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第7話② 騎士団に呼ばれて


==杏耶莉(あやり)=南商業街・露店通り==


「あ、見つけた嬢ちゃん。 探しましたよ」


 勇者に関する史話の講義を聞いた数日後、いつも通りに食材を求めて露店巡りをしていると、がっちりとした体格をした二人組の男性に話しかけられる。


「……どちら様ですか?」

「あー、そうか。 この間は甲冑だったから。 オレです、ジャッベルです」


 その名前を聞いて思い出す。社交界襲撃の際に助けてくれた騎士の一人だった。彼のいう通り、当日は顔の判別ができない兜を付けていたので顔を見たのは初めてだった。


「あ、この前はお礼も言いそびれて……ありがとうございました。声を聞いて気が付くべきでしたね……」

「くぐもった声でしたし、それは構いませんよ。 それで――」

「君がその女の子? 意外と普通だなっ」

「……貴方はゾロギグドさんでもノアックさんでもなさそうですね」

「おい! すみません、勝手にこいつが……」

「オレはライディンって言いますっ。 頼んますよ嬢ちゃん」

「え、あ……。 はい」

「ジャッベルと態度が違くなくないっ?」


 ライディンと名乗った男性は両手の人差し指で私を指す。


「……」

「すみません、嬢ちゃん。 こいつ同じ隊のメンバーなんですが、迎えに上がる際に無理やり付いて来て……」

「でも実際、オレのお・か・げ☆で素早く見つけられたっしょ?」

「それはそうだが……」


 今度はジャッベルを指さす。


(私、こいつ、嫌い)


 特別理由こそないが、仲良くしたくない人種だった。

 そんなことよりもジャッベルの口から出てきた情報について気になる。


「ジャッベルさん、迎えに上がるって、私をですか?」

「――あぁ、そうです。 実はうちの隊の隊長が嬢ちゃんに会ってみたいとのことでして……。 今のお時間って大丈夫ですか?」


 今日も特に予定はない。既に購入した野菜は持ち帰る必要があるが、それを除けば時間は問題なかった。


「……隊長さん、って何の用ですか?」

「それはオレらにも聞かされてないんだよねぇ。 そ・れ・よ・り☆今度暇ならお茶しない?」

「嫌です」


 ジャッベルに質問したつもりだったがライディンが答えた。その後の誘いも反射的に断った。


「……野菜だけ持ち帰りたいですが、その後でよければ大丈夫です」

「マジで? お茶のお誘いした甲斐が――」

「そっちじゃないです。 ジャッベルさん……」

「……了解しました。 では一度嬢ちゃんの家に寄ってから向かいましょう」

「それならオレが届けるぜ。 その方が早いからなっ」


 ライディンは私が持っていた買い物袋を引っ手繰って走り去っていく。追いつくのが困難な速度で見えなくなったと思ったら、同じく高速で引き返してくる。


「そういえばアヤリちゃんのお家、知・ら・な・か・っ・た・ぞっ☆」


(私、こいつ、嫌い)


 住所を教えると、見る見るうちにまた姿が見えなくなる。


「……嬢ちゃん、すみません」

「……ジャッベルさんは悪くないです」


 一応騎士なので任せて大丈夫だと言われた私は、そのまま騎士の宿舎があるらしい場所へと向かった。


 ……


 王国騎士団。王族、貴族、そして国民を守るために結成された国直属の武装集団らしい。

 普段は城の警備を持ち回りで担当する他、有事の際やこの前のような催し事で駆り出されるのが主で、それ以外の日は武芸の研鑽に努めているとのことだった。

 町中の警備巡回をしていた歴史もあるが、現在はランケットといった自警団がそちらの領分になっているそうだった。

 そして、その昔は家督を継げない貴族の就職先という位置づけだったらしいが、現在は平民でも才能があればなることができるらしい。


「――とはいっても、平民を入隊させるのは第七隊(うち)か最大人数を誇る第一隊ぐらいですけどね」


 騎士について話すジャッベルはどことなく誇らしげな様子を感じる。


「平民は才能がないと駄目ということは、やっぱり条件が厳しいんですかね」

「一応基準に差はないんです。 ですが、貴族で生まれ育ったら幼いころから剣の訓練をしていますからね。 そういった教育が受けれないとなると必然的にそうなってしまいます」

