第10話⑦ 影霧発生源・怪しい男性
==カーティス=ベージル・非合法集団拠点内==
建物内に入るがどこを向いても影霧によって視界が閉ざされ、まともに身動きすら取れない。
(面倒くせぇ……)
風のドロップをディートして、今しがた入ってきた扉から外に吹き飛ばす。
一時的に何とか建物内の状態が見えるようになるも、すぐに奥から漏れてくる影霧によって黒色に塗りつぶされる。
(これじゃあ切りがないな。 仕方ない……)
早々に風のドロップで視界を確保することを諦めて、光明のドロップをディートする。レスプディアでは入手困難なドロップだったが、これを出し惜しみしても仕方がないだろう。
手をかざして明かりを生成し続ける。それでも尚視界全ては開かれないが、歩き回るには十分な明るさが確保された。
(この中で爆発でも起きたのか?)
比較的新しい建築物らしく、しっかりとした造りではあるものの、壁には大きなひび割れが走っている。これだけの損傷では、近い未来倒壊することは免れないだろう。
影霧の発生源をどうにかしなければ、探索もままならない。黒色の霧がゆっくりと流れてくる方向を辿るように歩みを進める。
(感染の恐れがないとはいえ、流石に息が詰まるな……)
噴き出しているそれを逆流していることもあり、大量の影霧に晒される。
足元に注意しながら歩いているからか、何度か曲がり角の壁にぶつかりそうになりながら、建物の中心辺りで地下への入り口を見つける。
「……ここか?」
影霧の流れを見るに、どうやらこの地下から流れ出ているらしい。手元の明かりを近づけるが、暗い地下を照らすには不十分で、奥までは見えない。ドロップのエネルギーも有限なので立ち往生するわけにもいかず、意を決して階段を一段ずつ降る。
(中は……、そこまで広くないんだな)
地下へ降りて周囲をしっかりと照らすと、破壊された木棚と割られた小瓶が散乱していた。どうやら倉庫として使われていたようだった。
狭い通路をそのまま進んで影霧の出所を辿ると、そこに見えたのは――
「裂け目……か!?」
空中にガラスが割れたような亀裂が広がり、そこから黒色の霧が溢れ出ていた。
俺の知る裂け目とは異世界から人や物が転移してくるものだが、それとは明らかに質が違っていた。
(どうするべきか……、あれ?)
裂け目の目の前で腕を組み考えを巡らせていると、突然その裂け目が収束していく。
見る見るうちに小さくなって、最後に完全に閉じられるのと同時に影霧の放出も終わる。
「……よくわからんが、これで動けるか……?」
何はともあれ、これ以上影霧が増えることはないらしい。騎士達に詳細な探索を任せるべく、当初の予定通り建物内の黒い霧を外に追いやる作業を開始した。
==杏耶莉=ベージル・スラム街==
精神的落ち着きを取り戻した後、スラム街の中央へと改めて向かっていた。
(…………)
最善の方法であると頭で理解していても、それでも助ける方法があったのではないか。そう考えを繰り返し続けて走っていると、反対側から一人の男性が歩いて来ていた。
(騎士……には見えない。 何者なんだろう?)
黒色の衣装を全身に纏った男性が、一瞬感染者である可能性であると頭に過ぎる。しかし、彼からは黒色の霧は出ておらず、私をまっすぐ見据えて平然そうに歩く姿は至って健康そのものであった。
「……誰?」
現在この町では外出禁止令が出されており、本来危険地帯とされるスラム街に一般人が出歩いているはずがない。
危険人物である可能性を考慮して、私はディートした後に剣を生成して構える。その様子を見た男性は、敵意がないことを示してか両手を上げる。
普通に会話ができる距離まで近づくとその男性はゆっくりと話し始める。
「おいおい、そんな敵意剥き出しで構えないでくれよ」
「……ここで、何をしてるんですか?」
「家に帰る途中で道に迷っちまっただけだ。 こっちだって被害者なんだよ」
「被害者? この町の住民ですか?」
「……そうだな。 ここに住んでいる至って普通の人間だ。 で、表の通りに出るにはこの道でいいのか?」
「は、はい。 この道をまっすぐ進めば大丈夫です」
「へーい、ありがとさん」
「……幸い感染してないみたいですが、今この町は警戒態勢です。 なので、早く帰宅してくださいね」
「あ? あー、そうするそうする」
(……何なの? この人……)
気の抜けた返事をして、怠そうに手を振りながら私が来た道を引き返していった。
……
謎の男性と別れた後、速度よりも丁寧さを優先して中央へと向かっているらしい第一隊の人達とは、そう時間をかけずに合流することができた。
どうやら、第七隊が調査をしている建物へと集まるよう指示がされているとのことなので、そこへと騎士達とともに向かった。
建物へと到着すると、その建物の探索はそれなりに進んでいると聞かされる。その建物からは黒色の霧が大量に溢れ出ていたらしいが、現在はその名残も見られない。
(要保護者はどこに……)
周囲を見渡すが、それらしき人達が集められている場所は見当たらない。
そんな折、手を振って近づいてくる一人の男性に気が付く。
「おーい、アヤちゃーん。 っと……こっちに来ていたのか」
「……メイリースさん。 他の第七隊の方はどうしました?」
「この中の探索だよ。 オレは侵入するタイミングを逃して待機中だ」
「そうですか……」
知り合いと出会えたことで少し安堵する。
「治療の方に参加していたんだろう? どんな状態なんだ?」
「それがですね――」
その説明をしようとした矢先、探索が行われている建物から大きな轟音と共に屋根を突き抜けて大量の影霧が飛び出した。




