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零ノ三十七話 陰謀詭計


 俺達がすべき鉄型の準備を終えた後は、特筆すべきトラブルもなくオブジェのお披露目と相成った。


「――であるからして、領主であるわしの功績によって! この町に素晴らしきオブジェを建設することなった! これも領主としての――」

「(話、長いな……)」


 長々とした領主の演説にうんざりして小声で呟くと、隣のアドも同意する様に小さく頷く。


 町の新たなシンボルとなる……らしい俺達が作成したオブジェを、静かに設置して終わりとなる筈もなく、お披露目の式典が執り行われる事になった。

 その際に鉄型からオブジェを取り出すのではなく、鉄型が消える事で現れる演出がしたいという領主の要望によってアドもこの式典に参加させられている。俺は強制ではないが、彼女一人で参加させる訳にもいかず、俺も参加する事にした。


「――知っての通り昨今の芸術ブームもわしの功績によるもので――」


 まだまだ続く領主の話に痺れを切らしたのか、アドが小さく手招きをする。俺が近寄ると耳に手を当てて小声で話始める。


「……? (どうしたんだ?)」

「(退屈なのだが? もう面倒だからあれ出していいか?)」

「(いや駄目だ。 それで機嫌を損ねて報酬なしとされても困るだろ)」

「(実体化させたあれを維持するのも楽ではないのだが?)」

「(数日耐えれたんだから、もう少しだけ耐えてくれよ……)」


 そんなやりとりをしていると、領主からの視線を感じる。それが理由かそうでないのか、気が付けば演説も〆に入っていた。


「――ではこの素晴らしき町の新たなるこのオブジェをお披露目を披露してやろう!」


 そう言った領主は指をパチンと鳴らす。それが実体化させた鉄型を消失させる合図だった。


「……」


 鉄型の方を見たアドは、瞬く間にそれを消し去る。そして、その中から現れたのは鉄製の大きなオブジェだった。


 アドが設計したそのオブジェは、一言で言えば人工の樹だろう。

 それらの表面は、中央の幹から外側に広がって伸びる枝にいたるまで、宝石を削ったみたいなうねりのある造形となっている。

 枝から零れ落ちる形でぶら下がっているのは、木の実ではなく鉄でできた雫とでも言うべき物体だった


 これらを一から作るのは相当な期間や技術者が必要となるだろう。それをアドの絵によってたった数日で出来上がってしまったのだから彼女の能力による賜物と言える。

 とはいえアドはアドで最終的なオブジェから逆算して、実体化させる前の鉄型の絵を描くという技術も評価すべき点だ。ドロップの能力だけでは測れない彼女の才能だろう。


「どうだ! これがわしの権力によって造られたオブジェだ!」


 予め完成図は見せていたのだが、目にした実物が想像以上だったからか、興奮気味な領主は息を荒くして話を続ける。


「そして――それを成したのはわしの専属絵師であるこの者の功績でもある!」

「なっ!?」「……!?」


 領主は俺達の――否、俺は含まれていない。アドを公衆の面前へと晒す。俺達が驚いている間に、領主は矢継ぎ早に話す。


「その専属絵師は絵を実体化させる事の可能なディーターだ! この場の者共にも心当たりがあるであろう!」


 領主の言葉に、大衆は騒めき出す。その中の誰かが「あの服のサービス」と口に出す。


「そうだ! 貴様等平民からこの町の衣装水準を上げるために、それもわしが命じた事だ!」


 下品に指を指して、唾を飛ばしながら領主は怒鳴り散らす。


「……そういう事か」

「……?」

「あの領主はお前を大衆の前で専属だと宣言する事で、公然の事実とするつもりなんだ」

「!?」

「その上、前に俺達がやってた服のサービスも自分の手柄にしやがるつもりらしい。 やっぱりまともに金を払う気はなかったんだろうな」

「……?」

「多分お前が考えてるのは『そんな行動に強制力はあるのかどうか?』とかその辺りだろ? あるんだよ、この世界ではな」

「……(はぁ)」


 アドは面倒そうにため息を付く。彼女の元の世界とやらは知らないが、こっちはこっちで面倒事は尽きないという事だ。


「――では、わしの優秀な専属絵師のお披露目とさせていただこう! そのフードを降ろすんだ!」

「……」


 大衆の期待の目がアドに集まる。だが彼女は首を横に振って否定の意思を示した。


「――この期に及んで恥ずかしがる必要もなかろう! おい! 誰かあのフードを降ろせ!」


 アドの顔が大勢に知られれば、これまでと同じ生活は不可能になる。そして、この町に居る限り、領主の手から逃れるのは難しいだろう。

 彼女の顔を晒すべく、領主の部下が俺達に襲い掛かって来た。


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