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零ノ三十八話 懸崖勒馬


 四方から襲い掛かる領主の部下達から逃れるべく、ドロップを口に放り込み、アドの後ろ首の服を掴む。


「くそっ――頼んだ!!!」


 俺の合図に呼応したアドは、俺と同じくディートしながら、自らの親指を噛んだ。


「――っぅ」


 呻く彼女は滴る親指の血で地面に円をを描いた。それを確認した俺は、ドロップの跳躍能力によって空中に飛び上がる。その後に彼女が描いた物体が実体化すると、そこに彼女共々着地した。


「な、なんだっ!?」


 突如出現した円柱に驚く領主とその部下達。その柱は五メートル(男性三人分)はあろうかという長さがあった。

 実のところ、アドの描く者はサイズを自由に実体化させることはできない。だが、平面に描いたものを立体化させる際、描いていない部分はある程度彼女の意思によって調節可能らしかった。

 それを知った俺は、予めこんな事態になった場合を想定してアドと連携の相談をしていた。幸い跳躍のドロップはオリーシヴで調達していたので一度だけなら可能だった。


「やっぱり、相手は攻めあぐねているな」


 弓矢などこの位置を狙える手段はあるだろう。だが向こうの目的はアドの確保、俺は兎も角彼女が万が一にでも致命傷を負ってしまわない様に気を付ける必要がある。同じ理由で円柱を倒すのも無理だろう。

 尤も、アドの異常な頑丈さを知る俺からすれば無用な心配だったりするのだが……。事実、先程彼女が自ら噛んだ指は血が止まり、再生が始まっていた。


「……(カーくん、この後はどうするつもりか?)」

「(どうするか……。 このまま持久戦でもいいんだが……)」

「(わたしは嫌だが?)」

「まぁ、あの様子だと痺れを切らして攻撃なり柱を落とすなりしそうなもんだしな……」


 俺はやりにくそうにしている領主の部下達に視線を落とす。別に彼らは仕事をしているのであって悪人ではないだろう。精々この場の悪人は「男は殺して構わない!」などと怒鳴っている醜い領主唯一人だ。


「(戦闘能力のないあの領主を倒せば一旦は解決しそうだが……)」

「(岩でも描いて落としてみようか?)」

「(――やめとけ。 何の為にこんなこと計画してると思ってんだ)」


 そう思案していると、領主の所に体格の良い男性数名が現れる。その顔には覚えがあった。


「(あれは製鉄所の……)」

「(仕事の遅いおっさん達?)」

「(いや、相当手際は良かったぞ?)」

「(わたしは待たされて大変だったんだが?)」


 アドと会話をしていると、下でも領主と製鉄所の親方が言い争いをしていた。全部が聞き取れる訳ではないが、断片的な内容を要約すると俺達を襲った領主に親方がキレ、領主は平民が何だという内容だろうか。


「(あ、殴った)」

「(様見ろだが?)」


 俺達の方に集中していた領主の部下達は護衛の役割を果たせず、顎を打ち抜かれて一撃でノックアウトされた領主は、その場でのびてしまった。慌てて製鉄所の親方達の方へと部下達が動き出す。


「俺は降りる。 アドはそこで待っててくれ――」

「(むっ?)」


 最上部から飛び降りた俺は、垂直に何歩か円柱を蹴り下る。その後に残っていた跳躍の能力を上に飛び上がらない程度に制御しながら使って落下の勢いを殺しながら地面に着地した。


 武器を携え拘束しようとする領主の部下達の前に、親方達を庇う様に俺が両手を広げて滑り込んだ。


「ちょっと待った!」

「えっ……えっ!?」

「一旦話し合いの場を設けられないか? 当事者は気絶してるし、全員頭を冷やすべきだ」


 危害を加えるのが本意ではない領主の部下達は、俺が製鉄所の連中を庇うのに戸惑った様子となる。そうこうしている内に、部下の中から貫禄のある人物が俺の前に出てきた。恐らく他の部下の様子からして兵の隊長か何かだろう。


「そうだな。 我等も君達もそこの職人も、敵対するのが目的ではない。 領主に危害を加えたなど後に精算すべきものあるが……対話すべきだ」

「あー、そうだな……。 こっちも手を出したのはマズかったしな」


 その返事を聞いた隊長らしき人物は、後ろの部下達に指示を出して武器を降ろさせる。


「領主様があの様子だ。 代表はわたしが務めるが構わないだろうか?」

「あぁ。 アレよりはマシだろ」

「だな」

「……嫌われているな」


 円柱の上に残されたままのアドを降ろして、領主不在の話し合いの場を設ける事となった。


 ……


「――以上を纏めると……俺とアド(アレ)は巻き込まれただけで不問、別に正体を明かす必要はなく、当初の報酬が支払われる。 で、製鉄所への報酬は当初より減額、直接手を出した親方さんの罪状は追って決められるので一先ず拘留ってとこか?」

「話が早くて助かる」


 状況説明と今後についての話し合いの末、俺達は


「手ぇ出した俺が悪いのは仕方ねぇからいいとしてだが……製鉄所の奴等は――」

「それに関しては安心してほしい。 元々この町一番の実績のある製鉄所だ。 わたし個人としては君の処罰も避けたいぐらいだが、事が事だけにそうもいかない」

「……」


 領主の言動に怒ってというのが理由ではあるが、元々は俺達の為に動いた親方が罪に問われるのは気持ちの良い結果ではない。だが、俺の側から何かやれる事はないし、手を出したのは彼だ。


「領主様が目覚めぬ以上、これ以上の話し合いはできない。 医者によればすぐにでも目覚めるだろうと言うし、以上で少年は報酬を受け取って退散してもらい――」

「隊長! 火急の要件が!」

「どうした!?」

「ドレンディア本部の神官の方が御出でです!」


 ドレンディア共和国はノーヴィスディア聖王国との交流も深い。ノービス教の教えが浸透し、国内の影響力も甚大だ。ここで言う神官はそこの者だろう。


「要件は?」

「ノークレス領主への教義を審問すると……」

「なにっ!」


 俺はノービス教との接触を避けるべく、足早に報酬を得てこの場を去った。


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