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第45話① 揺れる感情


==杏耶莉(あやり)=風天の節・一週目=レスタリーチェ本家・応接室==


「まぁチェルティーナ! やっと戻ったのね?」


 レスターへと到着して早々にレスタリーチェ家の屋敷へと来た私達は、この部屋へと案内されていた。

 そうして少し待ってから現れた、チェルティーナの母はそう彼女に伝える。


「これでも急ぎで来ましたわ」

「遅すぎます」

「列車の速度限界ですわ。 あれ以上は車輪が脱線する恐れがありますもの」

「まぁいいわ。 ……それで、対影霧の秘策というのが、このアヤリ様なのね?」

「そうですわ。 ……それで御母様、状況をお教えくださいますわね?」

「えぇ、現状を共有するわね――」


 チェルティーナの母、エルメナの話を要約するとこうなる。

 まず事の発端はスラム街にてダルクノース教の地下アジトが見つかった所からである。それを見つけたのは子供の集団とカティだった。

 その中で戦闘が繰り広げられ、子供が怪我を負い、主犯格の男が逃げ出した。それを捕まえるべく町全体に移動制限と包囲網を敷いているが今はまだ見つけられずにいた。

 そして件の地下アジトだが、そこでは捕らえられたスラムの住人を利用して謎の実験が行われていたらしい。それを進入時に居た子供の一人が何かをした結果、実験によって苦しんでいた被験者達は正気を取り戻した……と本人らが話しているらしい。


「――簡潔な状況説明は以上よ」

「……質問しても大丈夫ですか?」

「どうぞ」

「そのカティ――カーティスは今何処に……」

「今はある宿に共に侵入した子供と泊ってますわ。 今朝カティ様より捜索にも協力したいと申し出もありましたわ」


 私がそう尋ねるとエルメナはそう教えてくれる。


「アヤリ様はカティ様が気になってましたものね……」

「……カティ様にお手を煩わせるのはよろしくないと御母様は仰ってましたが、協力していただき事態を早急に収めるのが先決でしょう。 チェルティーナもそう思うわね?」

「えぇ、御母様。 カティ様は優秀な能力の持ち主ですわ。 御ばあ様が何故協力を拒むのか不思議なぐらいですわね」


 普通に考えれば、カティの協力は心強い。だが私としてはある光景が思い起こされてしまうので、可能ならジャムーダには近づいてほしくない。

 だが既に一度対峙してしまっている状態から、彼を説得して引いてもらうというのも難しと言わざるを得ない。


(どうしよう……)


 何やら今後についてチェルティーナと話しているエルメナに対し、私は追加の質問をする。


「カティの泊っている宿を教えてください」


 考えても仕方がない、少なくとも会ってみなければどうしようもない。そう考えた私は、一先ずカティに合いに行ってみることにした。


 ……


「ここ……だよね?」

「その地図によれば、そうですね」


 一旦チェルティーナ達と別れ、カティが居るという宿に来ていた。だが、その宿とやらは一見なんの店にも見えない佇まいだった。


「……どこかで間違えたのかな?」

「地図通りならここで間違いありませんよ? 一度入って確認してみますか」

「エスタル、お願い出来る?」

「……わかりました」


 どうにも知らない人に道を尋ねたり、入った事のないオシャレな店に入ったりというのが苦手である。それらを従者にすっぽかして私は後ろから覗く。

 店の扉を開けた際に、小さなベルが鳴る。


「――だって!」

「――じゃないで――」


 中から、そんな話声……というより揉めているらしき声が聞こえる。


「何かあったのでしょうか?」

「行ってみようか」

「そう、ですね……。 ――っと、主人が従者に隠れないでください」

「だって……」

「だってじゃありません」


 いらっしゃいませと言われないで中に入るのは気が引ける。だが、頼もしい従者にせっつかれるので私は致し方なく前を歩いた。


「あのー……」

「――から勝手に腕組みをするなよ」

「良いじゃないですかカティ。 一つ屋根の下、一晩を共に過ごした仲ですし」

「誤解を招く言い方をする、な……」


 そこには、見知らぬ女性と腕を組んでいるカティの姿があった。

 そしてそんな状態で私の存在に気が付いたカティはその場で固まってしまう。


「ア、アヤリ……」「あらお客さん? 今この宿は立て込んでて泊まれないんですよ」

「……」

「ち、違うんだアヤリ……」

「あれ、この人カティの知り合いですか?」

「あ、あぁ。 アヤリは知り合いだ」

「……」

「……恋人ですか?」

「「――違う!」」


 無言を貫いていた私と、狼狽えていたカティとで同時にハモる。


「ならうちとカティの大人な仲に無関係ですね」

「「……」」


 この少女は、腕を組んだまま胸をカティに押し付けている。早く突っぱねれば良いものを、言葉では止める様に言いながらもそれを無理に解こうとしない。


「それで……アヤリさんでしたか? うちはシリカっていいます」

「……杏耶莉(あやり)

「アヤリさん、よろしくお願いしますね」

「……うん、よろしく……」


 「カティから離れて」と言いたい。ものすごく言いたい。けれど、それを言える立場に今の私が存在しているとも思えない。

 そうでなくても直近はカティと距離を置いていたし、今時点も出来ればここで動かずに居てほしいという感情もあった。


「……アヤリ様」

「あっ……」


 そんなやり取りを静観していたエスタルに名を呼ばれ、我に返った私は現状の本題について切り出した。


「カティが遭遇した男の人、ダグリスについて相談させて?」

「あぁ……」


 シリカという少女の視線を感じながら、私は話し合いの場を改めて設けた。


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