第51話② 王位継承選挙の現状
とんでもなく期間が空いてしまいましてすみません。。。
多分、きっと、恐らく、次はここまで遅くならないと思います。
==杏耶莉=炎天の節・一週目=エルリーン城・会議室==
選挙の手伝い。そう言われて最初に想像したのは応援演説の様なものである。
私に自覚はないのだが、ネームバリューというものががそれなりにあるのであれば、利用しようとしているのでは?と考えたからである。
そんな内容を含んで質問すると、チェルティーナは首を横に振った。王子達の表情からも私の質問は誤りであったらしい。
「――違いますわ。 その辺りの説明からすべきですわね」
「……?」
自分が説明するという目配せを王子二人にした後、チェルティーナはこの王位継承選挙の詳細について話し始める。
「……先ず選挙とは何か、という部分の説明は不要ですわね?」
「はい、大丈夫です」
「では、その選挙の選挙権を有するのは爵位のある者……つまり貴族のみですわ。 位によってその比重こそ差がありますが、アヤリ様もそこに含まれますわね」
「……なるほど」
日本でも一般人が政治に関与できるようになったのは戦後時代からである。それを考えれば身分制度があるこの国でそうした格差が存在するのは引っかかる部分ではあるものの、理解は出来た。
「念の為確認しておきますが、アヤリ様はディンデルギナ殿下を支持するという意向で構いませんわね?」
「……それって、拒否権ないですよね? ……別にディクタニア様を支持するつもりもないので構わないですけど」
戦争を推し進める意思を示しているディクタニアが王位に就くのは寧ろ否定的であるし、残りの王子二人でディンデルギナが就くと決めているならそこに不満はなかった。
「一応聞いただけですわ。 それで、現在の情勢に関してですが……第一王子、ディンデルギナ殿下が全体の四割。 第一王女、ディクタニア殿下が三割。 第二王子、ラング殿下が一割。 残りの二割は未だ、意思を示していない状況ですわ」
「あれ? ラング様はディンデルギナ様を支持してるから候補から外れてるんじゃないんですか……?」
「事実としてはそうですわ――」
「公にはそう公言してはいない。 ワタシが第一王子に下っていると流布すれば、この選挙の公平性が損なわれていると指摘される可能性がある」
チェルティーナの言葉を補足する様に、ラングが言葉を付け加える。
「ですが、一割でもディンデルギナ様の支持に加えられれば――」
「そう話を急ぐでない。 順を追って説明する」
「は、はい……」
ディンデルギナにもそう言われ、私は返事をして黙る。
ラングに「チェチェ、続きを」と促されたチェルティーナは続きを話す。
「それで……ラング殿下は公的には政は疎か、まともな活動をしていないという事は存じておりますわね?」
「知ってます」
自警団ランケットのリーダーが実は第二王子だった。というのは殆ど知られていない。貴族を含めた大多数には自室から外へと出ていない引き籠り王子と認識されている。
「そして、ラング殿下が信を置ける方はそれらの事実を存じていますわ。 そうした方々は現時点ではラング殿下を支持していると表向きはなっていますが、最終的にはディンデルギナ殿下に票を入れていただく手筈ですの。 ですので、先程の割合ではディンデルギナ殿下の部分に含めて説明しましたわ」
「でも、一割はラング様派が居るって……」
そう聞き返した時点で、チェルティーナがそこに気づくのを待っていたと言わんばかりに声を張った。
「そうですわ! その一割は本来あり得ない存在。 それを炙り出すのが今回並行して行われているのですわ!」
「厳密には一割に満たない人数ではあるが、それらの中にはワタシを利用して実権を握ろうと画策する者も居ると考えている。 それらが全員そうであるという訳ではないだろうが」
「なるほど……」
そこまで聞いた私は、やっと話の本質が見えてきた。
「つまり、私がその貴族を排除するんですね!」
「だから、何故其方はそう血の気が多いのだ……」
そんな説明をされたので、確信を持って発言した内容は即座にディンデルギナに否定される。
「なら何でそんな説明を……」
「状況の説明は基本ですわ、アヤリ様」
「その不穏分子の対処は、ワタシとチェチェ。 そしてランケットを率いて話し合いをするつもりだ」
「話し合いですか……」
そういえばチェルティーナもランケットに籍を置いていると記憶していた。それに話し合いで解決できるならそれが一番だろう。
「なら大丈夫そうですね」
「……」
後ろからカティの溜息が聞こえたが、立ちっぱなしで疲れたのだろうか……?
「……まぁいいですわ。 それで、アヤリ様に頼みたい事ですが……ディクタニア殿下の三割を削ぎ、浮いている二割を可能な限り此方に引き込んでもらいたいと考えていますわ」
「引き込む……。 話し合いで……。 私に出来ますかね……?」
私が各地を回って説得する様子を想像する。
「其方にそういった駆け引きなんぞ求めておらぬ。 誰が話し合いでと申した?」
「うぇっ!?」
その様子を見ていたディンデルギナにそんな風に言われる。
「下級に位置する男爵の……それも先日得たばかりのアヤが囀った所で、誰が支持を変える? 何らかの手札がなければ無理だろう?」
「うぐっ……」
続いてラングにも丁寧に無理だと言われる。
「……アヤリ様が活躍できる場を私達で整えますわ。 その中で貴方の特異な部分のみを見せてくだされば十分ですわ」
「……」
そう最初から説明してくれれば良いものを、こう回りくどく説明するから恥ずかしい発言するのだ。
「それで、その場というのは何ですか?」
「先程話した引き入れたいディクタニア殿下派と決めかねている貴族方、それらの公子に剣術の指南をお願いしたいんですの」
「公子……つまりその貴族の人の子供ですか?」
「そうですわ。 家督を継ぎ、次期当主の候補である公子を中心に集めますわ。 狙いを隠す為に全体から希望者を募っておりますので、公女やそれ以外の者も含まれますわね。 それらを一手に引き受けてもらいますわ」
「……募ってるって事は、もう断れないですよね?」
水面下で動いている話らしいので、おずおずと聞いてみる。貴族の子供を預かるなど、下手を打てば最下の爵位しかない私の首は胴体と別れかねない。
「どうしてもというのであれば断っていただくことも可能ですわ」
「先の大会にて好成績を収め、戦争では功績を収めて爵位を得た特異な剣を扱う少女。 若年でありながらも、その剣技はかの剣豪の息子として技術を受け継ぐ騎士団第七隊隊長と同等である。 ……その様なハルミヤ男爵の教えを直接受けられると流布している。 既に多くの希望者の中から候補は絞っているぞ」
「引き受けていただけると有難いのですけれど……」
「……」
チェルティーナとラングは息の合った発言で私が断りづらい状況を作り出した。
「――っ、わかりました! やりますよ! もう断れないじゃないですか!」
こうして私は、どういう訳か貴族の子供に剣を教える事になった。




