第7話③ 騎士団第七隊のメンバー
==杏耶莉=騎士団第七隊宿舎・隊長室==
「……騎士団に入団してほしいってことですか?
騎士団第七隊の宿舎に呼ばれた私は、その隊にスカウトされていた。
「有り体に言えばそうなるね。 アヤリ君の能力に関してはゾロギグドから聞いているんだ。 この件に関しては殿下にも話をしているので気にしなくていい」
「能力……ですか?」
「そうだ。 君は自覚していないみたいだけど、君の剣のドロップを使った際の行動ははっきり言って異常だ」
「……? どこがですか?」
異常とまで言われていしまうと気になる。メルヴァータの話す通り自覚などしていなかった。
「聞くところによれば、君の剣は炎を切り裂き、一撃で敵を昏倒させたらしいね。 何をどうしたらそんな芸当ができるのか……」
「どこか可笑しなところがありましたか?」
日本で友人から借りた少年漫画では、そういうことを普通に行っていた。
「私の世界では当たり前でしたよ?」
「君の世界はどうなっているんだ……。 ここ世界では、剣という武器は刃を剣の重みで押し付けて叩き切るのが普通だ。 それに、大した外傷もなく敵を気絶させるなど以ての外だ」
メルヴァータは額を抑えながら困った表情をする。
(ここではそうなんだ……)
「そのような特異な能力は一歩間違えれば事故を起こしてしまうかもしれない。 この鉾槍のようにね」
そう言って彼が取り出したのは、以前私が路地裏で真っ二つにした長い武器だった。
「これはランケットという自警団のある男性が持っていたものだ。 これをこのような状態にしたのは君なのだろう?」
「おそらくそうです……」
その場の勢いで動いてしまった結果、この武器を破壊してしまったことは後悔していることだった。
「力は使いようだ。 誤った使い方ではいつか取り返しのつかないことになるかもしれない。 だが、我が隊で力の使い方を教えてあげることはできる。 アヤリ君にとって悪い話ではないと思うが……」
たしかに、彼の言う通りだった。私自身剣に関して素人もいいとこだろう。元々護身用として携帯しているドロップを正しい使い方ができた方が良いのだろう。
「……話は分かりました。 でも、この話ってそちらの利点ってあるんですか?」
疑問に思ったことを質問する。本音を言えば真意が知りたかった。
「……実をいえば君自体を戦力として期待していない、殿下の話では君はいつこの世界から居なくなるかわからないからね。 ……君の特殊な能力を隊員に取り込めればと考えているんだ」
「つまり、剣の使い方を教える代わりに私の能力を教えれればということですか?」
「話が早くて助かるよ」
悪い話ではないのだろう。実は、マークからドロップの適性の成長過程についてデータを取りたいと言われた際に、「剣の訓練でもできれば……」とぼやいていたのだ。形だけとはいえ手伝うことになっているのでそういう理由でもこの話は都合が良かった。
「……その提案に乗るには、条件が幾つかあります」
「それは?」
「私はこの宿舎で寝泊りせずに通いにすることは可能ですか?」
男所帯と思われる場所に住むのは気が進まない。というより、ライディンという男性と一緒に住むのに拒否反応が出ていた。
「それは構わない、というよりそうお願いするつもりだったんだ。 君は年齢的にも正式な騎士ではなく騎士見習いという扱いになるからね。 その場合は宿舎は利用できない決まりで、見習いの宿舎か通いかになっていた」
「それは、わかりました。 あとは……訓練に参加する日程は私の都合優先でお願いできますか?」
「それも構わない。 一応平民の騎士見習いという扱いにはなってしまうが、それ以上に公表こそできないが大切なこの世界への客人だからね。 あらかじめ予定を連絡してくれれば問題ない」
訓練参加の日程を自由にできるという条件も呑んでしまう。そこまでして私を取り込みたいということなのだろう。
「では最後に……。 あれを私に近づけないで貰えますか?」
私が指さした先の窓にへばり付いていたライディンは、振り返ったメルヴァータ達にビクつくと、一目散で逃げ出した。
「……善処しよう」
「確実にお願いします」
ゾロギグドに追いかけられて、再度窓を横切ったライディンを見ながら、念を押した。
……
今日で騎士見習いになるというわけにはいかず、様々な手続きを経る必要があるらしい。「今日の所は見学でもしてから帰ってくれて構わない」と言われた私は、呼び出されたノアックに連れられて広場のような場所に案内される。
「ここだ」
必要最低限以外喋らないノアックは、私としては絡みづらい。現状話し易いジャッベルを見つけると、そちらに駆け寄った。
「隊長との話は済みましたか?」
「はい、ありがとうございました」
「オレは指示されたことをやっただけですよ」
そんなやり取りをしていると、一組の見知らぬ男女が近づいてきていた。
「嬢ちゃんがゾロギグドの言ってた例のあれか」
「私以外の女性隊員候補は嬉しいなー」
「えぇと……どちら様ですか?」
ジャッベルに質問すると彼ら彼女らを説明してくれる。
「男性がメイリース。 で、女性がマローザ。 マローザは第七隊唯一の女性騎士ですね」
「メイリースだ。 よろしく頼む」
「マローザ・ツァベルでーす」
「あ、はい。 アヤリです。 お願いします」
マローザと名乗った女性騎士は、おっとりとした顔つきでゆったりと私に近づく。
「隊長に会ったんだよね? かっこよくなかった?」
「え、かっこいい?」
「マロちゃんのいつものアレか……」
「こうなったら止まりませんからね……」
諦めた様子の男性騎士二人を尻目に、怒涛の勢いでマローザは話を続ける。
「メルタ隊長、凄く素敵じゃない? アヤリちゃんから見て、どう映った? 私以外男しか居ないからこういう話がなっかなかできなくて、どうだった? どうだった??」
「えぇと……」
初対面の印象としては、悪くはないと思う。ルックスはかなり良くて、会話内容から私を尊重してくれている気遣いが感じられた。それに、騎士団の隊長を勤めているということは仕事もできる人間なのだろう。
だが、個人的に恋愛対象に見れるかどうかと問われれば、否だった。私は十二だが、おそらく相手は二十代後半だろう。多めに見ても十歳ぐらいの差が私の限界だった。
それはさておき、目と鼻の先に近づくマローザに悪いので、当たり障りのない返答をした。
「す、素敵だと思いますよ?」
「本当!? そうだよねー。 でもみんななっかなか隊長のことわかってくれなくてー。 ああ見えて甘いもの好きだったり――」
止まらない早口で、隊長の長所やエピソードを語りだす。熱心なアイドルファンの様な彼女を止めてくれる人はおらず、追いかけられていたライディンが私を盾にするまでその話は続いた。




