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第10話④ 曲者揃いの隊員達


==カーティス=ベージル・中央大通り==


(重傷者ばかりだな……)


 マローザが末期症状の人を剣で叩き斬り、残った霧を俺が風のドロップで霧散させる。


「ぜーんぜん、要保護者いないですねー」

「そうだな」


 迷いなく感染者を処理していく彼女にドン引きしつつも、的確に仕事をこなしているので不満はなかった。


「たまに喋る感染者もいますけど、どっちかというと死体を斬ってるみたいな手ごたえなんですよねー」


(まるで、死体を斬ったことがある、みたいな物言いで話すな……)


 この数時間だけでとはいえ、共に行動して彼女が変わり者であると断言できる。人を殺すことに一切の躊躇がないのだ。


「よくもまぁ、この惨状でそう呑気な会話ができるんだ?」

「それは……、私が騎士になってから影霧の遠征も四度目ですからねー。 嫌でも慣れちゃいますってー」

「そんなにか……」


 最初に確認された影霧は五十年程前だったが、確かにこの国での発生が多いとは聞いていた。


「特に、私達第七隊と第三隊はよく駆り出されますからねー。 私含めた第七隊の隊員は慣れてますよー」

「……お前らも大変だな」


 騎士団の第三隊とは、当時の記憶から変わっていなければ救護能力に長けた騎士隊だったはずだ。


「確かにこっちも大変ですけど、半端に重症化していないあっちも大変ですよねー。 後方支援の方に向かったあの子、大丈夫かなー……」

「……」


 感染者とはいえ稀に立ち直る者がいるのも、ある意味厄介な部分と言えた。


「もう少しで合流地点ですねー。 もう一踏ん張り、頑張りましょー」

「そうだな」


 ……


 道の合流地点。そこに第七隊含む幾つかの隊が集まっていた。


「第七隊はこれで全員か……、第五隊はまだ集まってないみたいだな」


 メルヴァータ隊長が点呼を終えて他の騎士隊の隊長へと報告に向かう。

 今回の遠征は第一、第三、第五、第七の隊が招集されているらしい。騎士隊別に塊で集まっているので俺は第七隊の輪に加わっていた。

 第七隊は少数精鋭というだけあって、この場には隊長含め七名しか居ない。尚、副隊長は元々戦い向きではないらしいので、後方で避難誘導等をやっているとのことだった。


「で、マロ嬢ちゃん。 この小僧は戦えてたのか?」

「ぜんぜん動けてましたねー。 流石はランケットからの推薦ですよー」


 ゾロギグドという中年騎士とマローザがどうやら俺の話をしているらしい。


「だが、激しくないとは言っても、こんな悲惨な前線に来てて大丈夫なんだろうな?」

「平気ですよー。 私の胸を見る余裕がありましたしー」

「――ちょっと待て、それはお前が勝手に言っているだけだろ?」


 流石に謂れのない話をされていたのでその会話に割り込む。


「……そういうのに興味を持つ年頃ではあるな」

「そーなんですよー」


(まだ早いだろ……)


 俺はまだ十になったばかりだ。そういうのに興味を示すのはもう少し年齢が上ではないだろうか。

 その話題に食いついた、興味のある年頃らしい別の隊員が会話に混ざる。確か名前は……ライディンと名乗っていたはずの男性だった。


「マロちゃんの胸の話をしてるんすか? オレも混ぜてくださいよっ。 確かに、マロちゃんのはデカいか――」

「――ラディ君? 斬られるのと、氷像になるの。 どっちが良いですかー?」

「じょ、冗談だってわかってるっしょ? ……剣に手を掛けないで貰えないでしょうか」

「んー?」


 ライディンへとにじり寄るマローザから距離を置き、ゾロギグドの隣に下がる。


「小僧、こういう大人になるなよ……」

「……そのつもりだ」


 遠征中とは思えない緊張感のないやり取りが、メルヴァータ隊長が戻るまで続けられた。


 ……。


「では、今回の影霧はスラム街からの発生とみて間違いないということでしょうか?」


 ジャッベルという生真面目な騎士が、メルヴァータの話を要約する。


「そうだ。 この町の裏側で勢力を増していた非合法集団。 その建物から大量の影霧が確認された。 どこから現れるか突き止められていなかった影霧の発生源を見つけられたのは、今後の対策に役立てたい。 建物の探索を我が隊で引き受けたので、最短ルートで向かうことになる」


 原因不明の病。その秘密の一端を解明できるかもしれないという話に、気持ちが引き締まる。


「先行はライディンとノアック。 道中感染者を見つけても、対処はしなくて構わない」

「了解っす」「承知」

「スラム街は今いる場所より感染が広がっているらしい。 万が一要保護者を発見した場合は、ゾロギグドとメイリースで頼む。 スラムの入口に第五隊の騎士が引き継げるよう待機しているので、そこまで連れて行ってくれ」

「承知した」「わかりました」

 重傷者の処理は私、ジャッベル、マローザ、カーティス君で担当する。 カーティス君は風のドロップでの霧散に集中してほしい」

「「はいっ!」」「わかった」

「では、作戦開始!」


 メルヴァータの号令で一斉にスラム街のある方角へと動き出す。全体的に癖の強い隊ではあるものの、いざという時はこうして統率的に動けるのは、栄えあるレスプディアの騎士というだけのことはある。


 高速度で町を駆け抜ける中、早速感染者と思わしき人を見つけたらしい。


「要保護者一名っす!」

「任せろ」


 ライディンがそう叫ぶと、ゾロギグドが返答する。ゾロギグドは半ば無理やりその感染者を担ぐと、進んできた道を引き返した。


「次、重傷者三名」


 ノアックという騎士が脇道の一本を指出しながら指示を出す。


「対処しまーす」


 マローザはディートすると、氷の槍を何本も生み出してその道に打ち出した。


「カティさん!」

「――あぁ」


 風のドロップで串刺しとなって横たわった人達から発生した黒色の霧を吹き飛ばした。


「見事だ、カーティス君」

「……どうも」


 こんなやり取りをしつつ、高ペースでスラム街の中心にあるという建物へと進んで行った。


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