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第1話④ 闘技大会


==杏耶莉(あやり)=高級ドロップ店・ノルディニッシュ==


 採寸室を出ると、マークと男性店員が話を続けていた。


「予定していた日付より早く来店したのに全て揃っているなんて、やはりこの店は良いね」

「恐れ入ります」


 そんな話をしながらマークは手元で書いていたメモのようなものを店員に渡し、それを店員も受け取る。注文票か小切手だろうか。

 やはり文字が読めないのは不便だと感じるので、先を見据えて文字習得を視野に入れた方が良いのかもしれない。どのみちあのメモはここからは見えないのだが。


「ああ。採寸はできたかい?」

「は、はい」

「……実はこの世界はそこまで治安が良いとは言えないんだ。 だから護身用にドロップを携帯してほしい」

「そうなんですか?」

「残念なことにね。 それでもこの国、この町は安全な部類なんだけど、それでも念のためにね」


 どうやらこの店に先に寄りたいというのは私の安全が理由だったらしい。


「剣なんか持っても使えないですよ?」

「第一適性だったということは才能はあるはずだよ。 それに、最悪ドロップを持っているだけでも抑制力になるから」


 そこまで言われると断るべくもなく、素直にその提案を受け入れることにした。


「ベレサーキス様。 ハルミヤ様用のポーチと剣のドロップが御用意できました」


 会話の途切れたタイミングに合わせて男性店員が横から現れる。


「失礼致します」


 男性店員の隣にいた女性店員が採寸の時同様、私の腰にポーチのベルトを巻き、金具を止める。

 きつすぎず、緩すぎない絶妙な締まり具合に、軽く動いても邪魔にならない位置にポーチが収まっている。

 ポーチの蓋を開けて中のドロップを取り出してまじまじと見つめる。店内に置かれているもの同様透明ではなく、銀と水色が混ざりあったような色をしていた。

 それを口に運ぼうとして、店内にいることを思い出すと、そのままポーチへと戻した。


「如何でしょうか?」

「うん、良さそうだね。 動きにくくはないかい?」

「大丈夫です」


 マークはお札を何枚か取り出して会計をする。服を購入する際にも思ったが、貨幣価値が分からないのでこれも覚えなければならないだろう。


「「有難う御座いました」」


 店を後にして数歩歩いたところでマークが真上に機械のようなものを掲げる。


「思ったより時間が掛かってしまったみたいだね。 闘技大会がもう始まってしまって結構経過してるよ」

「え、そうなの!?」


 思わずそう反応してしまう。実は結構楽しみにしていたのだが……。


「今から闘技場に走って向かえば、決勝には間に合うかもしれないね」

「じ、じゃあ走って行きましょう!」

「ボクは別に見たいわけじゃないからキミは走って向かいなよ。 ボクは歩いて行くから」


 マークはその場で急かす様に足踏みをしていた私を、面倒くさそうにあしらう。


(建物の位置は分かるから私だけで行っちゃおうか)


「分かりました。 私は楽しんできます!」

「気をつけるんだよ。 それと、入り口でこれを見せれば入れるだろうから」


 綺麗に折りたたまれた一枚のハンカチを手渡される。模様が一ヶ所にだけ施されたシンプルな品だった。


「ありがとう」


 お礼の返事を待たずにスタジアムへと走り出した。




==カーティス=闘技大会会場・控室==


(おなか、空いた、おなか空いた。 おなか空いた! おなか空いた!! おなか空いた!!!)


 譲渡手続きを済ませた後、丁度昼時だったのでボルノスが奢ってくれたりしないだろうか。なんて考えていたがものだが、あっさりと別れてしまった。

 あくまで提案されたら乗ろうと思っていただけで、自分からそんなことをいえるはずもなく、町を徘徊するものの、結局食事には在りつけなかった。

 そのまま気が付けば受付時間が迫り、そのまま闘技大会へと参加することとなった。

 気が付けば決勝に進んでいたが、ここまでの大会内容はあまり覚えてない。少なくともボルノスよりは弱かったと思う。


「それではカーティス選手、入場をお願いします」

「……はい」


 控室を出て中央へと進むと対戦相手は既に待っていた。


「ここまで無駄のない動きでトーナメントを進んできた大会参加最年少の少年、カーティス選手です!!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」


 実況がそう紹介すると会場は一斉に歓声を上げる。


「空きっ腹に響く……」


 その注目を浴びる俺自身はそれ以上の感情を持ち合わせていなかった。


「オイオイ、本当にこのガキがおれの相手なのか?」


 背中に巨大な剣を背負った対戦相手の男性がそう挑発してくる。


「今年もボルノスと戦えると思ったが、棄権しやがるし。 と思えば、決勝はガキの御守りもしなきゃなんねぇのかよ」


(実武器か。 この国では珍しいな……)


