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第8話④ 少女の素性・私の誇り


==カーティス=レストラン・アリストクラット==


 三人での食事に選んだ店は、それなりの高級店。食事マナーの熟練度で差が現れるような店だった。身分制度が厳格な時代なら、平民は入店すら拒否されるだろう。

 この店の売りは厚いステーキを丸々提供するところだ。ナイフフォークで切り分けながらジューシーな肉汁を楽しめるのだ。


「でっか……」

「大きい……」

「自分でサイズを選んだんじゃないのか?」


 彼女らは料理が運ばれてくると驚いた様子だった。サフィッドはよくわからないが、アヤリは重さの単位も知らないらしい。教養が足りていないのだろうか?

 俺はセッティングされたナイフとフォークを持つと、()()()()()()丁寧に食べ始めた。

 サフィッドは俺の食べ方を見様見真似で実践するが、かなり苦戦している。だが、アヤリは俺のことなど気にせずに、自らのペースで食べ進める。


(サフィッドとは違って、明らかにナイフフォークの使い方を教育されている? けど、あの使い方は……)


 彼女の洗礼されつつもどこの国とも違う扱い方がされるフォーク捌きに、俺の中の違和感が確信に変わる。


(どう見ても()()()()()()。 何者なんだ?)


 彼女は、皿に零れたステーキソースをひっくり返したままのフォークに器用に乗せると、それをステーキ肉の上に戻していた。


 ……


「美味しかった~」

「……うん、美味だった」

「だろ?」


 三人が食事を終え、一息ついていた。

 俺の半分も食べていない二人だったが、それでも満足という様子でリラックスしている。


「でも、私的にはステーキにはゴハン欲しくなっちゃうな」

「ゴハン?」

「あ……。 わ、私の地元で食べられてる主食なの」

「ふーん……」


 そのような食べ物は聞いたことがない。少なくとも先進国でその単語は使われていない。


「にしても、アヤリってテーブルマナーが結構できるんだな。 平民だと思ってたんだが、サフィッドと違ってしっかりしてたぞ」

「本当!? 小さい頃にこういうお店に行ったっきりだったけど、覚えててよかった」

「……うん、アヤリ上手かった」


 そう褒めるサフィッドも最初は苦戦していたが、最後の方にはそれなりの形になっていた。要領が良いので、しっかり学べばすぐにマスターできるだろう。


「だけど、見慣れない形式の食べ方だったな。 どこの国の所作なんだ?」

「……えぇと、多分カティくんの知らない国だよ」


(俺が知らない国なんてまずない)


 彼女には申し訳ないが、鎌を掛けさせてもらうとしよう。


「へー、どこだろうな。 まさか東の果てにある、ピグライだったりするか?」

「ぴぐらい?」

「きっとそうだろ? そこの国はまだ行ったことがないんだよ。 そうなんだろ?」

「…………うん、実はそうなんだよね」


(――食い付いた!)


「そうなんだな。 もしかして、さっき言ってた()()()ってのもそこの食べ物なのか?」

「……ウン、ソダヨ。 ソコノタベモノ」


 引き下がれなくなったのか、アヤリは視線を逸らして片言でそう返答する。これ以上は可哀想なので早めに切り上げることにした。


「……アヤリ、ピグライなんて国は存在しない」

「え……」

「アヤリ、お前は一体何者なんだ?」

「…………」


 長考の末、俺に嵌められたことに気が付いたのだろう。彼女は、額に手を添えてため息をついた。


「はぁ……。 王子に口止めされてたんだけど、カティくんって内緒にできる人?」

「機密事項をべらべらと話す趣味はないかな」

「…………実は私、裂け目ってのを通ってきてしまった異世界人。 なんだよね……」


(やっぱり、か……)


 この国でここ数年起きていたという事象だ。その可能性は低くないとは思っていた。

 現にアヤリが異世界から来ているのであれば、今までの違和感も説明できる。


(アド以外に取り残された人間が居たとはな)


 ドレンディアで出会ったアドルノートという少女、彼女もかなりの変わり者だった。アヤリもそれとはまた違う種類ではあるだろうが、変な部分が多い。


「カティくん、今言った話って内緒にできる?」

「……あぁ、それは問題ない。 唯、アヤリの変な部分に納得してただけだ」

「変!? ひっど……。 私、そんなに変に見えるの!?」

「……この世界基準では、な」


 その言葉に落胆したようで、彼女は項垂れる。それを隣に居るサフィッドに慰められていた。




==杏耶莉(あやり)=レストラン・アリストクラット==


 カティにまんまと嵌められて、私が異世界から来ているということがバレてしまう。


(このステーキをご馳走になったけど、人を変人呼びとかするし……)


 と、カティが私やサフスよりかなり多くの量を食べていたことに気が付く。こういう美味しいお店も知っているということはグルメなのだろうか?


