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第11話② シュワークでの聞き込み


==カーティス=シュワーク・入口==


 サフィッドの読書欲を抑えながら、ようやくシュワークの町に到着した。

 大きな湖に近づいたからだろうか、町の方角から流れてきた冷たい風が顔に触れて爽やかさを感じる。


「一先ずこのまま宿に向かうぞ~。 事前に連絡が届いてるから泊まれるはずだ~」


 数日間野宿を余儀なくされたので、ベッドで寝られるのは有難い。身動きが出来なかった反動で凝り固まった肩を軽く回す。

 その隙を逃さずに手に持った本を開こうとしたサフィッドの手を再度抑えた。


「……止めて」

「もう少しで到着するんだから、我慢してくれ」


 じたばたと暴れるサフィッドを抑えながら町中を見渡すが、中年以上の町民が見かけるものの、子供を含めた若者の姿が見当たらない。


「グリッド、この町って住んでる人間の平均年齢が高いってことはないよな?」

「……そうだな~、特にそういったことはないはずだぜ~」

「だよな……」


 慣れない様子で水瓶を運ぶ中年女性を見送りながら、馬車は宿に辿り着いた。


「――では、私はこの子と馬車を預けてきます」


 オウストラ商会所属の御者の青年は宿の裏手にある馬宿へと消えて行く。俺達も宿に荷物だけ降ろすと、詳しい話を聞きに町長の家へと向かった。


 ……


「遠路遥々ランケットの皆様、お尋ね頂きありがとうございます」

「一応国からの頼みってんで来てるだけだ~。 あんたが気にすることはないぜ~」

「いえいえとんでもない。 事件の調査をしに、早い段階で動いていただけるとのことでしたので、感謝しておりますとも……」


 小太りで初老のいかにもというこの町長は、グリッドに謙った様子で話を始める。あまり顔色が優れないみたいなので、本当に困っていたのだろう。彼の様子から、感謝の感情が伝わる。


「で、早速本題に入ろうか~。 知る限りで良いからまずは情報が欲しい」

「情報……ですか?」

「色々あるだろ~? 失踪した年齢や、男女比率。 姿を消した時間帯に場所、とかな」

「そうですね……。 姿が見えなくなった若者は十四歳から二十一歳の間の者に限られます。 男女比は男性九名に女性十三名……そこまで差はありません」

「……男の失踪者も多いな~。 ……性的欲求を満たすために攫われた可能性は低いか」

「それで、詳しい時間帯はわかっておりませんが、失踪者は夜中に出歩いた者が多いです。 日中に消えた者もおりますが……。 場所はわかっておりませんが、少なくとも特定の位置だけということはありません」

「なる、ほどな……。 カーティスとサフィッドはどう思う~?」


 突然話を振られるが、気になっていたことをまずは聞いてみる。


「俺か? ……自分の意思で居なくなった可能性はないのか?」

「それはあり得ません! 全員ではありませんが、家族仲が良好な者や、要職に就いている優秀な者が何も語らずに姿を消すなど……」

「そうか……」


 そこまで一言もしゃべっていなかったサフィッドも話に加わる。


「……この町、半分以上が湖に囲まれてるけど、知らない馬車とかって通った? それか船も」

「知らない馬車……? いえ、失踪者が現れてからは見張りを立てるようにしていますし、そのような馬車の行き交いは確認しておりません。 船も全て管理しているので勝手に使用するのは難しいかと」

「検問も厳しくしなってるはずだ。 捕らえた人を運び出すのは難しいと思うぜ~」

「……そう」


 おそらく、サフィッドは奴隷として攫われた可能性を危惧したのだろう。売り飛ばす際に年齢が低い方が高価格で取引される。

 この国で奴隷は禁止されているが、国境さえ越えてしまえば問題にならないのだ。


「……そこまで分かってるなら、町中に居る可能性が高いってことだろ? それでも見つかってないってことか?」

「そうですね。 徒歩でなら町の外に出た可能性はありますが、そうでなければ失踪していないはずなのです」


 困り顔でそう語る村長。ともあれ聞けることは聞けたので、それについて相談する。


「俺は町中に残ってる可能性が高いと思うんだが、お前らはどう思う?」

「オイラは出て行った可能性も捨てきれないと思うんだが……、取り敢えずそれで進めるか~」

「……僕はカーティスと同意見」


 話が纏まったところで、調査方針をグリッドが決める。


「村長、失踪した奴のリストか何かを貰えるか? その家族にも話を聞きたい」

「承知しました。 御用意しますので、少々お待ちください」


 そのリストを受け取って、聞き込みを開始した。


 ……


 リストを頼りに聞き込みを進めて行く。若い失踪者の家族ということで大半がその親に当たるが、村長の時に聞いた情報以上のものは得られずにいた。


「次は~、ここだな」


 この町でもあまり裕福そうには見えない家に到着する。そこの庭に居たのは、馬車で移動中に見かけた水瓶を運んでいた中年の女性だった。


「あら、貴方達は?」

「……エルリーンから来た、今この町で発生してる事件を調査している者だ~」

「! 本当ですか!? あの子は、あの子は見つかりましたか!?」

「あ、いや。 まだ見つかってない……」

「そうですか……。 すみません取り乱して……」

「……話を、聞かせてもらえるか?」

「はい……。 ワタシは足が悪くて、それに旦那にも先立たれてます。 それなのに、文句の一つも言わずに毎日水運びをして仕事で稼いだお金もワタシの治療にって……。 そんな良い子なのに、突然この町を抜け出すような子じゃありません……」


 途中から涙声になりながらも、そんな話をする女性。実際に足は良くないらしく、馬車で見かけてからそれなりに時間が経っているにもかかわらず、まだ水を運び終えていなかった。


「……良ければ手伝うぞ」

「あ、ありがとうね……」


 自然とその言葉が出ていた。重たい水瓶を運び入れてから話の続きを聞いた。


「で、ばあちゃん。 その~息子さんの行きそうなところに心当たりはないのか?」

「……夜遊びをしない子だったので、それもわかりません。 ですが、居なくなった日の事でしたら……。 あの日は暗い時間に野草を取りに行くと出かけてから戻りませんでした……」

「野草か……。 それって、どこにかわかるか~?」

「この家から少し東に行ったところに、町中で使われていない土地があります。 そこにこの時期なら食べられる野草が生えるので、偶に摘ませてもらうことがあったのです……」


 申し訳なさそうにそう話す女性。おそらくその土地の持ち主である町長に許可を得なければならなかったのだろう。この家の困窮具合を見れば、そういった行為をしていてもしょうがないのかもしれない。


「ここから東の空き地だな~? ありがとうな、ばあちゃん」

「どうかあの子を……、あの子をお助けください……」


 縋る気持ちで俺達に頼み込む様子の女性に別れを告げてその空き地へと向かう。


「……助けよう」


 珍しくサフィッドから話を振られる。その一言に俺とグリッドも賛同するように頷いた。


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