第54話③ 王族の挨拶
==杏耶莉=炎天の節・十六週目=エルリーン城・選挙会場==
フィオルナを交えての談笑に花を咲かせていると、突然この会場の照明が吹き消される。
「ん!? 何だ! 敵襲か!?」
「いいえ、違いますわ」
瑞紀を否定するチェルティーナの言葉を裏付けるが如く、周囲の人達に焦る様子は見られない。そして、聞こえていた周りの話し声も急激に窄んでいく。
小さく聞こえる布が擦れる音を除いて、この会場に静寂が訪れる。言い様のない緊張感に私も飲まれ、慎重に生唾を飲み込む。
そんな瞬間、会場の壇上の部分にだけ明かりが灯る。その下には三つの人影があった。
「――富貴ある者共よ! よくぞ此度は集まってくれた!」
「私達は貴公らの参加に、最大の謝辞を送らせて頂きますわ!」
「……」
その三人はこの国の王族である第一王子ディンデルギナ、第一王女ディクタニア。そしてそんな二人に挟まれた仮面の男性だった。
「(おい、あれって……)」
「(えぇ、想像の通りですわ)」
瑞紀の小声の疑問に、再度チェルティーナが答える。
顔を仮面で隠し、それでいて体格がわかりづらい服に折れ曲がった腰付きで頼りない様相をしているが、立ち位置や背丈からして間違いなく第二王子ラングリッドだろう。普段見ている王子としての姿とも、ランケットのリーダーであるグリッドとも違う様子だった。
「この国の今後を左右する重要な場へと参加することの重大さを今一度理解し――」
「この国の繁栄の為にどの者が王位に就こうと全霊で以て尽くしてくださいませ!」
「……」
あくまでもこの場では王位継承権を有する平等な者である。それを示しているのか交互にディンデルギナとディクタニアが挨拶を進めていく。対してラングリッドは終始沈黙を貫いている。
「既に誰に票を入れるか、それは代理として参加している者も存在するという事実からわかる通り、もう決しているのでしょう!」
「だが、不正は許されぬ! それを理解した上で、投票用ドロップを回収させていただく!」
「爵位の高い者から名を読み上げていきますわ! 順に此方へと上がり、ドロップを収めて下さいませ!」
「どの者が誰に票を入れたかという詮索はあくまで本人の証言に留めてもらう。 他の者のドロップを盗み見るなどこの場にて処断される覚悟があると見なす」
この場には、従者といった連れの入場は認められていない。瑞紀達の様な例外を除いて全員が貴族だった。普段の社交界なんかとは集まっている人数が違うので、すし詰めになりかねない。だが、それ以上に人を使っての不正なんかを防止する意味も含まれていたらしい。
「では回収を開始する!」
その言葉で会場の明かりが元に戻る。そうして王族二人が交互に名を呼んでいく。
「エカルゴッス――」
一人づつ呼ばれた人から王子達の方へと向かい、投票用ドロップをと収める。そんな様子は学校の卒業証書授与を思い出させられる。
「……結構長そうだな」
「その為にこんなお昼からやってるんでしょ」
「お貴族様は時間の使い方が贅沢だなぁ」
嫌味っぽい瑞紀の発言に、チェルティーナが諭す。
「仕方がありませんわ。 国のこれからを決める重要な場ですもの」
「でも流石に椅子もないのは困りますね……」
「あー、それわたしも思った」
楓の言う通り、確かに座る事もできない。
「我慢してもらうしかありませんわ。 多少は歩いて紛らわせていただいて構いませんので」
「はい、そうします」
「私は慣れてるけど、二人はこういう恰好で長くってのはないもんね」
そう話をしていると、フィオルナは首を傾げて疑問を口にする。
「アヤリ先生、ご友人の御二人はどの様な理由でこの場にいらしているのでしょう?」
「それは立ち会ってもらうためにって――」
「自慢ではありませんが、わたくしは箱入りですわ。 ですがそれでも先程のお話が方便であると理解出来ない程疎かであるとは自負しておりませんわ」
「……」
と質問されても、実の所私も知らない。それを見かねたチェルティーナが横から割り入る。
「ルナリーズ嬢、その説明は私からしますわ。 と言っても現時点で私の口から話せる内容は一言だけですわね。 これは此方の三人にも伝えていませんでしたが、あの方の感謝ですわ」
「感謝? 突っ立って暇な時間を過ごすのがか?」
「詳しくは申せませんわ。 ですが、今の言葉に偽りはありませんわね」
「はーあー?」
「……承知しました。 後程理解できるのですのね。 教えて下さりありがとう存じますわ」
大して情報を得られなかったにも関わらず、フィオルナはお礼の言葉を口にして腰を曲げた。
「おいおい納得しちゃうのかよ! わたしは納得してないんだが――」
「アンタはちょっと黙ってる!」
横から五月蠅い不躾な瑞紀の口を掴んで横に引っ張る。
「痛ででででで!」
「ほんっと、恥ずかしいんだけど……」
「お前はわたしの母親か!」
そうしてると、周りから目立っているのに気が付く。瑞紀を適当に黙らせて、周囲に向かって謝罪の礼をした。
そんな時、檀上に居る仮面の王子と目が合った気がした。




