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第10話⑧ 不器用女性騎士


==カーティス=ベージル・非合法集団拠点前==


「よくやってくれた、カーティス君。 では、第七隊、探索開始!」


 発生源である裂け目の消滅を確認した後、建物内の残った影霧を外部に放出することを最優先に動いた。その後で、やっとのことで感染経験者でなくても動き回れる状態になっていた。


「君は疲れているだろう? 少し休んでいてもらって構わない」

「いや、それには及ばない。 調査には参加するさ。 専門ではないが、俺にしかわからんこともあるかもしれないしな」

「そうか。 ではお願いしよう」


 以前も感じたことだが、一騎士であれば兎も角、隊を任されるまでに昇格した隊長の態度としては傲慢さや侮りを感じないので好意的な印象を受ける。やはり身分や年齢よりも実力を重視している、ということなのだろう。


 俺自身は建物内を一通り見回っていたが、裂け目を除いて、特別異変を感じる所は見つけていない。

 そもそも、裂け目が建物内に発生するというのは前例がないらしい。それだけの原因がどこかにないか調べることになっていた。

 地下の調査は隊長が受け持つことになったので、俺は別の部屋を見て回ることにした。


「カティーさーん。 今回大活躍ですねー」

「……探索に集中しなくていいのか?」


 背後から話しかけてくるマローザは、あまり周囲を気にしない様子で俺に話しかける。


「……といってもですねー、私は何が怪しいとかわからないんですよー」

「マローザにしか――」

「――そういえばカティさんは名前を愛称で呼んでなかったですね。 折角ですから気安くマロちゃんさんとかマロお姉ちゃんとかで呼んでくださいよー」

「……()()にしか気が付けない違和感とかがあるかもしれないだろ?」

「そういうものですかねー。 ……って、流石に呼び捨ては照れますよー」

「……」


 両頬に手を添えて、わざとらしく恥ずかしがるしぐさをする。声のトーンから本気ではなく、からかっているつもりなのだろう。


「……やっぱり全然効きませんねー」

「お前、普段からこんなことしてるのか?」

「……しませんよー。 ……そんな変な人間を見る目で見ないで下さいよー……」

「じゃあ、時折俺を探るように見てくるのと関係してるのか?」

「……何のことでしょう?」

「目的次第によっては、ここで今回の遠征の協力を打ち切らせてもらう」

「……それは困るので正直に言いますとー……、その年齢でそこまで強い秘密を探ろうとしてただけですねー」

「……それはあの隊長の指示か?」

「! …………」


 彼女は、わかりやすく視線を逸らす。図星という事なのだろう。


「……諜報に向かないお前に任せた、あの隊長の人選ミスだな」

「私は無理そうだなーって思ったんですけどねー……」


 隠すことを諦めたらしく、マロは正直に話し始める。


「今回の遠征でカティさん、貴方の素性を探ってくれと指示されてました」


 騎士団の隊長には伝えられていないだろうが、この国のトップである第一王子は俺の素性について気付いていた。

 おそらくだが、メルヴァータの独断で前回の襲撃で活躍し、今回の遠征に参加している俺が危険人物でないか調べようとしたという事なのだろう。


「……具体的なことは俺じゃなくて、第一王子様辺りに聞いてくれ。 それと、少なくともこの国をどうこうするつもりはない」

「……それは信じていいんですね?」

「あぁ、それは間違いない。 女神ノービスに誓ってもいいぞ」

「……私、ノービス教じゃないですー」


(この国では本当に広まらないな……)


 かく言う俺も、敬虔な信徒ではないので人のとは言えないが……。


「まー、わかりました。 それで隊長には伝えておきまーす」


 謝罪の意味を込めてか騎士特有の敬礼をして、「建物調査に集中しますねー」とマロは去っていった。


 ……


「しっかし、何も見つかんねーな」

「ですよね」

「……」


 隊の中で最年長と思われる中年の男性ゾロギグドと、物腰の低い男性ジャッベルがそんなことをぼやいている。


「カーティス君は何か見つけました?」

「……ないな」


 建物内の物をひっくり返す勢いで物色しているが、影霧発生の原因と思われる裂け目、それが発生した原因と思われるものは見つけられていない。


「もうねぇだろ。 あとは隊長とマロちゃんの見てる地下か……その金庫だな。 ノアック、開けそうか?」

「もう少しだ」


 大きめの金庫が隠し壁に埋め込まれているのを見つけたまではいいか、それを開く鍵がなかった。

 無理やり破壊することも考えたが、強い衝撃はこの建物の倒壊につながる可能性があったので、それを避けてピッキングができるノアックに一任されていた。


「……………………開いたぞ」

「やるじゃーん。 流石ノ・ア・ッ・ク☆」


 『カチッ』という音と共に一仕事終えたノアックが額の汗を拭う。


「早速開けちゃおうぜ」


 ライディンがその金庫と扉に手を掛ける。重い扉が動き始めた瞬間、俺の感が強い危険信号を鳴らす。


「――っ、皆伏せろ!!!」


 俺がそう叫ぶのと同時に激しい轟音を発し、金庫から大量の影霧が噴き出して金庫の扉を破壊する。


「のわーっ!」「「ぐっ!」」「うわっ!」

「こいつは……」


 建物の一部を吹き飛ばしながら飛び出した黒色の霧の中には、微かに人影が見える。ゆらゆらと揺れながら、影霧がその人影に集まっていくと、一人の男性が姿を現した。


「ぬ……ぐ、ぐ……。 ぐおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!!!!!」


 明らかに正気ではない男性が獣のような唸り声を叫ぶ。

 空を仰いでいたその男性は俺達を見つけると、体から触手のように生やした影霧を振り回して襲い掛かってきた。


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