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第53話② 愉快な第七隊


==マローザ=炎天の節・八週目=エルリーン城・第一王子執務室の扉前==


「あー、もう疲れちゃったぜ☆。 もう眠いし隊長に進言して休みません?」


 第一王子殿下の執務室前で警備として立っていたライディンはその場にしゃがみ込む。


「ライディン……。 幾ら警備とはいえ、殿下からの勅命で我らは居るんだぞ?」

「そうだよラディ君ー。 しっかりやらな――ふあぁっ……」


 自分なりに真面目だという恰好をしようと発言したのだが、日が沈む時間になっていたのもあって思わず欠伸交じりになってしまう。


「マロちゃんも人の事を言えた態度ではないよね?」

「別にオレらがこんな風に出張って来なくても、暗殺なんてされないっしょ☆」

「おい、馬鹿者……。 おいそれとそういう単語を発するな!」

「ジャッベルのが声大きいし?」

「はぁ、全く……」


 額に手を当てて溜息を付くジャッベル。ライディンや私の相手をしなければならず、大変そうだ。


「ノアックも何か言ってやってくれ」

「敵影、確認できず」


 ずーっと静かだったノアックは話し掛けられるとそう静かに答えた。


「そうじゃなくて、この二人に……」

「戦闘までに疲れたら、元も子もない」

「お、ノアックわかってるぅ☆」

「ですよねー」

「君達は……」


 少し訂正。不真面目なライディンや私、そして真面目過ぎでズレているノアックの相手をしなければならず、ジャッベル大変そうだ。


「そもそもだが……室内の警備はゾロギグドとメイリース、そして隊長に任せ、扉の警備をこの四人でなんだろうね……」


 我らが第七隊、ほぼ全出撃である。唯一参加していないのは副隊長兼事務仕事担当のディンバルだけ。


「そりゃあ足が速いオレは☆応援☆を呼びに走れるし、ノアックはそういうの得意っしょ?」

「でもって私は、氷で壁とか作って侵入を防げるよねー」

「ならオレの役割は……?」

「緩衝材かなー?」「胃を痛める役☆」「お目付け」

「ぐっ……」


 三者三様で適当な事を言う。いや、ノアックは真面目に答えてそうだが、それはそれでジャッベルはダメージを受けていた。


「やっぱうちの隊、人手不足ですよねー」

「……まぁそうだね」

「アヤリちゃんが居たらなー」


 比較的頻繁に交流をしている後輩ちゃんを思い出す。


「アヤちゃんも気が付けば重要な役回りを頼まれる立場だからね。 近々爵位が上がるかもしれないと家の者が噂していたよ」

「おっ、珍しくジャッベルが貴族っぽい事言ってる☆」

「――珍しくない」


 即座に否定する。彼は案外気にしているので、私はそこは茶化さない。


「でもジャッ君の言う通り、何か遠い人になっちゃったなー、アヤリちゃん。 アヤリちゃんより後にうちに入隊した人はアヤリちゃんよりも短い期間しか続かないしー」

「それな☆」

「それは君たちが――いや、君たちだけじゃないか……。 ゾロギグドさんもディンバルさんも……騎士になって間もない子をどうしてこうも虐めるんだ」


 虐めとは人聞きが悪い。私は即座に反論する。


「そんな事してないよー? 剣術を教えても覚えないってだけー」

「……君はアヤちゃんの基準を全員に求めるのが悪い。 特に大人げなく氷のドロップまで訓練で持ちだしていたしね」

「そんなことー……あるかも」


 続けてライディンも反論する。


「オレも入隊した女の子に優・し・くしてるのに☆」

「偶然を装って臀部を撫でたり、しつこく付きまとって移動願を出しているんだが?」

「た・ま・た・ま、ですよ?」


 無関係だと黙っていたノアックにジャッベルから指摘をする。


「……」

「君もしゃべらないで不気味に思われていたりするよね?」

「――!?」

「まったく……あのままアヤちゃんが残っていてくれれば幾分かはマシだったけど……」

「一時期故郷に帰省してましたもんねー。 まだレスプディアに来てくれて、偶に顔を出してくれるだけ良かったーって思わないとですよー」

「それは君の場合、訓練相手としてだよね? まぁ、一時期は接しづらくなったとも思ったけど、良くも悪くも想像以上に言動が変わらなかったのはアヤちゃんの性格なのかな?」

「それにしたって、最後まで接し方がぎこちなかったのはジャッベルだったけどね☆」


 家督を継げない貴族の悩みなど、明日生きるお金に困ったりする平民に比べれば大した悩みでもない。……とも思うが、それにしたってジャッベルはコンプレックスが強すぎるきらいがある。


「比較的避けられてる君が言うのか はぁ……」

「そう溜息ばかり付くと禿げちゃうぞ☆」


 人をからかうにも限度がある。唯でさえ一日中慣れない警備をしていた反動で、ジャッベルがプッツンした音が聞こえた気がする。


「……そうか、君は切られたいのか? それならそこを動かずに待っていてくれ」

「――ちょっ……目がマジじゃね? え……助けてマロちゃん、ノアック!」

「自業自得ですよー」「黙秘」

「覚悟――!」

「ひょえっ! マジで剣抜くのか――ぬぉっ!?」


 本気ではないのは傍から見れば明らかで、ライディンの足なら避けられる一撃だった。だが、避けなければ頭から叩き切られていてもおかしくない攻撃に、本気でライディンが驚く。


「お前等、五月蠅いぞ!」


 騒々しい音は室内にも届いていたらしく、ゾロギグドが扉を開けて叱咤する。その間、私はノアックみたいに真面目にしている振りをしながら欠伸を噛み殺した。


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