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第46話③ 六笠ミズキの憂鬱


==瑞紀(みずき)=風天の節・七週目=酒場・ウィズターニル==


「はあぁぁぁぁぁ……」


 杏耶莉(あやり)が他の連中に話をした後、わたしはウィズターニルでエール片手に溜息を付いていた。

 わたしはまだ十六歳だが、この国に飲酒の年齢制限はない。一応若い相手に出さない店や、アルコール慣れしてなさそうな客への提供を店側が制限する事はある。そしてわたしは酔いはするものの、アルコールに対して強い方だったらしい。

 とはいえ、向こうの酒と比べると種類はないし味も微妙である。大手を振って飲めなければ飲まなかっただろうし、酔いたい時にしか飲まない。


「随分荒れてるじゃんね。 何かあったじゃん?」

「……何だ、ラッヅか」

「何だとは失礼じゃんね」


 そんなわたしに話し掛けてきた男の名はラッヅ。ランケットでまぁまぁ古参の人物らしいが、良くも悪くも威厳がなくて気安く相手できる奴だった。


「……今のわたしは、噛みつくぞ?」

「後輩メンバーの心のケアをするのも先輩の務めじゃんね。 ……それで、何かあったじゃん?」

「……別に。 どっちかと言えば、良い事があった後……だな」

「の割には嬉しそうじゃないじゃん」

「……」


 杏耶莉(あやり)の話を聞いて、恐らく隠している何かがある事には気が付いた。けれど、わたしがそれに踏み込むべきじゃないと肌で感じていた。

 これまで親を早くに亡くした者同士。良く言えば支え合って、悪く言えば傷の舐め合いをしながら二人三脚でアイツとは歩いていた。そう思っていた……。

 けれど彼女は、杏耶莉(あやり)は確実にわたしが知らない内に先に進んでいた。有耶無耶にして忘れようとしていた過去の事件と向き合って、前を見ていた。それ自体は喜ぶべき事象だった。だが……。


(寄り掛かっていた支えがなくなったってだけだろ。 べつにわたしに悪い何かが起きたって訳じゃねぇ)


 感じていたのは取り残されたという悲しみと、前に歩き出せないわたしへの怒りだった。表立っては母親を手に掛けてしまった父親を非難する乾いた表情で構えているものの、それがまだわたしを縛っていた。


「……何でもねぇよ」

「けど、流石に飲みすぎじゃんね」

「……」


 私の目の前には、空になったジョッキが並んでいた。強いのもあるが、普段は泥酔という状態にはならない。だが、目の前に座ったラッヅの顔の境界が動いている。


「平気、だ……」

「そうは見えないじゃんね」

「お前な――っおぅ」

「――危なっ!」


 苛立っていたのもあって、ラッヅにムカついたわたしが立ち上がった。その瞬間、足が覚束なくなりその場に倒れ込みそうになる。それをラッヅに腕を掴まれた。


「……んだよ、放せ、よ!」

「っと、暴れるのは止めるじゃんね!」

「チッ……」


 握った拳をラッヅの顔面目掛けて振り被るも、それを難なく止められてしまう。普段なら確実に命中していただけに、思わず舌打ちが出る。


「はぁ……。 仕方ないじゃんね……」


 そう言ったラッヅは、わたしの腕を自分の首に回して支える。


「お、おい! 何やってん……だ!」

「何って、明らかに介抱が必要な状態じゃんね。 ロンギィスのおっちゃんにも迷惑じゃん?」


 そう言って、わたしの抵抗も空しく、外へと連れ出される。


「お持ち帰りって奴か。 くっ、殺せ……」

「……何の話じゃんね?」

「酔った弱みに付け込んで、する事するつもりなんだろ!」

「あー……。 オレん家には連れてかないじゃんね。 ガルロん家に向かうじゃん」

「は? ……あぁ。 そういう事、か」


 ガルロはラッヅの相棒と呼べる相手だった。そして彼には妹がいる。つまりはその妹に介抱を頼むつもりなのだろう。名は確かガーラだった筈だ。


「オレも以前は結構世話になったじゃん。 二日酔いに効くガーラのベーコンエッグがまた旨いじゃん」

「ベーコンエッグ……? 二日酔いにはしじみの味噌汁、だろ?」

「しじみ……? ま、兎に角慣れてる彼女に任せれば一安心じゃん」


 そう言って、ウィズターニルからそう遠くはない位置にあるガルロ宅が見えてくる。


「それに、他の連中もだけど……。 ミズキは女だと思ってないじゃんね」

「……そりゃどーも」


 複雑な心境の中、ガルロの家へと到着した。




==???=風天の節・七週目=天桜市・ある住宅地==


(やっぱりここに反応がある)


 住宅街の中、周囲を囲まれて死角となりやすい空き地となっている場所から他より強い歪みの反応があった。


(……やっぱりこの辺りって――って、任務に関係ない!)


 私は首を振ってその空き地の中へと踏み入る。何の変哲もない場所だったが、その中央の空中から反応があった。


「……報告。 歪みの反応を辿った結果、裂け目と思わしき痕跡を発見。 恐らく他の世界へと通じている模様」


 私の推測が間違っていなければ、この世界に観測した歪みの元は存在しない。異世界が関わっていると見て間違いなかった。

 この世界が原因でなければ、そっちの世界に向かう必要があるだろう。


「他の世界を渡っての捜索が必要です。 ゲートシステムへの許可を申請します…………。 承認、確認。 ゲートプロセス、起動しま――っ!?」


 ゲートシステムの起動に失敗し、弾かれてしまう。


「……報告。 強力なプロテクトによってこの世界からのアクセスが拒まれてます。 アクセス難易度、高。 恐らく他勢力の干渉によるものかと…………」


 こちらの声は届くのだが、向こうの声が聞こえないのはとても不便だ。


「突破は現在の装備では無理と判断。 ……この世界から、もう少し探ってみます」


 報告を終え、「ふぅ」と息を吐く。やっと掴めた歪みへの手がかりだったのだが、現状は手の出しようがなかった。


「……」


 もう一度気になっている方角を見るも、踏み込めば戻れないと自らに言い聞かせて別の方角へと歩み出した。


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