 ドレンディアではまだ見かけたが、レスプディアに入国してからは殆ど見かけなかったドロップの生成物ではない武器に、若干の物珍しさを感じるが、それ以外の感情は特に湧かなかった。

 だが、折角なのでその挑発に乗っておこう。


「戦争中とはいえ、三十年も冷戦状態で実戦をまともに経験してない国主催の闘技大会はこの程度か」

「あ”? その戦時中に生まれてねぇだろうガキが何言ってやがんだ?」

「手早く伸してやるからかかってこいよ」


 手の甲を男に向け、人差し指を立てて寄せるような仕草で挑発する。


「そこまで!! わたしの合図で開始してください」


 一触即発の状態で審判が静止する。

 俺はため息をつくとすぐにドロップを取り出せる姿勢で動きを止める。

 対戦相手の男も同様に体制を整える。


「それではカーティス選手対ルーガス選手……レディー――ファイッ!」


 試合開始に合わせ、ポーチから盾のドロップを取り出して口にする。

 対戦相手の男、ルーガスは背の大剣を構えて真っすぐ突撃してきた。

 生成した盾に大剣が衝突して『ガキン』と大きな音が響く。


「ほぅ、おれの剣をその小柄で受けるか」

「そりゃどーも!」


 大剣を押しのけるようにしながら背中に蹴りをかますがルーガスはビクともしない。

 弾かれた大剣の軌道を無理やり動かして再度斬りかかってくるが、上段からだったのでそれをしゃがんで回避する。

 空を切った大剣が戻ってくるまでの隙を逃さずに、盾を横に構えて顔面に叩きつける。


「身軽そうだが、力はないみたいだな」

「うわっ……」


 直撃したはずだが、まったく身動ぎがない。

 普段ならこんなことはないので、想像以上に空腹が響いているらしい。


(様子見で盾を選んだけど、決定力に欠けるな)


 距離を取りながら盾を投げつける。ダメージはないだろうがその隙にポーチから氷のドロップを取り出して使用する。


「はっ!」


 手をかざして鋭く尖った氷のつぶてを生成と同時に発射する。


「ぐっ……」


 一投目は不意をつけたのか男に突き刺さる。普段ならこれで決まっているはずだが、生成できる氷が小さすぎて、辛うじて鎧に突き刺さる程度だった。

 そのまま二投目三投目とつぶて発射するが、大剣の腹で防がれてしまう。


「氷の適性も持っているとはな。 だが、まだ未熟らしい」


(空腹なだけなんだが……)


 ルーガスの言う通り氷のドロップは戦いにおいて足止めや攻撃で有効だ。万全な状態なら全身を氷漬けにすることも可能だろう。


(殺す気でもなければどのみちやらないけどな)


 とはいえ氷も現状では決定力がない。五投目を投げた時点でポーチから取り出した大槌のドロップを使用する。


「おいおい、随分と多彩だな。 その髪は振りだけじゃねぇってか?」

「どうだろうな」


 大槌を構えるとルーガスはこっちの攻撃範囲外で停止する。

 狙いは範囲内に入ったところで大剣を叩き折ることだったが、流石に武器が一つしかないから相手も警戒している。


「来ないならこっちから行くぞ!」


 大槌を振りかぶって叩きつける。ドロップで生成しているので実際の重さと比べて重量を感じない。

 大剣で受け止めるわけにもいかず、大物を持って逃げ回るしかないルーガスを着実に端へと追い詰めていく。


「うぉりゃああああぁぁぁ!!!」


 場外ギリギリの所で六度目の振り下ろしをしたところで苦し紛れにルーガスは大剣を構える。

 そして、両者の武器がぶつかるのと同時に大槌が砕け散った。


「えっ……」


 どうやらドロップのエネルギーが尽きてしまったらしい。


(まだエネルギーはあったはず……。 あ……)


 普段使い勝手の悪さから大槌は使い切りの投擲武器として運用しており、安価な粗悪品を購入していたのだった。

 本来ならば気づくはずが、空腹のせいで集中が足りずにこんなミスをしてしまっていた。


「甘いぞガキィ!!!!」

「マズッ……」


 想定よりも早すぎる武器の消失に焦り、ドロップを取り出す判断が遅れてしまう。

 自ら詰めてしまった距離も災いして大剣の大振りを何とか避けるも、予備のドロップがポーチごと地面へと叩き割られてしまった。


「!?」

「おっと、これじゃあ勝負になんねえかもな」


(こいつ、わざとポーチを狙いやがった!!)


 唯一の武器を失い、素手なってしまった俺に対し、躊躇なくルーガスは何度も大剣を振るう。


「怪我する前に、降参した方が良いんじゃねえか! おい!!!」

「この野郎……」


 勝ちを確信して余裕があるのか、そこまで殺気を感じない攻撃が続く。とはいえ、このまま避けていてもいずれは命中してしまうかもしれない。


(どうするか……)


 そう考えていると観戦席の方から、俺に向かって何かが飛び込んできた。


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