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第1話③ 大会出場権・ドロップのお店


==?????=路地裏の酒場・ドンドムドドドの裏庭==


「おれも大会を控えてるんでな、手短に済ませるぞ」


 腕を大きく回しながらそう話す筋肉の男性、このおっさんからはやる気を感じない。完全にこっちのことを舐め腐っている。


「それがいいな。 俺も腹が減ってるし、さっさと済ませたい」


 挑発に挑発で返す。子供っぽいかもしれないが、舐められっぱなしは性に合わない。

 小さな裏庭で適度な距離の位置で双方が足を止めて、向き合うように立つ。


「いい度胸じゃねぇか。 武器を持ってない見てぇだし、小僧も()()()ター()なんだろ?」

「そうだ」

「なら一先取でどうだ? あぁ、一先取ってのは一つ目のドロップを――」

「知ってるからいい」


 わざとらしく説明をしてくるが面倒だったので、無理やり話を遮る。おっさんは一瞬ムッとするが、大人ぶってかすぐに顔を戻す。


「……じゃあドロップを出せ。 勇者気取りのガキに躾をしてやる……」


 勇者気取り……、髪色のことを指しているのだろう。確かに子供の中にはそういったものに遊びと結びつけることはある。


(勇者()()()じゃないんだけどな……)


 そんなことを考えていると、おっさんは腰のポーチから中を見ずにドロップを一つ取り出す。俺も足に括りつけたポーチの中からあるドロップを一つ見つけて取り出した。


「それじゃあ行くぞ。 レディー――」

「「ファイッ!」」


 同時にそう叫びながらドロップを同時に使用する。

 その後、自分の武器を生成しながら相手の生成物を見る。おっさんの武器は槍だった。


「ん……小僧、そりゃなんだ? もしかして鉄糸か? まさかとは思うがそんなのの適性で戦うつもりかよ!!」


 俺の選んだ武器、鉄糸をバカにするようにしておっさんが笑う。

 確かに鉄糸を武器として扱うのは珍しいが、未知の相手に対する態度としては不合格と言わざるを得ない。


「……そういうあんたは、なんで槍を逆に構えてるんだ?」


 そんなおっさんも槍の穂を自分側に向けて石突きをこっちに向けている。


「そりゃぁ、おれは小僧を殺る趣味はねぇからな」

「はぁ……、そうか」


 あほらしくなってきたので自ら仕掛ける。それを見ておっさんは、石突きを向けたままではあるものの、目の色を変えてそれに対して姿勢を臨戦態勢へと向きなおした。

 姿勢を低くして近づく俺に対して槍を突いてくるが、それを鉄糸で引っ掛けるようにして上方向に打ち上げた。

 槍はおっさんの持っている地点を中心に半回転し、焦ったおっさんが少しだけ浮いた槍を掴みなおすと、穂が俺に向いた状態で停止した。


「槍の持ち方が間違ってたから正してやったぞ」

「ぐっ……小僧おぉぉ。 こっちが優しくしてりゃぁいい気になりやがって!」


 吹っ切れたのか、槍の向きをそのままに何度も突きを繰り返す。それを避けたり往なしたりして浅くも鋭い傷をおっさんの槍へと刻み続ける。

 ドロップの能力によってその傷はすぐに補強されるが、着実にそれを何度も続けていると……


「なっ……!?」


 おっさんのドロップで生成された槍が塵のようになって消えていく。ドロップのエネルギーが尽きてしまったようだ。

 驚きのあまり、呆然と立ち尽くすおっさんの首にすかさず鉄糸を巻き付けながら一言言い放つ。


「俺の勝ちだな」

「……あぁ、参った」


 眉を顰めながらではあるが、そう答えたのを受けて生成していた鉄糸を消失させた。


 ……


「いやー、小僧だと侮ってた。 強いなお前!」


 人の背中を『バシバシ』と叩きながら調子良さそうにおっさんはそう話す。

 闘技場の受付で出場権を譲渡するには同伴の必要があるので、致し方なく横並びで歩いていた。


「……褒めたところで、今更なかったことなんてしないぞ」

「んなことはわかってる。 小僧はおれより強かった。 それなら出場権を譲るのは当然だし、面白れぇからな!」


 再度背中を叩かれる。身長が倍近くもあるおっさんが加減もせずに叩くので、体ごと宙に浮くが、無理やり力の制御をして体制を立てなおす。


(普通の子供にやったら怪我じゃ済まねーんだが……)


 最後の方はその攻撃を避けながら受付へとたどり着いた。


「ボルノスさん、参加の受付にはまだ早いです――あれ、今朝来たぼくも……。 まさかボルノスさんに粗相を?」


 受付の女性がおっさんと俺を交互に見てそう話す。


(そういえばこのおっさん、ボルノスっていうのか)