(……もしかしてこれなら、カティくんを見返せるかな?)


 以前情けない状態で助けられたからか、彼の言動は私を年下か何かの様に扱われてしまっている。どうにか年上としての威厳を得れないかと試行錯誤していたが、今のところ手ごたえを感じていなかった。だが、今思い付いた方法なら可能かもしれない。


「カティくん、異世界の料理って……興味ない?」

「……なくはないが、アヤリって料理を作れるの?」

「作れるよ? 得意なぐらいだね!」


 専業主夫だった父から頻繁に教わっていたので、同年代と比べてもかなりできる方だと自負していた。


「……本当か?」

「その顔は信じてない?」

「………………」

「何か答えてよ……」


 考える素振りのカティの様子に、途端に不安になる。


「……僕も食べてみたいかも」

「本当!? サフスくんは良い子だなー」


 頭を撫で回すと、その頭をぶんぶんと振って振り払われてしまう。


「……物は試しだ。 一応お願いしてみるか」

「何その言い方! でも、驚かせてみせるよ」

「……悪い意味でそうならないように祈っとくか」

「ぐぬぬ……」


 準備の必要もあるので数日後、改めて集まる約束をして今日は別れた。

 ランケットの集まりとやらに連れて行かれるサフスを見送って、打倒カティを目標に準備を始めることにした。


 ……


(とは意気込んだものの、メニューに困ったね……)


 日本の現代人だった私は、合成調味料やらインスタントやらを多用した料理ばかり作っていた。この世界には顆粒出汁もカレールーもない。

 そうでなくても、地球基準なら欧米の食文化に近いのでパン食が基となっている。私のレパートリーは日本人であるが故に米食が基本だった。


(今のところこの世界でお米見かけてないんだよね……恋しい。 内陸だからか、魚も焼いたのがちょっとだし……)


 一応この国は海に面しているらしいので塩は安価だけれど、生魚は見かけていない。どのみち生食は危険なのでするつもりはないが。

 父の教えでは、海外で生物を口にするのは危険だと口が酸っぱくなるほど言われてたので、この世界に来てからは一先ず必ず火を通す様にはしていた。そのため、数少ないレシピを知っているマヨネーズも作っていない。


(ちょっと待って……マヨネーズ以外の調味料。 ……醤油と味噌は無理、大豆があってもそもそも作り方を知らない。 ケチャップみたいなのはあったから特別感がないし除外……。 あとは……ソース?)


 ソースといっても色々あるが、私が指しているのはウスターなソースである。が、私は機会などなく自作したことはない。ただし、作り方は知っていた。一時期調味料の原材料を見て纏める行為に興じていた時期があったので、その際にいくつかの品は作り方まで調べていたのだ。


(たしか、ソースは砂糖と野菜果物、香辛料を煮詰めたもののはず……。 塩も必要だよね?)


 デミグラスソースに近いものはこの世界に存在する。細かな調理法に差はあるだろうが、私はこれとの違いは肉類を材料にしているかどうかを基準としていた。そうでなくても材料の配分等でソースの味にはかなり差が出るので、別物として捉えて良いだろう。


(ソースに合う料理なら……豚カツかな? でも、揚げ物は……)


 揚げ物や天ぷらの調理法は、知識はあるのだが実は実践経験がなかったりする。油が危険という理由で父が手伝わせてくれなかったのだ。


(いつかは挑戦したいんだけどね……。 それ以外にソースに合うのは……、お好み焼きとかかな?)


 記憶にある限り、この世界で粉ものの料理を見たことがない。この世界の人の舌に合うのかどうかはわからないが、お好み焼きなら材料から作った経験もあるので行けそうである。


(お好み焼きはいける。 問題はソースだね……)


 どのみちこの世界の野菜果実に合わせて研究する必要がある。こればっかりは試行錯誤が常なので、思いつく材料になりそうな物を買いに出た。


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