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第8話⑥ 料理を振舞う


==杏耶莉(あやり)=マクリルロ宅・リビング==


「で、どんなもんを用意してるんだ?」

「それは見てからのお楽しみってことで」


 カティとサフスを呼んで私はキッチンに立った。事前に焼いておくことも考えていたが、焼きたてが一番おいしいだろうとあえて具材を混ぜるところまでにしておいた。


(私としては物足りないんだけどね……)


 キャベツもどきと豚バラ肉は沢山用意できたが、魚介類はほんの少ししか用意できていない。お好み焼きの魅力は好みに合わせて具材を組み合わせられる部分なのだが、海鮮お好み焼きは作れて一つだろう。トッピングもソースのみでマヨネーズと鰹節が欲しいのも本音だった。

 まずはオーソドックスな組み合わせで焼いた品を彼らに提供した。


「どうぞ、そこのソースで召し上がれ!」

「……なにこれ」

「料理に見えないな。 吐瀉物か何かに見えるんだが……」

「……同意見かな」

「酷っ……。 これでも私の国のソールフードの一つなのに!」


 私は東側の人間だが、それでもお好み焼きを目にする機会は多かった。食べ物を前にしてあろうことか戻した物と表現するなど……。


「……俺は見た目で判断しないと決めてるからな」

「……え」


 サフスは乗り気ではない姿勢を崩さないが、以外にもカティが先に手を出すらしい。ソースの味見をして、それを大胆にお好み焼きに掛けると、一切れを一気に頬張った。


「…………意外とイケるな」

「でしょ!? こっちの材料で味を調整するのに苦労したんだから」

「見た目は最悪だがな」

「……そんなに印象悪いの?」


 とはいえ重かった一口目とは裏腹に、次々とカティは口の中へお好み焼きを運んでいく。


「……僕も」


 そんなカティの様子を見ていたサフスは、決心を固めて死地へ赴く兵士のような表情でお好み焼きの一切れに齧り付く。


「…………美味しい」

「よかったー。 これでもこっちの人の口に合うのかは心配だったから……」

「まだないのか?」


 カティは高速で一人前分を平らげてしまったらしい。


「幾つか作ってみるから、好みの味を教えてね」


 そう告げると、再度キッチンに立って準備してた具材をフライパンに広げた。


 ……


「いやー食った食った。 ありふれた食材だけでこういう料理ができるんだな」

「少しは私の事見直した?」

「は? ……あー、そうだな。 見直した見直した」


(これで私の威厳は保てたかな)


 元の世界の知識を利用するというのはズルい気がしないでもないが、年上として見本となる行動を心掛けなければならない。

 そのためには侮られた状態にはならない様にしなければ……。


「にしても、カティくんのどこにあれだけの量が入って行ったんだろう……」

「元々大食いだからな。 食事量が足りないと眠気がするし、空腹だと全身に力が入らない」


 彼の少しだけ膨れたお腹を見るが、質量保存とは?と聞きたくなるほどに食事量と肥大化量が釣り合っていないのは気のせいだろうか?


「たしかに、いつもなんだか眠そうだけど、今はそうでもないね」

「あぁ、普段からこれぐらい食えればいんだがな……」


 両手を頭の後ろに回して苦笑いするカティを見て、人生小食の方が幸せかもしれないと感じた。


(ちょっと冷たい物欲しいな……)


 彼らと同じくお好み焼きを食べていた私は、口の中に残る感覚を上書きするつもりで、冷凍庫に入ったアイスキャンディを、容器から取り出して食べる。


「……それ何?」


 私が『ガリガリ』としているアイスキャンディに興味を惹かれたのか、サフスに質問される。


「アイスキャンディっていう氷菓子だけど?」


 細長い容器に少しだけ果肉が残った果汁に水と砂糖を少し加えて、木棒と共に冷凍庫で冷やしただけのものだった。


「氷菓子!?」


 私の言葉に反応したカティが、満腹で楽な姿勢から飛び起きる様に私に迫る。


「ふ、二人とも要る?」


 何度も頷く二人に、残っているやつの果実を挙げてどれが欲しいか聞いたものを手渡した。

 サフスは兎も角、カティまでも年相応に美味しそうな反応を示す様子を見て、そういう一面もあるのかと感心する。


(……意外なことが役に立つんだなー)


 百円ショップで妹がせがんで購入されていたアイスキャンディメーカーを使って、一緒に作った記憶が蘇る。

 ジュースを使用して作ったまでは良かったものの、市販のアイスと比べて美味しいわけでもなく……。結局一度切りしか使われずに棚の奥へとしまわれることとなっていたはずだった。

 その時自作したものよりも、さらに出来が良いとはいえないこのアイスキャンディが彼らにここまで評価されるとは思ってもみなかった。なので、正直言って驚いている。


「そのアイスキャンディとお好み焼き。 お好み焼きの方が苦労したんだけど、それの方が評価高かったりする?」


「そうだな。 単純な菓子だが、こういう発想はなかった。 手軽に食べれるし、それなりに旨い。 比べるのも違う気がするが、俺はこっちの方が好きだな」

「……僕も、こっちの方が好き」

「そっか……」


 張り切って準備した料理よりも、片手間で自分様に用意した菓子の方が人気だという事実に複雑なものを感じるが、一先ず威厳が保てたことに安堵した。


 ……


「――へー、じゃあカティくんはこの町に来たばっかりなんだ」

「あぁ、とは言っても暫くはこの町に滞在しようと思ってるけどな。 まだ行ってない飲食店が多いし」

「……食べ物基準なんだね」


 そもそも彼がここを目指したのが食文化の発達に興味を持ったという理由に、彼の奔放さが出ているのだろう。


「でもって闘技大会に出て優勝したんだが、空腹が限界で気絶したところをランケットのリーダーに助けられたってとこだな」

「だからランケットに所属してるんだね」

「……臨時でって話だったんだが、今もそういう扱いなのかは知らないがな」

「……臨時?」

「そう。 サフィッドと違ってこの町に住んでいるわけじゃないからな。 それにあくまで手が足りていない時に手伝うぐらいだし」

「……そう」

「サフスくんは正式メンバーなの?」

「……だと思う。 これからは僕みたいなタイプも入団させたいってグリッドが……」

「その……グリッドさん? がリーダーなんだ」

「あぁ、いまいち掴みどころのない奴なんだよな……」


 私はそのリーダーに会ったことはないが、副リーダーという初老の方になら社交界で出会っていた。


(オウス()ラ商会? とかいう商会の偉い人だったよね?)


「ま、町中で危ないことがあったら近くのランケットを頼れば大丈夫ってことだな」

「……私だって、騎士見習いになったから戦えるよ」


 まだ訓練は開始していないが、他人任せではなく自分の身は自分で守らねばと思う。


「……俺はあんまりアヤリに戦いが向いてるようには見えないけどな」

「……そんなことないよ? 相手が犯罪者(悪者)だったら迷わないから」


 その言葉を聞いたカティは、読み取れない表情で私を見た。


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