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第9話③ ドリームドロップ


==杏耶莉(あやり)=エルリーン近辺のドロップ工場==


「ドリームドロップ?」


 マークの放った一言を反復するように返す。


「そう。 そのドロップはどんな願いも一つだけ叶えることもできる、という言い伝えのあるものだね。 伝説にある勇者が使ったとされるドロップみたいなんだ」

「勇者が使った……」


 教会の講義でそんな話は出ていなかった気がする。歴史上の話とは意外と変わることが多いのでその程度の差なのかもしれないが。


「そのドロップをどうにかして再現したいんだ。 その為にはまず、ドロップというものがどういった性質のものかを解明しないといけないからね」

「そっか……、マークにはそこまでして叶えたい夢があるの?」

「…………そうだね」


 どんな願いでも一つだけ叶える。それは魅力的な言葉だった。私自身、元の世界に帰りたいという願いもあるし、それ以外にも幾つもの願いが浮かぶ。

 本当にそのドロップが願いを叶えられて、それを再現できるとすれば、素晴らしいことなのだろう。


(まるで、夢みたいな話だね……)


「けど、この世界の人達はドロップの秘密を研究する事に否定的なんだよね。 教会の教えにそういう内容があるみたいでね……」

「だから私に協力をお願いしたってこと?」

「そういうことだね」


 この世界の人達はあまりボクの研究に協力的じゃない部分がある。私が助手になる際に話していたことだった。


「……とはいっても、この工場の持ち主と知り合いだってことは協力してくれる人もいるんでしょ? マークが作ったドロップ製品もいろんな人が使ってるみたいだし」

「そうなんだけど、それでも遺伝子情報の提供に応じてくれる人はいないんだよ……。 それに、キミは異世界の人間だから、データとして得られるものも多いからね」


 私は詳しくないが、異世界人の方がより良いデータが取れるらしい。そう話すマークも異世界人なのでは?という疑惑が生じていることを思い出す。


「……そういえば、マークも異世界の人だよね?」

「あれ、キミに話をしていなかったかな? ……確かにボクはこの世界の人間ではないね」

「……言われてなかったよ?」


 私以外の、唯一の異世界人はやはり彼だったらしい。王子たちの話では、だいぶ錯乱していたらしいが、その様子も見てみたい気もする。

 そう考えると、ドロップ製品なんてものを製造できたのも納得である。


(私を助けてくれて、金銭的援助をしてくれるのも同じ境遇である好みだってことなのかな?)


「自分も異世界人なら、そのデータは取らないの?」

「一応自分のデータも取ってはいるけど、データは多いに越したことはないよ」

「それもそうか。 で、マークの第一適性ってなんだったの?」

「……毒だね」

「へ?」

「毒が託宣のドロップで発言した能力だったよ。 珍しいドロップだけど危ない使い道しか思いつかないかな」

「だよね……」


 毒とは……物騒な適性である。


「因みにどんな毒が出るの?」

「……人間が一口飲めば一刻足らずで死に至る毒性と、長時間鉄に漬けると溶ける程度の溶解性を持った液体かな。 どちらも長時間出していられるわけじゃないけどね」

「それは……危ないね……」


 ドロップで生成したものはエネルギーが尽きた場合か、意識的に実行した場合に消失する。流石に火を生成した場合に上昇した温度が即座に下がるわけじゃないし、今の話のように毒を飲んだ後に消失させても影響なしという訳ではないだろうが……。


「……私が近くにいる時には使わないでね?」

「……約束は出来ないけど……毒のドロップは携帯していないし、使う予定はないね」

「約束はしてくれないの?」

「研究者として、曖昧な表現はしたくない。 必要に駆られれば使わないとは言えないからね」

「……そっかー」


 細かい部分で研究者気質なマークと共に、実際にドロップが作られていく工程を見学した。




==カーティス=酒場・ウィズターニル二階の一室==


『神よ! 世界樹よ!! 実在するのなら私の声に答えてくれ!!!』


(あぁ、夢だ……)


 何度となく見た夢だった。だからこそ一目で夢であると気が付く。


『……これは、タガネの花? もしや、世界樹とはタガネの……』


 この夢の顛末は知っている。そんな物語を何度も無理やり見せられるのは退屈に他ならない。


『この力は……凄まじい力が溢れてくる。 これなら奴を……』


 この後、この男はこの時代で災厄の悪魔と呼ばれる者の消滅を願う。その願いは天に届き、悪魔を倒す力を得る。その力がどういうものかを理解せずに。


『……災厄の悪魔は斃した……。 ……だが、この悪魔はいづれ復活を遂げる……。 ……しかし、私の力と想いは新たな生命へと引き継がれるだろう……』


 そうだ。そうやって()とやらは巡り巡って俺まで引き継がれた。勇者へとなった人間たちの人生を良くも悪くも影響を与えながら……。


(世界樹のドロップ、か……)


 話に語られる世界樹とは、人の手が及んでいないかった自然の大地。その中心に聳える巨大な樹木のことだった。 今でも世界樹自体は存在すると言われているが、その樹が花を咲かせることはもうないだろう。

 何故なら世界樹とは、その生涯で一度だけ花をつけるタガネという植物がその正体だからだ。数万年という年月で貯めこまれたエネルギーを内包したドロップ……当時は仙香と呼ばれていたそれを使用した男は勇者となった。


 夢が終わるのと同時に静かに目が覚める。窓の外を見るが、まだ日の登らない深い夜だった。


(吟遊詩人の歌では、ドリームドロップなんて呼ばれてたな)


 何処から来た言葉か知らないが、その凄まじい力を持ったそれを、的確に現代に合わせて表現できていると言って良いだろう。


(その結果生まれたのが、俺らみたいな勇者という()()だけどな)


 歴代勇者の中にはこれを誇りとして捉えていた者もいたが、その勇者の力によって起こされた出来事を鑑みればどっちが災厄かわかったもんじゃない。


(とはいえ、俺が勇者として扱われていないのは歓迎したいところだが……)


 どうやらノーヴィスディアで偽者の勇者が立てられているらしく、だからこそ俺自体はこの国では勇者ごっこをしている子供に見えるらしい。

 この国の第一王子とグリッドにはバレてしまったが、それ以外の人間に気付かれる様子は全くしない。


(だからと言ってごっこ遊びに興じる子供だと、馬鹿にされるのは勘弁願いたいけどな)


 面倒な夢をもう一度見ない様に願いながら、眠りにつくためにベッドに横になったまま目を閉じた。


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