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第48話① 歪みより出でし者


==メグミ=風天の節・十一週目=ルナリーズの町==


 私とイオリは、歪みとやらを削除しに各地を回っていた。

 エルリーンの町はカエデと共に回ったのだが、カエデは既に向こうの世界へと戻ってしまっている。土地勘のないイオリ一人でこの世界を回るのは厳しいので継続して手伝ってほしい。そして何があったのかを教えてほしいと言われている。


(それは不満じゃないけど、お金が心許ないよ)


 旅の資金は、私の貯金を切り崩している。かれこれ一周期弱はマークの元で雑務もとい手伝いをしていたのでそれなりには貯めていたのだ。だが、節約のせの字も頭になさそうなイオリは効率重視で列車やら馬車を利用するので、私の懐は寂しくなっていた。


「……っと、これでここの歪みは終わり。 次に行こう、メグミちゃん」

「わかりました」


 歪みを消して回るなどと言っても、その作業自体は目を見張る内容ではなかった。該当の地点まで来てから、イオリが()()と呼称するそれを操作して暫く待つだけである。


「次は何処ですか?」

「方角は……あっちの方だね。 距離は大体、六十キロぐらいかな?」

「……向こうのその辺りの場所には大きな町はありませんね」

「それならまた、馬車かな? 揺れるのあんまり好きじゃないんだけどね」

「……」


 さもありなんというイオリの態度に対し、徒歩という選択肢はないのか?と思わずにはいられない。だが実際、メグミと約束している次の週に間に合わせるには時間の余裕はあまりない。仕方ないと割り切って、近くの商店へと足を向けた。


 ……


 馬車と馬、そして私達二人には出来ない御者を代わりにやってもらう商人を一名借用して、イオリが反応があるという平原へと走らせている。人手と商売道具を借りているので、その額は馬鹿にはならない。その上あくまで借用なので、万が一馬を逃がしたり馬車を壊してしまったら損害賠償としてさらに数倍の額を請求されてしまう。

 そんな事情を知ってか知らずか、馬車は揺れでお尻が痛くなると不満気なイオリに、私も表には出さないが不満気である。

 困っていそうなので手伝いを申し出たのに、この扱いは非常に不当だと思う。事の重大性を理解しているマークに後で請求すればお金は戻ってくると信じたい。否、そうでなければやってられない。


「……イオリさん、聞いて良いですか?」

「何、改まって?」

「この歪みというのを放置した場合、どうなるのですか?」


 特にそれ以外の話題がなかったのと、純粋な興味でそんな質問をしてみた。


「ん? ……そうだなー。 時空の綻びである歪みは、徐々に広がっていくんだよね。 前例の一つには、化け物がそこから――」


 そう言い掛けた刹那、目的としていた辺りの地点から怒号が響く。何が起きたのか確認しようと馬車の窓から顔を出して見ると、超巨大な蟹らしき甲殻生物が土煙と共に現れた。


「な、なな――なんですかあれ!!!」

「あ……あちゃー。 間に合わなかったか」


 呑気に手で日光を遮りながら、そんな感想を述べるイオリに再度聞き返す。


「せ、説明をお願いします!!!」

「さっき言い掛けた化け物、だね。 うーん……一人で行けるかな?」


 大して驚く様子のない彼女にもう一度聞こうとした刹那、私達の乗る馬車を獲物とでも定めたらしい蟹が超スピードで迫って来た。周囲に他に動く存在がない平和な平原だったのが起因だろう。

 距離はそこそこあるのだが、大きさが大きさだけに迫力は十分だった。


「ど、どうしますか!!?」

「に、逃げてください!!!」


 御者の商人に聞かれた私は、反射的にそう答えた。

 それからは、ぐるりとUターンした馬車を追って来る巨大蟹という構図となる。隣で「近寄ってくれた方が――」などとほざくイオリの無視して逃げる。


「何で蟹が前歩きで迫ってるんですか!!! 実物は見た事ないですが、横歩きなんじゃないんですか!!?」

「蟹っぽいけど蟹じゃないからね。 あれは形に擬態してるだけで、全く別の生物だって言われた事あるし……」

「んなもん、知りませんよ!!!」


 焦る様子もなく、端末を操作するイオリをもう一度怒鳴り付けた。


「報告。 歪みより該当危険生物の発生を確認。 災害レベル六と推定。 武装解除の許可を申請します……」

「何やってるんですか――」

「ちょっと待ってメグミちゃん。 ……承認、確認。 これより該当生物を排除します」


 イオリは端末にそう呟くと、乗っていた馬車の側面を蹴り破って外へと飛び出した。


「――ふぇっ??!」


 全速力で走る馬車の外へと出たイオリだったが、その勢いが突如反転して巨大蟹の方へと吹っ飛ぶ。

 そして何処から取り出したか、武骨で大きな剣を巨大蟹へと突き立てた。


「うわっ――」


 程なくして、側面に内側から一撃を受けた馬車はその勢いのまま横転した。


「痛っ……」


 運良く下敷きにならず馬車の外へと放り出された私は、地面に激突した部分を軽く擦る程度の怪我で済んだ。


「何なんだ……」


 私は立ち上がって、この位置からは米粒みたいな大きさのイオリと、巨大蟹との戦いを眺める。私も加勢すべきかと一瞬考えるも、持ち合わせのドロップが馬車の下敷きになっていたので早々に諦めた。

 こんな化け物が各地の町中で発生していた可能性を考えて、これまでの行動の重要性を再認識すると共に悪寒が走る。


「ま、待てー!!!」

「ん……?」


 声に反応して後ろを振り返ると、大破した馬車。そして巨大蟹の反対へと逃げる馬と、それを追いかける御者の商人が見えた。疲れからかそこまでの速度で逃げていない馬は、そのうち御者が捕まえるだろう。


「……」


 現実逃避に近い形で視線を巨大蟹の方へと戻す。こんな夢みたいな状況が本当に夢であればと自らの頬を抓ろうとしたが、僅かに痛む擦った部分を鑑みて溜息を付いた。


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