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第43話④ 子供が頼れる最後の相手


==カーティス=風天の節・一週目=カーティス宅・店舗==


 招き入れた子供二人組に菓子と果実水を出してやると、俺は口を開いた。


「んで、お前ら何の用事なんだ? 顔を見れば悪戯じゃないってのはわかるんだが……」

「えぇと……その――」

「おかしいって思ってるのに、周りの大人の人が話を聞いてくれないから相談に来たのよ」


 口下手そうな男の子を差し置いて、気の強そうな女の子がそう話す。


「おかしい、か……。 まずは簡単に自己紹介でもしてくれ。 何処から来たんだ?」

「はい。 わたし達、レスターから列車で来たんです」

「レスターか……。 確かにあそこからなら、多少気軽には来れるな」


 この国の主要な町を通過している国営の列車であれば一日掛けずに来られる。そしてレスターとはあのレスタリーチェ家が統括する区域の中心と呼べる町だった。


「ぼ、ぼくのお父さんが商談でここに来るので、その付き添いとしてメルと二人で来ました……」

「あー確か、大人一人に対して付き添いの子供二人だけなら安価になるってキャンペーンをやってたな。 どこから来た知恵かは知らんが、その影響で国内の経済が回ってるとは聞いてる」

「そうなのよ。 それで無理言ってわたしと一緒に来させてもらってるわ」

「黙って抜け出して来ちゃったから、お父さん怒ってるかも……」

「仕方ないでしょ!? 大人は当てにならないんだもの!」

「うぅ……」


 今のやり取りでおおよその人間関係は把握できた。つまる所、この男の子はこの女の子に頭が上がらないのだろう。やはりこの男の子に同情せざるを得ない。


「それで俺に辿り着いたと。 レスターの子供ならどうやって俺の事を知ったんだ?」

「それは――」

「ジムのおじさんの所から抜け出した後、たまたま出会ったおばあちゃんに教えてもらったのよ。 『相談事ならここを頼ったら?』って」

「あぁ、あの婆さんか……」


 以前道端で腰を悪くして助けた婆さんに礼代わりに宣伝を頼んでいた。かなり前の兎に角知名度が欲しかった時期の出来事だった。


「……それじゃあ、その相談事について教えてくれ。 おかしいと思ってるとか言ってたな」

「はいっ……えぇと――」

「ジムは黙ってて! わたしが説明するわ」

「「……」」

「わたしとジム以外に――」


 そうして説明を始める女の子の内容を聞きつつ、かわいそうな男の子に黙って手を付けていない菓子を勧める仕草をした。

 会話の端々から得た情報によれば、この女の子の名前はメル、そしてこの男の子の名前はジムと言うらしい。

 そんなメルの話を要約すると以下になる。


 彼らは子供の集まりとしてこの二人を含めた六人でよく遊んでいるらしい。二人の年齢や親の仕事によっては家族の手伝いをし始める前である事も珍しくない。

 そのぐらいの年齢で自由な時間を与えられれば、親から止められている悪いことをしたくなる年頃でもある。たまたま彼らはその悪い事の内容にスラムへと入るという方法を選んだらしい。

 当たり前だがそれは危険な行為なのだが、幸運にも彼らは優しい人間に出会った様だった。それがこの話の本題でもある爺さんだという。

 その爺さんはスラムで総括みたいな事をしているらしく、口調こそぶっきら棒だが色々な話をしてくれたのだそうだ。そんな爺さんやその知り合いへと出会いに行くのを何度となく繰り返していたある時、その爺さんとその知り合いが突然居なくなったらしい。

 そもそもその爺さん連中に会いに行っているの自体を知らなかった親やそれ以外の周囲の大人へと説明するも、取り合ってくれなかったとの事だった。状況だけ聞けば、その大人達の対応は当たり前だろう。


「――という訳で、調べたいんだけど素直に両親に話した所為でスラムへと行けなくなってしまったのよ」

「……今回もお父さんと離れない、って約束で、やっと出て来れたぐらい、で……」

「そのやっとの事で出て来た先に俺を頼った、と」

「もっとまともな頼り先があれば頼るわよ! 他にこの町に頼れる知り合いが居ないんだもの!」

「「……」」


 メルはそう言い切ると、喋り続けて喉が渇いたのか出していた果実水を飲む。


「……まぁ、話は聞いた。 お前らは一度その親父ん所へと戻れ」

「それじゃあ意味ないじゃない! やっぱり貴方も信じてないのね!?」

「結論を早まるな、少し待て。 別にお前らの話を信用してない訳じゃない」

「なら何よ! お金の問題なの!?」

「だから待てって……。 お前らを探して騒ぎになるのは色々不味いから一度帰れって意味だ。 んで、その失踪ってのは俺も気になる。 だからそれは俺に任せろ」

「えっ……」


 この国で起きている失踪事件には何かキナ臭いものを感じる。二人の様子から何かがあったのは間違いないのだ。


「貴方を通して騎士様にお願いをしたかったのに、貴方は頼れるの?」

「任せてくれ」

「……お金に、ついては……?」

「何事もなくて無駄足だったとして、それならそれでタダ働きでも構わん。 それで、何か面倒ごとなら色々済ませた後に然るべき所に要求する」

「然るべきって……?」

「こう見えてこの国のお偉いさんと知り合いなんでな」

「信じられないわ! そんな人がこんな所で変な仕事してる訳ないもの」

「……悪かったな。 これでも事情があるんだよ」

「そう……」

「メル、お願いしよう? それにもう戻らないと大変だよ――」

「わかったわ! ならお願いするわね。 それと、わたしとジムは今日の所為で協力できないでしょうし、代わりのメンバーと合言葉を紹介しておくわ」

「合言葉……?」

「えぇ合言葉よ。 これを聞けばわたしが頼んだって一瞬でわかるわ。 『レスター防衛隊!』よ。 後の事は今から教えるメンバーに聞いてもらうわ」

「レスター防衛隊……」


 懐かしい響きの言葉を聞いて、思わず復唱してしまう。

 三代前の勇者、チェルグリッタが幼少期に発足した集いの名前である。単なる偶然の可能性もあるが、その名が合言葉として今も残っているのかもしれないと思って俺の記憶ではないがしんみりしてしまう。


「あの……大丈夫、ですか?」

「……ん。 あぁ、大丈夫だ。 続きを話してくれ」

「それで他のメンバーだけど――」


 こうして話を聞いた後、二人は戻らせた。俺が付いていった事でさらに面倒になりかねないし、ランケットによって町の安全は保障されているから心配ないだろう。

 それよりも、早速レスターへと向かうべく泊まりの準備を始めた。


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