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第51話④ 生徒との接触


==杏耶莉(あやり)=炎天の節・二週目=特権学校・校庭==


 私は到着して早々学園長室へと赴いて手続きをしたり、学校紹介と称して各施設を巡って教員への挨拶回りをさせられた。そんな長い半日を過ごしたのち、第一回の剣術指南が始まった。


「――という事で、指導を担当するアヤリ先生だ」

「あ、はい。 杏耶莉(あやり)春宮(はるみや)です。 よろしくお願いします……」


 武術を担当している教師――名前の紹介はあったと思うが忘れた。そんながたいの良い男性に紹介されておずおず自己紹介をする。


「情報収集に不備のない生徒諸君であれば理解しているだろうが、爵位こそ男爵だがディンデルギナ殿下の覚えの良い方だ。 くれぐれも粗相のない様に」

「「「はいっ!」」」


 「それでは、あとはお任せします」と言い残してそそくさと校庭を後にする武術教師。そんな彼だができれば見学……参加したいとまで言っていたのだが、ここの教師は誰も彼も何かと多忙らしい。

 私の背後にはカティこそ控えているが、この集まりの主役では私である。そんな私へと四十はある視線が注がれる。今回担当する生徒の人数は二十名なのだが、これでも絞りに絞った末の人数だと言われて驚きである。

 そんな注目を受けて緊張からか固まっていると、一人の男の子が私へと近寄って話し掛けてきた。


「アヤリお姉様。 お久しぶりです。」

「え……? ん……あっ! もしかしてルピルドくん?」

「はい、一周期ぶりですね。」

「やっぱり!」


 その男の子はチェルティーナの弟、ルピルド・レスタリーチェだった。


「久しぶりだね。 背、けっこう伸びたねー」

「恐縮です。 先達ての我が領での一件、領主一族の一人としてお礼申し上げます。」

「そういえばあの時会わなかったもんね。 ここに居たんだ」

「お恥ずかしいお話、お姉様程優秀ではありませんので……。」

「……あれと比べられるのも大変だね」

「……えぇ、本当に。」


 私の感覚で表現するなら、小学校入学して間もない子供が高校卒業レベルの問題を問いてしまうという偉業である。それも筆記だけでなく作法などの実技も込みである。


「あれ、今回の集まりって――」

「(その辺りはご内密に。 ぼくが参加している理由は後程ご説明します。)」

「あ、(うん、わかった)」


 あくまで剣を教えるというのは大義名分、本来の狙いには政治的思惑が含まれている。当然参加している子の親は多かれ少なかれ狙いがあるぐらいは察しているだろう。ここに居る生徒はその限りではないかもしれないが……。

 私がルピルドと会話をした事で緊張が解れ、生徒側の緊張もある程度解かれたらしい。生徒の中でも中心人物と思わしき男の子が歩いて来た。


「おい、ハルミヤ男爵! わたしは公爵家であり、エカルゴッスの分家という由緒正しきスカルエ家の出――つまり貴様より上の身分だ。 それを弁えて貴様の特別な技とやらを提供しろ!」

「え……?」


 突然そんな事を言われて停止する私の代わりに、ルピルドが言い返す。


「クーゴン。 アヤリお姉様は爵位を直々に殿下から賜った身。 対して君は生まれが公爵家であったというだけで、まだ継承もされていない。 幾ら身分差があったとしてもそれを振り翳すのは貴族にあるまじき行為ではないか?」

「何を言い出すかと思えば……。 ルピルド、貴様こそ姉に爵位を奪われて身分を持たぬではないか。 名家レスタリーチェも落ちたものだな。 わたしは長子であり、ゆくゆくは爵位を継承する身だ。 その前借りと考えれば可笑しくもあるまい」


 子供とは思えないやり取りに驚いていると、横から別の生徒に話し掛けられる。


「えぇと……ハルミヤ先生、で宜しいですか?」

「え、うん。 それで大丈夫……」

「ありがとう存じますわ。 わたくし、フィオルナ・ルナリーズと申しますの。 この度は剣のお稽古をする機会を与えていただきありがとう存じますわ」

「うん……」


 綺麗に整えられた髪に人形みたいに整った顔。そんなザ・ご令嬢という首から上と比べ、不釣り合いな動きやすい恰好でちぐはぐな印象を受けた。そんな体も、「本当に剣術をやりに来たんだよね?」と聞きたくなる程に華奢な手足をした女の子である。


「わたくし、以前人攫いに遭い掛けて……。 その時は偶然にも助けて頂いたのですが、それ以降自らの身は自らで守らねばと思ってましたの。 ですがお父様にそう進言しても反対されていたのですわ……。あ、お父様はとっても心配性ですの。 なのですが、今回はそう年の変わらない女性の――アヤリ先生だからと許可がいただけましたわ。 ですので、ありがとう存じますわ」

「そう、なんだ……。 じゃあお父さんを見返せるように頑張ろう」

「はい、ありがとう存じますわ」


 この子が強くなる想像は申し訳ないができない。だが、それでもやる気のあるフィオルナが自分の身が守れる程度には教えてあげようと思った。


「だが貴様、それでは我が国の高貴な血に不純が――」

「その血とやらも、爵位を得た代の者は身分など――」


 未だ言い争いを続けるルピルドとクーゴン。それを余所にフィオルナが切っ掛けとなって生徒の自己紹介という雪崩が私へと飛び込んだ。


 元々今日は顔合わせ程度の予定だったが、それでも少しは剣を持てるかと思っていた。だが、なんだかんだで落ち着く頃には日が傾く時間になってしまった。

 世話役として来てもらっていたエスタルが整えてくれていた借室のベッドで横になり、諸々の疲れからかそう間を置かずに意識が途切れた。


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