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第12話① ランケットの人達


==杏耶莉(あやり)=ノービス教会エルリーン支部==


「――以上で講義を終了します」


 その言葉に合わせて私を含めた生徒達が立ち上がる。


「「「「ノービスの加護があらんことを」」」」


(結局、今日も来なかったなー……)


 ベージルでの騒動から日が経ち、エルリーンでそれまで以前の生活をして過ごしていた。

 当然この町で定期的に開催される教会の講義にも参加しているのだが、今回と前回の講義で一度も欠席していなかったサフスの姿がなかった。


(……別に約束してるわけじゃないから良いんだけどね……)


 講義の後は、彼と共に文字の勉強をするのが日課になっていたので、寂しさを感じる。

 とはいえ、一般的な識字能力はもう身についているので、辞め時として丁度良かったのかもしれない。


(早めに終わる分、買い物して帰れるし……、いい方向に考えないと)


 本日は午後にも予定があるので、急ぎ足で食材を買い足しに露店の出ている市場へと向かった。


 ……


「あ、あの少女じゃん!」

「あ……」


 露店で買い物をしている途中、武器を持った二人組の男性の片方に指差される。片方は短剣、もう片方は長い武器を所持していた。

 驚いた拍子に幾つか果物を地面に落とすが、それを長い武器を持った方の男性が拾い上げる。


「オレ達は事を構えるつもりはな――」

「すみませんでした!」

「なっ?」

「へっ?」

「……え?」


 以前の一件を改めて問い詰められると思った私は深々と腰を折るが、それに対して彼らは疑問の声を上げた。


「? 何で君が謝るじゃんね?」

「え、怒ってるんじゃないんですか?」

「……よくわからんが、一先ず端に寄ろうな。 この位置だと往来の邪魔になるからな」


 周囲を見渡すと、「何事か?」と周囲の注目を浴びていた。


「そうですね……」

「じゃあ、こっちじゃんね!」


 短剣の方の男性が店の出ていない壁を指差すので、そこに寄る。


 壁を背に寄り掛かった、長い武器の方の男性が話し始める。


「もう一度言うが、オレ達は事を構えるつもりはないと思ってほしいな」

「……私もそのつもりはないですね……」


 その言葉に胸を撫で下ろすと、もう一人の男性が口を開く。


「じゃあ、まずは自己紹介じゃんね。 オレはラッヅじゃんね!」

「オレはガルロだ。 宜しく頼むな」

「は、はい……。 私は私は春宮(はるみや) 杏耶莉(あやり)です……」


 彼らの名乗りに失礼がないよう、私も自己紹介をする。


「あヤリ……? アヤちゃんでいいじゃん。 でアヤちゃん?」

「何ですか?」

「ランケットに興味はないじゃんね?」

「ないです……。 私――」


 どうやら彼らは私を自警団にスカウトしたいらしい。既に騎士団の見習いとなっていることを告げると、彼らは落胆の声を吐き出す。


「残念じゃんね。 ……やっぱりそう上手くいかないじゃんねー」

「……だな」

「ええと……、怒ってないんですか?」

「怒るって、何にじゃんね?」

「その……、以前攻撃してしまったことについてです……」


 以前勘違いだったとはいえ攻撃を仕掛け、剰えガルロの武器を破壊までしていた。私はその事を今の今まで後悔していたのだった。


「オレは別に何も損失してないじゃん? それに――」

「オレは確かに鉾が破壊されたが、それはある騎士に破損品と交換で新しいものを用意してもらっていたからな。 寧ろ前のものより良質だから感謝したいぐらいだな」

「そ、そうですか……」


 ある騎士とは第七隊のことだろう。最初に宿舎に呼ばれた際にその破壊した鉾とやらをメルタ隊長が見せてきていたのだが、裏でそんな事が行われてたらしい。


「……って言っても、折角ランケットのメンバー増員政策でスカウトすると紹介料が貰えるのに、アヤちゃんが騎士団に入ってるのは残念じゃん」

「だな。 あの能力は十分な素質だと思うから残念だな」

「あはは……」


 私はその会話に乾いた笑いで返す。どの道、男性色の強そうな自警団のメンバーになる勇気はなかったりする。


「そういえば、あの時の女の子! 別の働き先が見つかるまで、ランケットの酒場で預かることになったじゃんね!」

「……そうですか」


 その女の子には、カティを呼びに行った際に出会っていた。しかし、助けておきながら身勝手だと思われてしまいそうだが、その女の子に対して特に興味がなかった。


「母の病気を治すために、懸命に働いているようだな。 あの年で立派だな」


 家族の為に努力する。なんて話はどこの世界でも美談のように語られるが、それは当たり前の事だと私は昔から感じていた。


(寧ろ親孝行ができるだけ幸せだよね?)


 にもかかわらず、窃盗という犯罪行為を犯した少女が何故そこまで周囲から褒められるのか理解できなかった。


「小さな女の子を守ろうとして剣を握る。 とても簡単に出来ることじゃないじゃんねー」

「だな」


 そんな話題の中で私の特殊な剣について彼らが触れる。その際に、あまり郊外しないようにと騎士団で言われていたことを思い出した。


「あ! そういえば、私の剣について、あまり喋らないで欲しいんですが……、それってお願いできます?」

「へっ? ぁー……」

「……気をつけてはみるがな……」


 目を逸らす二人組。その様子から拒否されたのかと思い、聞いてみる。


「駄目……ですか?」

「駄目ではないのだがな……」

「……もう結構、喋っちゃったじゃんね……」

「マジですか……」


 今更問い詰めても仕方がない状態に、私は目を覆って空を仰いだ。


「せめて、これからは話さない様にお願いできますか?」

「あぁ、それは可能だな」

「ま、任せろ……じゃん」

「お願いします……」


 殊の外話し込んでしまって為、それなりに時間が経過していた。午後の予定もあるので、話を切り上げてマーク宅へと帰った。


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