新の一つですわ」
「後の二つは何ですか?」
「ドロップ製品とドロップの新製法ですわね。 これに列車が加わったものがここ数年の三大革新と呼ばれておりますの」
列車とドロップ製品は知っていたが、新製法については知らなかった。
「新製法って……どんなことをしたんですか? 以前工場を見に行きましたが、あれのことですか?」
「そうですわ。 これまでは優秀な職人が手作業で作られてましたのに、それを簡単な絡繰りで可能になりましたの。 この技術だけは他国に流出してしまいましたが、それでも我が国が一番ですわね」
チェルティーナは、胸を張ってこの国のことについて自慢する。
「――っと私ばかり話をしてしまってますわ。 早く、貴方の世界について話してくださいませ」
「りょーかいです。 まずは自動車っていう――」
……
チェルティーナに私の知識の範囲で理解している事について話をしていった。
特に飛行機の話は興味深かったらしく、食い入るように聞いたのち、大量の質問攻めをされた。だが私が知っているのは精々限界まで軽く設計された機体をジェット噴射で飛ばしているというぐらいなので、大した説明は出来なかった。珍しく引き下がらない彼女が絵に描いての説明を私に求め、ない絵心が露呈したのだが……、それはどうでも良いだろう。
「――とても楽しい話が聞けましたわ」
「……なら、良かったです」
飛行機のようななにかが描かれた紙から視線を外して彼女を見ると、満足げに紅茶に口を付けていた。
マーク宅や、それ以外の場所でも紅茶を飲む機会は多く存在するが、以外にもこの場で提供されるものは甘味が低めだった。一度角砂糖を用意するか聞かれたが、それを断って以降はシュガーポットすら準備されない徹底ぶりだった。
「チェルティーナさんって、甘いの苦手なんですか?」
「まぁ! そんなことはありませんわ。 どうして聞いたんですの?」
「いや、いつも苦めの紅茶を飲んでると思ったので……」
「……それはですわね。 私、御ばあ様っこでしたので、付き添いで苦い紅茶を一緒に飲んでいるうちに慣れてしまいましたの。 普通の料理は甘い味付けも嫌いではないのですけれど、紅茶は譲れませんわ」
「そうなんですね」
そう言われれば、お茶請けは甘ったるいものが出ることがあるのを思い出した。
と、そんな話題から彼女の実家のことについて聞いてみたくなった。この建物が別荘であるとは聞いていたが、それ以外は把握していない。
「チェルティーナさんって貴族ですけど、派閥の長をやってるぐらいだから、結構大きいところなんですか?」
「……まず、この国の貴族について説明しますわね。 王族の下に属する貴族にはおおよそ四つの区分がありますわ。 大半は上級、中級、下級の三区分に分けられますわね、上級貴族や下級貴族と呼ばれますわ。 他に王族より領地を任された領主がその上として扱われますの――」
そこまで話して一拍置くと、大きく息を吸って続きを話し始める。
「そして、私の実家であるレスタリーチェ家は僅か二十二しか存在しない領主貴族ですわ!!」
「へ、へぇー」
「どうだ!凄いだろう!」と言わんばかりの彼女の姿に、空気を読んで拍手を送る。
「特にその中でも三番目に任された領土は大きく、中央の王族が収める領地と隣接している中で最大ですわ。 現在は御ばあ様が領主を、主な領地経営は御かあ様がしていますが、ゆくゆくは私がそれを継ぐことになりますの!」
「す、凄いですね……」
「ですが、領地に関わる勉強などいつでもできるが、外へ学べるのは成人までだと言われて中央であるエルリーンに来ておりますの」
チェルティーナは私の顔を見て『にこり』と笑った。
「そういった理由で領地を追い出されて早々にアヤリ様と出会えたのは想定外の幸運でしたわ!」
「それはどうも……」
初対面の日に彼女の従者であるフェンから気落ちしていたと聞かされていたが、それが理由だったのだろう。
私の存在が支えとなって、今現在うきうきな様子の彼女から喜ばれるのはそう悪い気はしなかった。
「そういえば、成人って何歳で、チェルティーナさんって今何歳なんですか?」
「成人は十五歳ですわ。 それで、私は現在は十一歳ですが、灼天の節で十二歳になりますわね」
この世界では地球の三倍で換算しているのでややこしいが、地球換算なら今年十三歳になった私の一つ年下らしかった。
「……ってことは、チェルティーナさんって私の年下!?」
「え、アヤリ様って今何歳ですの?」
「……十三歳と二ヵ月です」
「何故、節で刻んだんですの……?」
私の基準では三節=一年なので同年代とは言えなかった。
「……背は兎も角、顔つきが幼いので年下だと思ってましたわ」
「しっかりしてるので、私もてっきり年上かと……。 ちゃん付けで呼んだ方が良いかな?」
「……それは止めてくださいませ」
彼女にしては珍しく、動揺した表情で断られた。




