第48話④ 楓の仲裁作戦その一
==楓=風天の節・十一週目=カーティス宅・リビング==
「――っと、無事着きましたね」
空き教室で六笠と話をした週の週末、春宮のステアクリスタルによって予定通りレスプディアに転移していた。
「……」
「(なぁおい、宿理。 本当に、あんな内容で仲直りさせられんのか?)」
やはり元気のなさそうな春宮を見て、六笠にそう小声で話す。
「(そう確信しています。 焦点は春宮さんが逃亡したと思われている事実です。 それさえ訂正出来れば、伊捺莉さんも心を開いてくれますよ)」
「(そう上手くいくもんかね?)」
心配そうに春宮を宥めるカティを尻目に携帯の時計で再確認する。前回の時点で待ち合わせの約束を取り付けているので、もう少しすればこの場所に伊捺莉が来る予定だ。その時の春宮姉妹が揃う瞬間が最大のチャンスである。
そうしている内に到着したらしい。呼び出されたので家主であるカティが玄関へと向かった。予定の時刻より少々早めではあったが、せっかち気味な伊捺莉らしい行動だろう。
そして現れたのは伊捺莉に加えてメグミとリスピラだった。メグミは同行する手筈となっていたのでその流れだろう。
リスピラも一度フェアルプへと転移している筈なので、それで仲良くなったからだと予想される。人懐っこい性格な妖精らしい行動だろう。
(フェアルプ。 私も一度行ってみたいものですね……。 ――っと、今は集中しましょう)
関係ない思考を振り払い、私は到着した伊捺莉達を見る。
楽し気に談笑している伊捺莉とリスピラ。その後ろを歩くメグミは少し不機嫌そうだった。何があったかは後程聞いておく事にする。だが、伊捺莉は姉の春宮を見つけて目の色が変わる。その刹那、部屋の空気も凍り付いた。
「「……」」
春宮もそうだが、事前に伊捺莉にも適当な理由でこの場に呼んでいた。少なくとも、鉢合わせるとは微塵も考えていなかっただろう。
「わ、私は――」
「待ってください、春宮さん。 少々お時間を取らせてください」
「え……」
そそくさと出て行こうとした春宮を引き留める。すると、伊捺莉が怒気を孕んで私を問い詰める。
「宿理さん、私を騙したんですか?」
「別に騙してはいません。 言わなかっただけです」
「それを騙すと言うんです。 この人――春宮さんの顔を見る事になるとは思ってませんでした」
「どの道明日には否応にも顔を合わせていましたよ?」
伊捺莉の目的である歪みの削除。その範囲に日本も含まれている。予定では春宮のステアクリスタルが使えるようになった明日に戻る予定だったのである。
「そういう話は結構です。 何が目的なんですか?」
「そうですね。 私は目的在りきでお二人をこの場に集めさせてもらいました。 今からその話を――あの事件の真実を話します」
この場の人間は春宮家の事件を知っている。唯一リスピラだけがきょとんとしているが、今だけでも黙ってくれさえいれば影響はない。
「……私達の世界で起きた事実として、春宮さんお一人が生き残った。 反面、パラレルワールドでは伊捺莉が生き残った。 この事実は認識していますね」
「それは私が――」
「一先ず先に話を聞いてください春宮さん。 その後、弁明でも何でも聞きます」
「っ……」
取り乱し掛けた春宮を黙らせる。それを心配そうにカティが隣に立った。対する伊捺莉は落ち着きつつも冷ややかな目で私と春宮を見ていた。
「……続けます。 それらの事実を踏まえて、何故双方の世界による差が生まれたのか。 それを私は考えていました。 そしてある結論を導き出しました。 ……勿体ぶっても仕方ありませんので簡潔に述べます。 私が出した結論は一つ、六笠さんの有無です」
「瑞紀の……?」
「えぇそうです。 春宮さんは知らないでしょうから説明しますが……何らかの理由によって、伊捺莉さん側の世界では、瑞紀さんはいらっしゃらないのだそうです。 単に春宮さんと親しくならなかっただけなのかもしれませんが、今は仮として存在しないものとでも扱っておきましょう」
仮にも当人も目の前に死んだだのと言って失礼ではないかと視線向けると、「わたしは構わん。 続けてくれ」と冷静に返されたので私は話の続きに戻る。
「そして、存在しない事が影響を及ぼします。 それがお二人の生死に影響したのではと考えています。 六笠さんより聞き出した話ですが、どうもその事件があった当日にキーホルダーを探してもらったそうです。 春宮さんは覚えていますか?」
「えぇと……。 ごめん、覚えてない。 その後に色々あったから……」
「無理もありません、思い出したくない事を思い出させてすみません。 ですが、六笠さんはそれを最後に暫く春宮さんと会えなかったので、鮮明に覚えていました。 そうですね?」
「……あぁ、確かに探してもらったな」
「再確認、ありがとうございます」
「それが何だと言うんですか? それと逃げた事に違いなんて……」
痺れを切らしたのか、伊捺莉は苛立ちを隠さずに質問する。
「はい。 確かにその違いというのは数分の差でしかありません。 ですが、その小さな差が大きな差になったのです。 以前聞いた春宮さんの話では、到着してお父様を見つける。 その後、二階の物音に気が付き、向かった所で倒れたお母様と刃物を振り下ろされる直前の伊捺莉さんを見つけた。 そうですね?」
「……うん」
「ですが、六笠さんの介入がなかった場合はどうでしたか? 伊捺莉さん」
「……」
私が話した、春宮に起きた事件。それと自分の知る事件に違いがあると気が付いたのだろう。伊捺莉は少考の後、ゆっくり口を開いた。
「私と、お母さんお父さんの三人で家でお姉ちゃんを待っている間に、あの男が来た。 お父さんが出たんだけど、その人は刃物を持って家に押し入って来て、お父さんが私とお母さんを逃がした。 そして階段を上がって、男も追って来て、その後にお姉ちゃんが帰って来た」
(……やはり、違いますね)
お姉ちゃん――春宮が家に着いたタイミングが違う。まだ母が殺されていない。伊捺莉がつらそうにしながらも続ける話に耳を傾ける。
「それで、お姉ちゃんも二階に上がって来て、お母さんが気が付いて『逃げろ』って言ったけど、その時に殺されちゃって、それを見てたお姉ちゃんが男に飛び掛かった。 それで、私に逃げろって……」
「そう、だったんだ……」
「――それなら、悪いのはわたしか」
誰に言われるでもなく、六笠がそう名乗りを上げた。




