零ノ十六話 慕情
「お腹が……痛い」
ある日の早朝、珍しく不調を訴えた遊牧少女に俺は思い当たる節はあった。幾つか質問をして核心を得た俺は、ここの女性一同に彼女を預けた。
案の定というか俺の想像は当たったらしく、暫くして青い顔をした彼女が戻って来た。無言で自らのベッドに寝そべった彼女は俺に聞こえる様に呟いた。
「なんてゆーか……。 わたし、女の子だったんだなーって……」
「そりゃそうだろ」
言わずもがな、月の物だった。男性の俺が考えるのも何だが、初回の衝撃はなかなかだろう。
「というか、俺に話すなよ」
「そーは言うけど、カティの朝の態度から慣れてそうだしー」
「……」
俺も勇者の記憶がなければ違う反応をしていただろが、生憎と女性としての実体験みたいなものがあるので無駄に慌てたりはしない。
「結構つらいか?」
「それなりにはねー。 問題は今後定期的にこれがあるっていう不安もあるけど……」
「それは直に慣れる。 というより慣らされるって感じだけどな」
「……」
「兎に角、暫く安静にして――」
「お父さんに会ったんだけどね」
俺の言葉を遮った遊牧少女は話を続ける。
「今後は狩りに出るのは控える様にって。 一応リガロ族での決まりでは構わないんだけど、万が一外で体調不良になったら困るし、そろそろ女の仕事を覚えろってさ」
「……」
殊の外元気がなかったと思っていたが、そう父親に言われたのが効いているらしかった。無論、体調が万全でない弱った状態で精神的ショックが重なったのも多いだろうが……。
「はぁ……。 でもそうだよね。 ゆくゆくは誰かと結婚して、家で裁縫とかして帰りを待つ。 それがここでの当たり前で、わたしはその当たり前からお目溢しをしてもらってただけで、本当は苦手でも嫌いでもそうしないとだったんだもんね」
「……かもな」
「そっか……」
俺の肯定に対し、寂しそうな目をした彼女は、即座に笑った顔を作っていつも通りの喋り方に戻った。明らかな空元気だった。
「……でも想像できないなー。 同い年の男の子なんて! わたしより弓の扱いも下手だし、かっこよくも思えないよー」
「……年上好きか?」
ぶり返すのも悪いので、俺は茶化す様に尋ねる。すると意外な返答を返された。
「そういう訳でもないんだよねー。 どっちって言えば、頼ってほしい。 そういう意味では変にプライドがある同じか上よりも、下の方がいいかもー」
「ふーん、年下か」
「例えば……。 カティとかね――」
そう言い終わるかどうかというその時、起き上がった彼女は傍に居た俺を掴んでベッドに倒れる。不意を突かれて白黒している内に上下が入れ替わった状態はまさしく、彼女に俺がベッドに押し倒されている状態となった。
「何して――」
「カティ……わたしとかどう?」
「どうって……」
万全でないからか呼吸が普段よりも荒く、意図せずともそれが女性的な艶かしさとなっていた。
俺の両足の間に差し込まれた彼女の太腿も僅かに汗で湿っており、存在感を強調している。
さらに諸事情によって緩く着ていたらしい服で支えられなかった胸が、重力によって存在を主張していた。
その上で彼女の垂れた髪がカーテンの役割を果たし、彼女以外の情報が遮断される。
「ねぇ、カティ……」
色っぽい声で俺の名を呼び、生暖かい吐息が俺の顔に掛かる。
その瞬間、俺の人生では初めて、だが勇者の記憶で知っている感覚が発する。主に体の下の方で――
(――やばい)
そう思った俺が彼女を押しのけようとしたその直後、遊牧少女は「いたた……」と腹部を抑えて俺から離れた。
「なーんて、カティには流石に早いよねー」
「あ、あぁ……」
誤魔化す様に返答するが、この時の俺の心臓は早鐘を打って平静を保つので精一杯だった。
「カティ、今日は大人しくしてろ、って言われてるから寝とくね」
「あぁ……。 あ、悪い」
そう言って、占領してしまっていた彼女のベッドから立ち上がる。
「なんかごめんねー」
「……いや、構わない。 ……それよりも、不安な事とかは抱え込まずに俺に言えよ」
「うんっ、ありがとー」
顔も合わせられず、頭を冷やしたかった俺はこの場を去った。




