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第44話③ 人が居ないスラム


==杏耶莉(あやり)=風天の節・一週目=レスタリーチェ家エルリーン別荘==


「え、カティが?」


 カティの家の代わりに使わせてもらっているチェルティーナさんの家でエスタルから伝えられる内容によると、カティがレスターの町へと向かったという話だった。


「はいその様です。 昨日到着している頃でしょう」

「あれ、もう向こうに到着してるんだ」

「……おそらく、アヤリ様に意図的に伝わるのが遅れる調整をしたのではないでしょうか。 ランケットの方からアヤリ様に伝える様お願いされましたが、カティ様がそうした失敗をするとも思えませんので」

「……そっか」


 ここ何日かは意図的に避けていたので、気を使われてしまったらしい。それか、嫌われてしまったのかもしれないが、それも仕方ないだろう。


(……明日で想定してた稽古も一段落するし、私の方でも動き始めないと)


 あの時感じた自らの弱点を克服できれば勝てる保証はない。だが私の予感が、もうジャムーダは動き始めていると告げている。


「……それじゃあ行こうか」

「承知しました」


 出掛ける準備を終えた私とエスタルで、サムドラスと待ち合わせている城へと向かった。




==カーティス=風天の節・一週目=レスター・スラム入口==


 子供達に連れられて到着した場所は、建物と建物を縫って進んだ薄暗い場所だった。


「この辺りです。 ここでお爺さんと会っていました」

「みたいだな」


 それなりの規模の町には存在する後ろめたい者の為の場所。例に漏れずこの町レスターにも存在した。


「ズー、わかってるな」

「はい、わかってますよ。 ……何でぼくに言うんですか?」

「……さっきの調子からして興奮した様子だったからだ」

「……何の話だ?」


 ズーとニドのそんな会話に俺が質問する。


「カーティスを手伝いたいのも山々だが、おれらはここへ来るのを禁止されてるんだ。 だからこそ、協力者――大人を募ってたんだよ」

「……本当は大人達にここに来るのすら止める様に言われいます」

「そうか。 なら無理を言って案内は頼めないな。 元々危険な場所まで行ったら帰すつもりだったけどな」

「……それに、おれ達もここから先には禄に行ったことがないから案内も出来ない。 放り投げるみたいで悪いんだが、後は頼めるか?」

「あぁ、その為に来てるからな」


 年齢の割にしっかりとしているニドとそんな言葉を交わしていると、不意に袖を引っ張られる。


「……」

「……? どうしたんだルナ?」

「……。 …………」

「ルナ、もしかして行きたいのか!?」

「……」


 ヘオがそう質問すると、ルナは何度も大きく頷く。


「駄目だって言っただろ! ママにも危ない事はすんなって怒られたばっかだろ!」

「……」


 ルナは、今度は大きく首を横に振って頑なに俺の袖をつかんで離さない。


「ルナちゃん、駄目ですよ」

「ルナ」

「……」


 ニドとズーも説得を試みるが、頭を振るのみで頑として動こうとしない。


「……! ……」

「ルナーーー!!!」

「……」


 ヘオが大声で呼んでもルナは離れようとしない。そんな様子を見たニドが頭を掻いてため息を付く。


「ルナは普段は良い子なのに、一度決めると頑固だからな……。 どうしても付いて行きたいのか?」

「……」

「だってよ、ヘオ」


 そうニドに言われたヘオは、少し考えると意を決した顔で俺を見る。


「……さっき、帰すつもりだったって言ってたけど……おれとルナを連れてってくんねーか?」

「いや、危険かもしれなからな……」

「……!」


 それがそう返答すると、俺の袖を引っ張っていたルナがその力を強めて無言の抗議をする。


「なんかあったらおれがルナは守るから、それじゃ駄目か!?」

「……守るって言ったってなぁ……」


 何があるかわからない以上、許可しかねる。だが、俺を真っ直ぐ見るルナの目に確かな意思を感じた。


「……わかった。 何かあったら即座に逃げるって約束はしてくれ」

「それは勿論! だよな!」

「……! ……。 ……」


 その言葉を聞いて、嬉しそうに笑うルナ。


「……悪いな、カーティス」

「改めてありがとうございます」

「構わないよ。 たった二人を守れない様じゃ、俺が俺で居る意味がないからな」

「……?」


 そうしてニドとズーとはこの場で別れ、ルナの手を引くヘオと共にスラムへと足を踏み入れた。


 ……


「おかしい。 人の気配が一切しないな」


 スラムへと入ってそれなりに歩いているのだが、その間に一度も人と出会っていない。元々表と比べて人の人数が少ないのは間違いないだろうが、それにしたって全く人気がないのは不安を通り越して不気味である。


「確かに、誰も居ねーな!」

「……」


 怯える様子のルナとは裏腹に、大声でそう発するヘオの声が周囲に響く。


「……一旦スラムを廻って、それでも誰とも会わなければ、一度ここの領主の所に報告がてら行くか」

「は!? カーティスって領主様と知り合いなのか!」

「……一応な。 あんまり会いに行きたいとは思わないけど」

「……?」


 気になるかどうかと問われれば気になる人達である。だがそれ以上に、勇者である自分と彼女等の先代たるチェルグリッタとの乖離を感じるので距離を置きたいと思っている。

 それでもこの現状はあるべき機関に報告しなければ不味いだろう。


「……人は居ないが、その形跡はあるな」

「形跡!?」

「あぁそうだ。 例えばその辺り、他と比べてよく見てみると壁が汚れてるだろ?」

「……そーか!? あんまわかんねーな!」

「……」

「よく見てみろ、大人が座った位の高さだけ汚れが付いてるだろ? 恐らくあそこに長い事寄り掛かって座ってる奴が居たんだ」

「……確かにそうかも知れないな! にしてもカーティスはそういうの気付いて凄いな!」

「処世術だ」

「へー。 もしかして昔はスラムに居たとかか?」

「……()はその経験はないな」

「……?」

「だよな! なんかそんな詳しそうだったけどそんな感じじゃねーもんな!」

「……」

「……?」


 そんな話をしながら歩いていると、ルナがヘオの手を引っ張りつつある場所を指差す。


「……ん!? ルナどうかしたのか!?」

「……」

「ヘオ、ルナはどうしたんだ?」

「わかんねー! でも、ルナが気にする事って大体意味があるっていうか、大事なんだよな!」

「そうなのか?」

「……」


 そのルナが指さした先には、ある建物の扉らしきものがあった。特に変哲もなさそうなその建物が気になるらしく、その場に留まってヘオの手を引き続ける。


「……ここのスラム自体に違和感を感じてて衰えてたが、確かに違和感を感じるな」

「何がだ!?」

「……そうだな、他と溶け込むようにして偽装してるって感じか? 具体的にどんな偽装をしてるかと聞かれても困るんだがな」

「そうか! なら開けてみよーぜ!」

「ちょっと待て――」


 俺の言葉を聞いたヘオは、俺が止める間もなくその扉に手を掛けた。そして鍵の掛けられていなかったその扉が開け放たれると、そこから少量ではあるものの影霧が放たれた。


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