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第11話④ シュワークの顛末


==カーティス=シュワーク・地下の道==


 地面をそのままくり抜いたような簡素な設計ではあるものの、それなりに頑丈に固められた土壁に挟まれた地下の道を進んで行く。

 方角的には湖から反対方向へと進んでいるらしい。浸水の恐れを考慮すれば当然の話なのかもしれないが……。


「息苦しいな~」

「……だな」

「……」


 人が二人すれ違うのも厳しい程に狭い通路は澱んだ空気が充満しているからか、グリッドの言う通り息苦しさを感じる。


「どうしたサフィッド~?」

「……この通路。 ヴェルカン製法が用いられてる」

「ヴェル……? どういう事だ~?」

「……素人目でも歪んでるってわかるけど、そういう技術を知ってる人が関わってる」


 ヴェルカンとは、南西の島国のことだったはずだ。そういった分野の知識もサフィッドが持ち合わせていることに驚く。

 そんな会話をしながら道を進んで行くと、ある地点から嫌な感覚を覚えた。


「……死臭がする」


 その俺の言葉に、二人は顔を引き締めて歩みを進める。その後も道なりに進んで行くと、開けた場所にたどり着いた。それと同時に腐敗した肉と血液が混ざり合った嫌な悪臭が鼻を突く。


「な、なんだ貴様ら!? どうしてこの場所が分かった!!」


 複数人の黒い衣装に身を包んだ者達が、吊り下げられた人らしきものの前で何かの作業をしている。


「っ……!?」


 吊り下げられたそれらから、血液を搾り取る様に血が垂れて下の容器へと注がれていた。


「うっ……ごえっ!」


 背後でサフィッドが胃の中身を吐き出す音が聞こえた。そういうものを見慣れた人間でも悲惨だと感じる光景なので、仕方がないのかもしれない。


「お前ら、此処で何をしてるんだ……?」


 普段のような気の抜けた話し方ではない口調で、グリッドは黒い者達へと質問する。


「質問しているのはこちらだ! この場所にどうやって侵入した!!」

「そんなことよりも――」

「無駄だグリッド。 こいつらと会話しても仕方がないだろ? ダルクノース教だ」


 主張の激しいシンボルを掲げたこの黒色の集団と、まともに会話ができる自信はなかった。


 懐からレイピアのドロップを取り出してディートする。その行動を敵対意思として捉えたのか、教徒達も各々でドロップを持ちだした。

 既に戦闘不能なサフィッドを下がらせて、グリッドが何かのドロップをディートしたのを見届けたところで、戦闘を開始した。


「勇者のような姿で我らと争おうとするとは、万死に値す――ごぶっ……」

「うるせぇよ」


 迷いなく心臓を一刺しして絶命させる。このような惨状を見ているからか、加減の必要性を感じない。

 横目でグリッドを見ると、見事な身のこなしで放たれた雷撃を避けて、全体重を乗せた蹴りを首筋に落としていた。


「我らの正義を――がっ……」

「喋んなよ……」


 ……


 元々遠距離で戦うようなドロップばかり使用するので、通路程でないにしろ狭い地下ではまともな勝負にすらならなかった。

 意図的に残した一人を除いて絶命した教徒達を無視して、吊るされた人を見る。


「ひでぇな……」

「……」


 殆どの吊るされた人は既に意識がなく、現状では生きているかさえわからない。

 唯一意識のあった一人の青年を見つけるものの、両腕は殆ど壊死した色をしていて、足も絞られたように捻じれていた。今助けても歩けるようになるかどうかすらわからない程に残酷な仕打ちを受けていた。


「……助けても、この後のことを考えるとここで楽にしてやった方が――っ!?」


 俺は、そこまで言いかけたグリッドの胸倉を掴む。


「それを決めるのは()()じゃないだろ?」

「そう……だな」


 無理やりグリッドを説得して、頷いた彼の胸倉を離す。


「一先ず、応援を呼んできてくれ。 俺は彼らを降ろしとく」

「あ、あぁ」


 そう答えて地下の道を引き返すグリッドを見送ると、一人ずつ丁寧に床へと降ろしていった。


 ……


 降ろした人達を身近なもので応急手当てした後、この地下の中を見て回った。体調の悪そうなサフィッドも付いて来ると言って聞かないので、共に歩いている。


「……これは!?」


 硬い地下の地面を掘り返して柔らかくした土に、タガネの植物が植えられていた。そして、それに与えられていた水分は赤黒い液体らしい。

 ドロップの原料となるタガネは、育った環境等でその花に違いが現れる。だからこそ、産出国による違いなどが存在する。

 それを踏まえたうえで、苦しみながら搾り取られた血液を与えられたタガネがどのような花を付けるかなど想像もしたくなかった。


(酷いことを考え付いたもんだな……)


 この場に生えたタガネを全て引っこ抜いて、再利用できない位に踏みつぶして処分した。

 その後も不要だと言わんばかりに放置された失踪者達の変わり果てたそれを見つけたが、手を触れずにその場を離れた。


 ……


 今回の顛末として、助けられた失踪者は三名のみで、それ以外の十七名は遺体として見つかった。

 その助けられた三名も五体満足とはいかず、これからの人生で大きなハンデを背負っていかなければならないだろう。

 事件自体は俺の勘だよりだったとはいえ、到着した初日に解決したものの、その後の事後処理を手伝ったので数日間の滞在をしてこの町を離れた。


 入口を見張っていた男も、生き残らせていた一人も、何も喋ることなく舌を噛んで自害した。

 今回接触したダルクノース教の残党の目的は、何かしらのドロップを得ることだったのだろう。そのドロップが何だったのかは結局わからなかった。

 とはいえ、あのまま育てられたタガネを潰したのは正しかったと思っている。だが、既に幾つかのドロップが加工された形跡も存在したので、そのドロップが後々別の場所で利用される可能性があることは気をつけなければならないだろう。


「カーティス……」

「何だよ?」

「今回も助かった。 お前が居なければ、オイラは合理性を優先して犠牲者が増えていたかもしれないし、生存者も助けられなかった」

「……」

「この国の民を救ってくれてありがとうな」

「……俺は、俺のすべきことをしただけだぞ」

「そうか……」


 当初こそ慣れない惨状に気分を害していたサフィッドも、途中からはしっかりと手伝っていた。

 その疲れからか馬車内で眠っている彼の顔から目を逸らして外を見ると、雲一つない青空が広がっていた。


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