 そういえば聞いてなかったな。と考えているうちに、受付の女性とボルノスが話を進める。


「いや、おれはこの小僧に出場権を譲渡することにした。 その手続きを頼む」

「え、何故そのようなことに……」

「一先取で試合をしたんだが、負けちまってな。 正直おれより強いみてぇだし、一応約束しちまったからな」

「そ、それは本当なんですか!?」


 思わず身を乗り出した受付の女性から全身を隈なく見つめられる。


「本当だ。 おれが戦いにおいて冗談を言うやつじゃないのは知ってんだろ」

「はぁ……。 承知しました――」


 俺が一言も話すことなく、手続きが進んでいく。


(おなか、空いた……)


「――では、新たに登録となる選手の名前を……」

「そういえばおれも小僧の名前を聞いてなかったな」


 手空きになり、闘技場の方を眺めながらそう考えていると名前を尋ねられる。


「俺の名前は、カーティス・スターターだ」




==杏耶莉(あやり)=エルリーン・南中央道==


 飲食店を後にしてマークと生成食品を扱っている市場へと歩く途次、人の流れがある方向に定まっていることに気が付く。

 その人達は一様にして同じようなチラシかパンフレットを手に持っていた。


「マークさん、もしかして今日って何かイベントでもやってるんですか?」

「えーっと……そういえば闘技大会が開催されているね」


 闘技大会、異種格闘戦のようなものだろうか。その話を裏付けるように人の流れを目で追っていくと、遠くに円形の壁で囲われた大きな建造物が見えた。おそらくスタジアムか何かだろう。


「それって、ドロップも使ったりするのですか?」

「そうだね。 全員じゃないけど、使う人は珍しくないよ」


 つい先ほど初めてドロップを使用した興奮が残っているのだろうか。そのドロップを使った戦いを見てみたいと考えていた。

 そもそも、私個人として母の影響でプロレス好きであり、その手のものに抵抗がなかったのも影響しているのかもしれない。


「見てみたいのですが……それって良いでしょうか?」

「それは構わないよ。 でも、先に寄りたいと思っていた店があるから、その後で良ければだけど」

「それで大丈夫です」


 後ろ髪を引かれる気持ちはあるが、まずはそのお店へと向かうことになった。


 ……


「いらっしゃいませ、ベレサーキス様。 本日はどのような品をご所望でしょうか」


 見るからに豪華な建物の扉を開けると、待ち構えていたように上品そうな男性の店員がマークに接客を始める。


「急用で外出することになってね。 そのついでに寄らせてもらったよ」

「左様でございますか。 其方のお連れの方は?」

「……あまり詳しくは言えないかな」

「これは……失礼いたしました」


 店内を見渡すと、外装に劣らない装飾が施され、宝石店にありそうな細長いガラスケースがいくつか置かれている。

 床は反射しそうな程にピカピカで、天井にはシャンデリアが煌びやかに光っている。


「でも、それに関係もしてるね。 彼女の適性、剣のドロップをニ十個用意できるかな?」

「かしこまりました。 在庫が御座いますのでご用意いたします」

「それと、サイズの合うドロップポーチも頼むよ」


 ガラスケースをのぞき込むと読めない名札と共にビー玉のようなものが置かれていた。

 無色透明ではなく色とりどりではあるものの、それはつい先程私が初めて見たドロップに間違いないのだろう。


「ではお連れ様の採寸を致しますので、奥の部屋へとお願いいたします」

「……へ? あっ、はい」


 突然隣から女性店員に話しかけられ、気圧されながらも奥の部屋へと連れられていく。


 奥の部屋はいかにも採寸室といった感じで、大きな姿鏡に服を掛けるためのハンガーや、足のサイズを測れそうなものが置かれていた。


「それでは失礼致します」


 女性店員に『するっ』とメジャーを腰に巻かれて、サイズが測られる。同年代と比べて細い方であるためか、羞恥心は特にない。

 サイズがすぐに測れたのだろう。すぐにメジャーを解くと、何やら紙にそれを記載していた。


「お連れ様、お名前をお願い致します」

「あ、はい。 春宮(はるみや) 杏耶莉(あやり)です」


 そう答えると再度ペンを走らせる。それをぼーっと見ていると、女性店員からこんな質問をされる。


「……ハルミヤ様は、ベレサーキス様とどういった関係なのでしょうか?」


 マークとの関係……そういえば何だろうか。命の恩人と助けられた人?

 そもそもなぜ身の回りの責任を持つなどという言葉を言われたのか……。出会って一日目だが、その理由は考えていなかった。


「……さぁ?」

「…………恋人ではないのですね?」

「???」


 突然予想外の方向からの質問が投げつけられる。困惑のあまり数秒口を大きく開けていたことに気が付かなかった。


(あ、そういうことか。 マークって顔が整ってるし、お金持ってそうだしね)


 店員はお店の常連だと思われる、マークを狙っているのだろう。


(玉の輿? それとも、ただタイプだから?)


 それで突然現れたライバルと思わしき私に探りを入れてきたという事なのだろう。

 私の反応に対して明らかに安堵している様子を見て、間違いないだろうと確信する。


(マークには悪いけどタイプじゃないし……。 とはいえ援助してくれているのはなんでだろう?)


 マークと半日とはいえ一緒に居て、倒れている私を見て恋をした、って感じでは間違いなくないだろう。

 折を見てそのことについて聞くことに決めた。


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