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第44話④ スラムの地下へ


==カーティス=風天の節・一週目=レスター・スラムの一角==


「――っ、下がれ!」

「のわっ!?」


 俺はヘオを背中側へと投げ飛ばしながら風のドロップをディートする。そして出現した影霧を霧散させた。


「……ふぅ」

「……?」

「痛ってー、何すんだカーティス!」

「あれは影霧っていう触れただけで危険な物質なんだよ。 無暗に扉なんか開けるな……」

「うへぇ、そうだったのか! 悪い!」

「……。 ……?」

「はぁ……、気を付けろよ」


 反省の意思を示したヘオは置いといて、影霧が噴き出したその建物を見つめる。


「……入ってみるしかないか」

「……?」

「ん……? 俺一人で入ろうと思ってるんだが……」


 俺の袖を引っ張って、自分を指差すルナにそう告げる。すると、不満そうに引っ張る力を強めた。


「……! …………!!!」

「連れてけって? ……だがな――」

「……!!!」

「……ヘオ、どうすれば良い?」

「ルナー!」

「……!!!」


 か弱そうな見た目なりに力を入れて俺に引っ付くルナを引きはがそうとヘオが試みるも、頑ななルナは動かない。


「……駄目だ! おれにも説得できないぞ!」

「……。 ……!」

「何が言いたいのかはわからんが、どうしても行きたい、と……」

「……」


 大きく頷くルナを見て、俺は諦めた様にヘオに告げる。


「しょうがない、元々スラムのここに残すのも危ないと思ってたし、一緒に連れて行く。 だが今度こそ、俺が合図したらヘオはルナを引きはがしてでも逃げろよ?」

「わかった! ルナもそれで良いか!」

「……」


 肯定の意思を示したルナを連れて、影霧が噴き出た建物へと入ることにした。


 ……


「階段?」


 どうやら入った扉は裏口の類であったらしく、その道はどこにも繋がらずに地下へと伸びていた。


「何か不気味だ!」

「しっ! 静かに……」

「お――(おう!)」


 小声で叫ぶ器用なヘオと、無口なルナを連れ、その階段を降りて行く。

 時折漂う様に影霧があるものの、それを発生させた風によって霧散させながら慎重に進んで行く。


「……?」

「……」

「……」

「(息が詰まるぞ!)」

「(だから静かにしてくれ……)」

「……」


 そうして歩いて行くと、階段が終わり地面へ足を付ける。すると、通路の向こう側にまた扉らしきものがあった。

 建物に入ってから頼りない明かりしかなかったからこそ、その扉の隙間から漏れ出す明かりに意識が向けられる。


(こんな感じの事が、いつだったかあったな……)


 そう思いつつ、もう一度ヘオとルナに「わかっているな?」という意思表示で顔を向けたのち、俺はその扉へと近づいてから勢いよく開いた。


「――なっ、誰だ!」

「お前らこそ何やってんだ!? ダルクノース教!」


 いかにもな黒いローブを羽織った集団、ダルクノース教が二人で椅子に座って寛いでいた。


「てっ、敵襲! 敵襲だ!」

「我らの裁きを――ぐへぇ!」


 俺はそう叫び始めたその二人を風で壁へと叩き伏せる。

 だがその騒ぎを聞いたらしき別の教徒が次々と現れた。


「くっ――ヘオ、逃げろ!」

「わ、わかった! ほら、ルナ!」

「……!」

「おいっ!」


 ヘオが来た道を戻ろうとしたその瞬間、小さい体を活かして俺やダルクノースの連中を掻い潜って何処かへと走って行ってしまう。


「なっ、待て!」

「ルナー!!!」

「……!!!」


 俺を抑えようと留まる教徒、そして走って行くルナを追いかける教徒に分断される。そして、留まった教徒によって俺も即座にルナを追いかけられない。


「ヘオ! お前はルナを追いかけろ!」

「わかったぜ!」


 兄妹らしく、似たような動きで隙間を縫ってルナの方へと消えていく。そんなヘオが捕らえられなかった事だけを確認した俺は、戦闘向きの槍のドロップをディートした。


 ……


 襲い掛かる教徒を伸した後、俺もルナを追いかける。表の入り口であった建物とは違い、この地下はそれなりの広さがあるらしい。

 時折視界に入る危険そうな道具を尻目に、通りがかりでダルクノースの連中を倒しながら転がり込んだ部屋にある男がヘオを捕まえていた。


「放せー!」

「五月蠅いな。 でも、こんな餓鬼一人捕まえられないってのは駄目だろー」

「放せぇー!!!」

「ヘオ!」


 その明らかに強そうな全身黒色の男へと目を向ける。


「お前もダルクノースか?」

「……へぇ、気持ち悪いのが来たもんだ」

「気持ち悪いだって?」


 俺を見るや否や、黒い男はそうぼやく。


「ああそうだ。 一人の人間に何人もの精神がへばり付いてるみてーな気色悪さがある。 こう見えて色々経験してるが、お前みてーにはなりたくないもんだね」

「お前、何者だ……」

「オレか? ……確かここではダグリスだったか?」


 俺の質問に、疑問形で答えるこの男は、襟首をつかんでいたヘオを放り投げる。


「ヘオ、大丈夫か!?」

「――っ、痛ってー!」


 投げられた先にクッション代わりになるものがあったおかげで、ヘオは呻きつつも無事そうだった。


「加減できなさそうだし、本腰を入れてやるかー。 まだ準備は終わってねーんだけどな」


 そう言ったダグリスは、素手で俺に対して向き直る。それに答える形で俺も手にしていた槍を構える。


「……丸腰で戦えるのか?」

「丸腰だあ? ……そうかもな!」


 ダグリスがそう言った直後、俺の足元から影でできた棘が出現する。


「くっ――!」

「あ? 避けるのか、面倒だな……」


 不意打ちのその一撃を避けた勢いそのままに距離を詰め、俺は手にしていた槍を突き出した。


「なっ!?」

「俺に、んな攻撃効かねーんだよなー」


 手応えもなく、胴体を突き抜けた槍を呑気に見つめるダグリス。そして、槍を手で捕まれる。


「捕まえた」

「くっ――」


 俺は槍から手を放して一度距離を取る。それを面白くなさそうに見ていたダグリスは、自らに刺さった槍を引き抜くとその場に捨てる。


「ここの戦士は武器を使い捨てれるから面白くねーよな」

「武器が効かないならこれならどうだ!」


 俺はディートして生成させた炎を直接ダグリスにぶつける。


「やったか!?」

「だから意味ねーって……」


 燃え盛る炎の中から焦る様子を見せないダグリスの声が聞こえる。


「やっぱ面白くねーな。 もう終わらせちまうか」


 ダグリスがそう言ったのと時を同じくして、この場にどこかへと消えていたルナが現れる。


「ルナ!? 逃げろ!」

「あ? 何だ……?」

「……!!!」


 何らかの強い意志を見せるルナがその口を開いた。


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