第10話① 新たな季節と危険の予兆
==杏耶莉=マクリルロ宅・リビング==
(この世界に来て一か月半か……)
教会での勉強に騎士団の訓練。チェルティーナとの談笑や偶にカティと出会って交流しながら過ごしていた。
(たしか、今日から快天の節なんだよね? そこまで変化があるわけじゃないみたいだけど)
これまでは聖天の節と呼ばれる季節で、私は関わっていないが種蒔きが積極的に行われていたらしい。
今後の快天の節は少しだけ今までより暖かくなるのと、雲量が少ないのが特徴らしかった。
(三月ぐらいだった気候が四~五月になったって感じなのかな?)
フライパンの卵焼きをひっくり返しながら、まだ見ぬこの世界の季節に思いを馳せていた。
……
「それで、今日のキミの予定は騎士団宿舎へ訓練をしに行くんだったね」
マークとの朝食で、今日の予定について話をしておく。
「そう。 最初の頃に比べると、動けるようになってきたんだよね」
「……その訓練が進むことでキミの剣の適性にどれ程影響が出ているのか、このあたりで一度調べてみようか」
「それって、前みたいに髪の毛の提供をすれば良い?」
「そうだね、お願いできるかな?」
「了解」
髪の毛を一本、根元から引き抜いてそれをマークに渡した。
「……本当に、私が協力するのってこれだけでいいの?」
「今はそうだね。 だけど、もう少ししたら手伝ってもらいたいこともあるから、その時になったらお願いしようかな」
「わかった。 その時は頼ってね」
彼との食事の後片付けを済ませて、騎士団の宿舎へと向かった。
……
「では、よろしくお願いします。 メイリースさんとノアックさん」
「おう、任せておけ」
「ああ」
宿舎へと到着した私は、早速とばかりに訓練をお願いした。それなりに通い詰めているので、第七隊の隊員ともそれなりに仲良くなってきている。唯一名を除いて……。
「にしても、アヤちゃんの剣の腕は、日に日に成長していくな。 天才……って程じゃないが、そのうちオレなんかは抜かされちまいそうだ」
「才を感じる」
「そんな……私なんてまだまだですよ?」
騎士団の人達からこうして、お世辞を言われることがある。木剣を使った模擬戦で、誰からも一本取ったことがないので鍛錬が足りていない。
「んじゃまぁ、オレらの練習からするか。 ノアック、ドロップくれ」
「ああ」
彼らの練習というのは、私のドロップの特異性を取り入れるという内容のことである。私が実践してみたそれを隊員達が真似をしてみるという試みを続けているが……、今のところ成果は出ていない。
「……うーん、やっぱ無理だな。 アヤちゃん、なにかコツとかないのか?」
「コツ、ですか……。 うーん、そう言われても、斬ろうと思えば斬れるとしか……」
「オレも無理だ」
「だよなー。 アヤちゃんが特別なドロップを使ってるってわけでもないしな……」
この訓練で分かったことは、私の剣は特別硬いものでなければすっぱりと斬れること。それは物に限らず、雷撃のような現象に近いものも含まれる。
だが、この世界基準では普通ではないらしく、特に城襲撃の際と同じように火の玉を斬り落とした際はとても驚かれた。
また、剣の刃ではない部分で人を思い切り叩くと、気絶させることができる。偶然後ろから抱きついてきたライディンにそれをかましたところ、それも普通ではないと言われた。
私自身ある程度剣の扱いに慣れたので、剣の生成をしている時でも離れた位置に下がってもらわなくなっていた。とはいえ、仮に剣が直撃してしまうことを避けるために正面には立たない様に気をつけてもらっている。
「……今日は諦めるか。 じゃあ、アヤちゃんの訓練を始めよう」
「だな」
「わかりました。 では、木剣で型を見直してもらってから、模擬戦で大丈夫ですか?」
「そうだな。 じゃあその生成剣は消失させてもらって、木剣を構えてくれ」
「はいっ」
……
「うぉっ……、参りました」
「今回は勝てたが、結構危なかったな」
「そうでしょうか? 結局負けてしまいましたし……」
「そうでもないぞ。 あの剣を防いだ後の突き、あれが直撃していたら危なかった」
「オレもそう思う」
「そうでしょうか……。 簡単に捌かれてしまってましたが」
「いや、アヤちゃんの場合、実戦ではあの剣を使うだろう? 一撃必殺だし、攻撃をああやって捌くのも難しいから、君が本気だったら負けてた」
「でもそれはメイリースさんも同じで、本気だったら最初の一撃で倒されてましたし」
最初の一撃で勝負がついてしまうと訓練にならないので、彼はわざと攻撃を逸らしてくれていた。あれが通っていたら、どのみち私の負けだった。
「……この短期間の訓練でそれに気が付けるだけでも、やっぱりアヤちゃんは才能があるな」
「既にライディンより強い」
審判をしてくれていたノアックさんにも褒められる。
「……ありがとうございます」
べた褒めな騎士二人に照れながらも、その言葉にお礼を述べた。
「大変だー!!! 隊長、隊長ー!!!」
そんな折、大きく騒ぎながらライディンが宿舎敷地内に飛び込んでくる。
「サボってたと思ったが、何やってんだあいつ……」
「あの様子、普通ではない」
「そう言われるとそうだな」
何時もなら私を見ると何かしらのちょっかいを出してくるのだが、今日に限っては私に目もくれずに宿舎の建物へと流れ込む様に入って行った。
「……あの様子は流石に気になるな。 行ってみるか」
「だな」
「アヤちゃんも行くか? ここで待ってるか?」
「……私も向かいます」
普段とは違う様子のライディンが気にかかり、共に向かうことにした。
……
「――ってなわけで、ヤバいですよ隊長!」
建物内に入って、隊長室の扉前に来ると、そんな声が漏れてくる。部屋の扉を開けると、慌てた様子のライディンが、メルヴァータ隊長に詰め寄っていた。
「その話が本当なら、直に連絡が届くだろうな……。 ディンバル、急ぎ遠征の支度を頼む!」
「承知した」
ディンバル副隊長は広げていた資料を脇に避けて、数枚メモ用紙に走り書きをして、部屋を出て行った。
「隊長、何事ですか?」
状況を読み取れないメイリースが、事態についての説明を問う。その答えに隊長が答えた。
「――影霧が出たらしい」
(影霧……?)
その言葉にメイリースとノアックは顔を青ざめさせる。
だが、それが何か知らない私は首を傾げるしかなかった。




