第54話⑥ 経緯説明と透明な焦り
==杏耶莉=炎天の節・十六週目=エルリーン城・臨時控室==
表向きは長い間活動のなかった第二王子、それと有数の名家であるレスタリーチェの跡継ぎの婚姻は、この国の上層部に激震を走らせた。
同時に明かされたランケットのリーダーの正体も大きな騒ぎではあったか、私達からすれば今更なので気にする所ではない。
そんな混乱収まらぬ状態で退場した二人を追って私達三人は、臨時で設けられた控室で事のあらましの説明を受けたのだった。
「――それで、わたしらを呼んだのか」
「ご明察、世話になったお前等には立ち会ってほしかったんだよ~」
「そうなら早く言えよ」
「事が事だからな、伏せさせてもらったんだよ。 でも悪くなかっただろ~?」
「まーな」
そんな呑気にやり取りをするグリッドと瑞紀だが、私はそれらを否定する。
「いや、『悪くなかっただろ』じゃない! 色々となんかこう……」
「アヤリ様、どうかしました? 様子がおかしいですわ」
「いや、その……」
違和感というか、私の倫理観や常識では受け入れ難い何かがあった。うまく言葉にできなくてもやもやする。
(……ちょっと落ち着こう。 状況を整理して考えないと……)
まず年齢だが、向こう換算でチェルティーナが十六歳のグリッドが二十一歳である。日本なら今は結婚可能年齢は十八歳であるが、女性に限っては十六歳で結婚が可能だったのはそこまで昔の話ではない。
それにこっちは貴族であれば生まれてからすぐ……場合によっては生まれる前から婚約する場合もあるそうなので年齢は問題じゃないのだろう。
それでも五歳差というのは私的には引っ掛かりもするが、どちらの世界で考えてもそこまでの年齢差であるとは言えない。
(続いてだけど……)
先程あった説明を反復する様に、私は質問をする。
「あの、さ……。 本当に二人はレスターで一緒に暮らして、その……子供を作るんですか?」
「えぇ、そうですわね。 もう産める年齢ですし、此度の婚姻が許された理由でもありますわ」
「だな~」
「……」
健全な男女が付き合えばゆくゆくはそうなるというのは自然な話で、セクシャルなあれこれをどうとは言わない。私が気になっているのは、やはり妊娠・出産に前向きな部分だった。
そもそもの話、今回の結婚が許された背景には後継者問題というのがあった。何を隠そう、この国の王子王女は揃いも揃って独り身であり、特に此度王位に付く事になった第一王子が世継ぎの為に誰かを娶るのに積極的ではないという。
(実は、そんな人に一度告白されてるんだけどね……)
冗談……では済まされない勢いのあった第一王子のあれは結局何だったのか。と考えなくもないが、今は関係ないので気にしないでおく。
そんな貞操の堅い王族の血を絶やさない為の処置として第二王子を別の位置に避難させ、尚且つ血を分け与えておいて万が一に備えるという狙いである。
何事がなかったとしても、レスタリーチェ家からすれば王族の血縁を得て権力を盤石なものとできるし、万が一が起こってレスタリーチェから王を選定することになっても、勇者の末裔の血を得られるというメリットがある。そうならないに越したことはないが……。
そんな経緯もあって、一応政略結婚である。だが、チェルティーナの感情を以前から知っていて、このグリッドが手を取った状況から恋愛結婚でもあるのだろう。
(だからって、私よりも年下なのに……)
じっとチェルティーナを見る。第二次成長期で背こそほぼほぼ伸びきっているかもしれないが、まだ成長が終わってるともいえない。そんな彼女が早ければ一年後にはお腹を大きくしているかもしれないというのは想像し切れないものがある。
(そもそも身近に妊婦さんが居た記憶がないからダメなのかな……。 物心付いた頃には伊捺莉も産まれてたし……)
そうして考え込んでいると、楓に肩を叩かれる。
「杏耶莉さん、少々よろしいですか?」
「え? ……うん」
私は楓に手招きされて一度部屋を出る。そうして彼女は私に話し掛けた。
「もしかしてですが、自分でも悩んでいる理由を理解して居なかったりしますか?」
「いやそんな事は……。 ううん……そう、だね。 多分自分でもわかってないかも……」
色々と思考を巡らせるも、考えが纏まらずに観念する。確かに私も混乱しているらしい。
「……もしかしてですが、杏耶莉さんが感じているのは焦りではありませんか?」
「焦り……?」
「えぇ、そうですね。 何度も口から洩れていた単語から察するに、御二人の――」
「え、漏れてた!?」
「はい」
衝撃的な発言に、彼女は首を縦に振る。先程の思考中に考えを口に出してしまっていたらしい。
「……続けても?」
「う、うん……。 (漏れてたんだ……)」
ショックを隠せないが、楓は話を続ける。
「それで、杏耶莉さんは御二人の婚姻そのものは祝福しているのでしょう。 ですが、そこに待ったを掛けたい。 その為の理由を探していたものと推察しています。 違いますか?」
「……まぁうん、別に反対はしてない。 前々からチェルティーナさんが好きだったのも知ってるから。 でも待ったを掛けたいって……」
「ですので焦りです。 此方の節で考えても四節差あるチェルティーナさんに先を越される事への焦り。 そうではありませんか?」
違うかどうか、という問いそのものに疑問を感じで聞き返す。
「それって、私が結婚したいって前提になってない? 相手が居ないんだけど……」
「カティさんが居るではありませんか」
「――何で今カティが出てくるの? それに私は別に結婚なんて――」
今は考えられない。そう口にしようとして無意識に口をつぐんでしまう。
「それに、この国の結婚適齢からすればチェルティーナさんは普通ですよ。 日本であの年齢でれば好奇の目で見られるでしょうし、体の負担もあるでしょう。 ですが立場からして出産前後で十二分なサポートは受けれますし、それ以上に本人や周囲からそれ自体を求められています。 ですので私達と比較する事自体が間違いで、気にしても仕方ありませんよ」
「……そう、だよね」
「それと、淡い感情に水を差すようで悪いですが、私は此方の土で眠るつもりはありません。 杏耶莉さんがどう考えているかは存じ上げませんが、私からすればお勧めは出来ませんね」
「――っ!?」
奥底にしまい込んで見ない振りをしていた感情を掘り起こされ、それを即座に否定される。
それに楓の言う通り、私が幾ら否定しようとチェルティーナ達の関係に割り入るのは無理であり、悩む事自体が無意味だった。
私は掘り起こされた感情をもう一度埋めながら、焦りであると断定された感情を抑え込む。そして、それ以外の部分で間違いなく存在する心からの祝福の言葉を二人に送った。