「……因みに第七隊には何人平民が所属しているんですか?」

「嬢ちゃん平民ですもんね、気になりますか。 えーと……四名ですね。 第七隊(うち)は騎士団の中でも少数精鋭で通ってるのでそもそもその倍の八名しか籍を入れてないんですがね……」


 私が知り合った騎士団の隊は人数が少ないらしい。その精鋭に先程のライディン(あれ)が入ることに驚くのだが。

 そして私は正確には平民ではないが、それを説明するには出自についての話をしなければならず、気にしないことにした。


「半々なんですね。 それでジャッベルさんは貴族ですか?」

「よくわかりましたね。 実家では三男なので、将来を見据えて騎士を目指しました」

「……そうなんですか」


 貴族平民の区別は恰好ぐらいでしか判別できないので適当に貴族と答えたが、合っていたらしい。


「っと……到着しました。 ここが我らが騎士団第七隊の宿舎です」


 貴族出身の為に用意されたという言葉通り、他の豪邸に負けず劣らずな建物だった。だが、それ以上に訓練に使用するための広場のような場所の大きさに驚く。

 原則騎士に所属している人は国で用意した宿舎で寝泊りする決まりらしかった。


「ゾロギグドさん」

「おぉ戻ったか。 嬢ちゃんも一緒だな」


 訓練の途中だったのか、半裸で剣を握ったゾロギグドが出迎える。


「隊長なら執務室だ。 案内してやれ……。 と、ライディンはどうした?」

「それが……、勝手に動きました」

「またあいつは……。 (戻ったら罰として――だな)」


 ぼそっと呟くゾロギグドの一言に、私が対象ではないのに危機感を覚える。ジャッベルは慣れているのか「いつものか」という表情である。


「嬢ちゃん、こっちです」

「あ、はい」


 ジャッベルに連れられて建物内に入る。内装は外装に比べてて豪華さはなく、拍子抜けだった。


「こっちの部屋です。 隊長、例の嬢ちゃんを連れてきました」

「――入れ」


 ドアの向こうから男性の声が聞こえる。ジャッベルがドアを開けると、室内には二人の男性が私を待っていたらしい。

 ジャッベルに促され、「失礼します」と挨拶をしながらこの部屋へと入った。


「ご苦労だった。 ジャッベルは外してくれ」

「承知しました」


 前方に座る黒髪の男性の一言で唯一の知り合いが部屋から出ていく。扉が閉まった時点で強い緊張を感じていると、その男性が口を開いた。


「話がしたいのでそこの席に掛けてもらえるかな?」

「はいっ……」


 指定された席に座って深呼吸すると、この男性は優しく笑う。


「君をどうこうするつもりはないから、まず肩の力を抜いてほしい。 まずは自己紹介から。 私の名前はメルヴァータ、これでも第七隊を任されている身だ。 よろしくお願いするよ」

「よろしくお願いします」

「それで、脇に居る彼は副隊長のディンバル。 彼は同席してもらっているけど気にしなくていいから」


 ディンバルという男性は、目の前の書類から目を離して私に会釈する。同じく会釈を返すと、また書類に視線を戻した。


「それで、アヤリ君。 他の隊員は知らないが、私とディンバルは君の素上について殿下から話をされている。 この場では隠す必要はないよ」

「……わかりました」


 私の言葉を聞いて、再度優しそうに笑う。騎士団の隊長という肩書があるとは思えない程の柔らかい印象に緊張が解れていく。


「本題に入ろうか。 腹の探り合いは私も好きでない、単刀直入に言おう。 アヤリ君を我が隊にスカウトしたい、君は騎士団に興味はないかな?」

「……え?」


 予想外な一言に私の頭はフリーズした。


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