第54話⑦ 恋愛成就の裏側
==杏耶莉=炎天の節・十六週目=エルリーン城・選挙会場==
諸々が落ち着いて会場へと戻ると、立食パーティが始まっていた。本来の主役である第一王子が早速手腕を振るって、この場を収めたらしい。
一部貴族からすれば第二王子とチェルティーナの動向は気になる部分ではありそうだが、大多数の貴族としては驚きが過ぎれば次期国王よりも気にする所ではないだろう。
「では皆様、私達は改まって挨拶回りをしなければなりませんので……」
「わかりました」
全体への紹介だけでなく、各々に対して詳しい説明をして礼を尽くさなければならない。その為にチェルティーナとラングリッドは別のテーブルへと向かい、私達異世界組は元の―ーフィオルナを置いてきたテーブルへと向かう。
「メ、シ! メ、シ! メ、シィ~! って、何かえらく沈んでね?」
「え?」
そう瑞紀が指さす先には、明らかに気落ちしたフィオルナの姿があった。
「どうかしたのでしょうか?」
「……聞いてみよっか」
取り繕う余裕すらなさそうな彼女の元に着いた後、その理由を問いただす。
「フィオルナ、どうかしたの?」
「アヤリ先生……。 その……わたくし……」
「あー、うん。 すぐに話さなくていいから。 ちょっと落ち着いて深呼吸してから、ね?」
「はい、すみません……」
喉に手を当てて何度か呼吸を繰り返す。
「…………落ち着きました。 ありがとう存じます」
「それでどうかしたの? ……というか、話せる内容?」
「話せ――ます、が……」
チラッと瑞紀と楓の方を見る。日が浅いとはいえ知り合いであった私であれば構わないが、今日が初対面の二人には言いづらそうだった。
「瑞紀さん」
「あー、そだな。 ちょっくらわたしらは暇を潰してくるわ。 えぇと……、マークにさっきのアレについて聞いてみたりしてみるぜ」
「……悪いね」
気を利かせてくれた二人はこの場を離れる。この集まりに知り合いなんて殆どいないのに……。
「……ありがとう存じます」
「そのお礼は二人にね。 それで、何があったの?」
「それがですが……」
気を取り直して尋ねてみるも、フィオルナは言葉を詰まらせる。
「――ふぅーー……。 はい、お話します」
「……」
「先程も言い掛けましたが、以前攫われ掛けて助けていただいたというお話をしましたわね。 その時のあの方――グリッド様を実は……お慕いしておりましたの」
「お慕い……」
「はい。 お会いしたのはその時の一度きり、それもまともに言葉は交わしませんでしたわ」
もう一度息を吐き出し、「順を追って話します」と断ってから話を始める。
「蝶よ花よと育てられたわたくしはあの事件で、暴力を振るわれて痛いという感覚を真の意味で理解しました。 同時に初めて人に対して恐怖し、震え上がっていたわたくしは助けに現れたグリッド様――いえ、ラングリッド様の事が忘れられなくなりましたの」
「……」
白馬に乗った王子様というやつだろうか。彼女は知らなかっただけで本当に王子ではあったし……白馬云々は知らないが。
「事情を知らない哀れなわたくしは、その方と添い遂げる妄想をしましたわ。 ですがわたくしは領地を有する貴族の娘。 その中では小さくとも全体で見れば影響力を持つ大貴族に当たりますもの。 自由な恋愛など認められる事はありません。 それも相手が平民であれば許される筈もない……と。 実際は平民どころか王家に連なる方ではありましたが……」
「そうだね……」
「わたくしはどこか下に見ていた部分があるのでしょう。 わたくしが貴族であの方は平民。 身分の差で恋は叶わず、ゆくゆくはどこかに嫁ぐ。 ……皮肉にも、身分差で願いが叶わないというのは誤りではありませんでしたわね」
「……何て言えばいいかわからないけど……気の毒、だったね……」
「ありがとう存じますわ」
失恋の相談なんて初めてだったので、言葉が見つからずに逆効果になりそうなフォローをしてしまい、逆に気遣ってお礼を言われる。
「それでですが、僅かな可能性に賭けてグリッド様にもう一度近づきたい。 話をしたいと考えたわたくしはある計画を実行しました。 ランケットは自警団として戦闘能力がある人を募集していると聞き、力を付ければそれが可能のでは、と……」
「もしかしてそれって……」
「はい、アヤリ先生の指導をお受けした一番の理由です。 先生にお話した護身というのも嘘ではありませんが、一番の狙いはそこでしたの」
「すみませんでした」とフィオルナは頭を下げる。私は別に指導を受けたのが後ろめたい理由だったとしてもどうとも思わない。そもそも政治的理由で嫌々参加していた生徒も居たので、どうでもいいというのが本音だ。
「別に構わないよ。 寧ろ可愛い理由だなって思うし……」
「いえ、申し訳が立ちませんわ。 先程お願いした指導を続けるというお話も、そこに由来しているのですもの。 アヤリ先生のご好意を踏みにじる行為に他なりませんわ……」
「気にしないって……」
「本当にすみませんでしたわ。 そんな作戦もわたくしより早くに実行に移し、それでいてあの方に寄り添えるだけの実力を有して支え、地位も上のレスタリーチェ様が動いておりました。 結局無意味でしたわ……」
「……」
あのチェルティーナが恋敵というのは厳しいどころの話じゃなさそうである。諦めるのも止む無しだろう。
「正直なお話、第二婦人という地位であっても添い遂げられればと考えてしまいますが、婿入りとなれば基となるのはレスタリーチェ様ですわ。 殿方を迎え入れるならいざ知らず、ラングリッド様が迎え入れるというのはあり得ませんもの。 可能であったとしても、わたくしの立場では無理でしょうけれど……」
「そっか……」
いい言葉で励ませられない自分が歯痒い。
「ですので、きっぱりと諦めますわ。 ですのでこれからもご教授いただきたいというお話は白紙にさせてくださいませ。 お願いした身で身勝手だとは存じますが……」
「そう、だね……。 私としてはどっちでも構わないから、フィオルナがやりたい様にしなよ」
「ありがとう……存じますわ」
本人が諦めているし、私の立場からすれば彼女よりもチェルティーナの方が関係が長いし親しい。なので彼女のこの恋は応援出来ないが、彼女の幸せは応援したいと思った。




