第51話③ 学園への道すがら
==杏耶莉=炎天の節・二週目=特権学校への道・馬車内==
城でのやり取りの後、追って詳細な説明を受けた。
そもそもの話、何故貴族の子供に剣を教える事が選挙でも有利に繋がるのか。そもそも次期王を決める重要なこのタイミングで剣術の指南なんてものに参加したい者が多いのか。そんな初歩的な部分を理解していなかったのである。
(説明はあったから良いけど……)
まず参加希望者が多い理由は、偏に需要があるかららしい。平時はそれを感じさせない町の様子ではあるものの、この国はギルノーディア帝国との戦時中である。
いつ何時国の招集で戦場に駆り出されるかわからない上で戦う力というよりは死なない為に何らかの武術を習得する家は少なくない。それは男性のみに限らないらしく、先代勇者チェルグリッタの影響もあって女性であっても心得のある貴族が多いのだと聞く。
国全体でそうした動きがあるのだから、講師の需要は高い。高給で現役の騎士が雇われるケースもあるそうだが、財政に余裕がある家ばかりではない。現役を退いた人を仕方なく雇う場合も多いのだそうだ。そこに今回、先の闘技大会と戦争で記録を残した私が無償で教えるとなれば飛びつく家は少なくないという。
勿論理由はそれだけではなく、高需要なこれに参加したという実績を他の貴族に示すことが出来る……とか、私そのものと繋がりを持って自らの家の地位をうんぬん……みたいな思惑もあったりするらしい。
(貴族って言っても、楽じゃないよね。 つくづく私は庶民に向いてると思う)
次にこの剣術指南が選挙有利になる理由だが、幾つか存在する。その一つは私の能力を貴族の中に広めさせるというのがあるという。
裏で色々やって私について有利となる情報を広めているらしいのだが、やはり貴族の子供を通じて実演する事が確実らしい。前回の戦は比較的早々に抑え込む事に成功したので、戦場に出た貴族は多くないし、大会においても直接身に来た貴族ばかりではないのだ。
そうして私の実力を示し、それがどの派閥に所属しているかを示すことが派閥移動を促す場合もあるという。本来、家の所属する派閥を変えるのは容易ではないそうだが、それでも今回の選挙にて投票する事で意思表明をすればそれを切り替えるチャンスでもあるらしい。
そんなこの指南であるが、公的には国の事業という位置づけではあるものの、実際は第一王子派主催という共通認識であるらしい。私にはよくわからないが……。
「――うぉっと……」
「大丈夫か、アヤリ」
「大丈夫……結構揺れたね。 大きな段差を踏んだのかな?」
そんな私が向かっているのは、特権学校という公子や公女を育てる学園である。場所は首都エルリーンの町から小一時間程馬車で向かった場所にぽつんと存在する。理由は国を支える貴族の子供という重要な存在が一か所に集まるから防衛の為らしい。やんちゃな子が脱走するのを防止する意味も含まれているそうだ。
私は剣術教師として出向いているが、武術が主体ではない……少しだけ扱っているそうだが。親が貴族の爵位を持ち、それを継承する為に必要な作法とか国の法律といった教養を学ぶ為の学校らしい。ここでの卒業証がなければ爵位を継承するのは敵わないという。因みに私みたいに親から爵位を継承される訳ではない人であれば不要である。別途教養を見に付ける必要はあるし、逆に私が子に爵位を継承させるには色々条件があるらしいが……。
費用は国から負担されて無償であるので、貴族の子供であれば殆どが通った道らしい。そう殆どが、である。そして通う年齢は九歳から十五《五周歳》。私の感覚からすれば入学が遅めではあるが小中学校だろうか。
その年齢を聞いて思い当たる人物が一人居た、チェルティーナである。彼女は私と出会った時点でここの卒業証を得ていたらしい。この学園へと通うのは必須ではないので、幼少期より家で雇った講師から学び、入学年齢の時点で卒業資格を得たそうだ。とんだエリートである。一応この学園は教養を身に付ける以外にも同年代の貴族間の知り合いを作ったり、人間関係の構築の側面もあるらしい。そんな彼女は実際に表で活動する夫人達とお茶会で交流し始めているので、学園を卒業した年上の子達が追い付けば構わないと豪語していた。非常に逞しい。
(凄い凄いとは思ってたけど、改めてレスタリーチェ家って凄いよね。 それ以前に王族とのやり取りも多いし、私ってかなり凄い人と知り合い……?)
そんな学園だが、年中稼働している訳でない。快天、灼天、炎天の三節のみ。私の感覚なら八ヵ月過ごして、四ヵ月は家に戻る。その後また四ヵ月過ごして、一年四ヵ月空けてからまた八ヵ月……。これを二周期繰り返すのだそうだ。つまり炎天の節である今の節は学園が開かれている。変則的なのはそれ以外の節はなんだかんだで忙しかったり、雪とかで移動が大変な気候だったりするかららしい。
その学園で過ごす生徒は併設された寮を利用しているそうだ。今回私が教える人達も大多数はそこで寝泊りしている。大多数ではない何名か……既に卒業を迎えた人なんかはわざわざ私の教えを受けに待機しているそうだ。
私が指南するのは週に一回。生徒側も毎日時間取れる訳ではないのだが、どちらかといえば私の都合でこの日程になっている。普段通り土日に来れば続けられる予定である。
(私と同年代……。 場合によっては年上の可能性もあるけど、教えるのに年齢は関係ないしね)
私は剣を覚える当初はカティに教わっていた。そんな私だが既にカティ曰く剣術に限れば教えることはないとお墨付きを貰っている。偶に実施している騎士団第七隊の人との剣の組手も勝率は悪くないので客観的に見て実力はあるものと思われる。それと一方的な手段ばかり用いていたが、あの失われた時間軸で剣を振り続けていた経験も作用しているのかもしれない。
「見えて来たぞ。 あれが特権学校だ」
「あれが……」
頭の中で情報の整理が終わった頃、同行者であるカティが馬車の外を指差す。小高い丘のこそには立派で大きな建物が見えた。
暫くはこっちの世界に居る間に限っては、あの建物での活動を余儀なくされる。それを考えて緊張から私は生唾を飲み込んだ。




