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第43話③ サムドラスの稽古・小さな依頼者


==杏耶莉(あやり)=風天の節・一週目=エルリーン城・訓練場==


 あれから真面目に少しだけ学校に通った後、都合よく年末を迎えた。

 となれば冬休みに突入する。その長期休暇を活用して、私はサムドラスに稽古を付けてもらっていた。


「――やはり、純粋な剣の技術にその武器特性を加味すれば、わたしが勝つのは難しいだろう」


 何度か木剣を使っての打ち合いをした後、サムドラスは私をそう評価する。


「特に君ぐらいの年齢であれば、多かれ少なかれ相手へと躊躇か逆に無鉄砲な勢いみたいなものが現れるものだが、そのどちらの素振りに対して陰りも見せない。 わたしも幾度となく死線を潜っているが、それ以上に剣に迷いが感じられない。 大したものだ」

「……」


 戦争でもそれなりに敵側を殺めているが、その比ではない規模で人を斬るという体験をしているのが影響している自覚があった。

 これでも犯罪者だから構わないとは思いつつも毎度内心では納得させながら剣を振っていた戦争時点の自分は存在しないだろう。


「それじゃーくんれんいらないの?」

「いや先日話した通り、アヤリさんは自らの弱点を的確に把握しているらしい。 何度か上空からの一撃を放った際にそれ以外と比べて反応に遅れがあった」

「みてたけどそんなのわからないの……」


 観戦していたリスピラそう不満を口にする。


「そうなんだよね。 前に立体的に動いた人と戦ったけど手も足も出なくて……」

「その相手とやらも気になるが……、今は対策を考えてみよう」


 そう言ってサムドラスは論理的な説明から入った。


「先ず、わたしの様に翼を持つ者が支配する世界では、当たり前に高さを利用した戦いが繰り広げられる。 根本からして地に足を付けての戦いと違うと言えよう」

「……それなら、これまでの技術は無駄になるの?」

「いや、そうとも限らない。 そも踏ん張っての大振りと比べれば宙に浮いての一撃は速度による勢いを利用しない限り決定力に欠ける。 だからこそ我らの戦い方は距離を取るのが当然で、剣が触れられる位置に存在する時間は殆どないのだ」

「そうだよね……」

「だが、それと同時に武器による攻撃を行うのであればその危険な範囲へと近寄る必要がある。 それはわたしが地に足を付けている相手と戦う場合も同義だ」

「遠距離からの攻撃が可能なら話は違うだろうけどね」

「そうだな。 事実私は翼四天の時には遠くからの攻撃も多用していた。 ……今となっては使えぬ技だがな」


 それは私も同じで、遠隔を斬る能力は失われてしまった。


「それで、だ。 当然威力を出すのであれば速度でもって近寄る。 故に突然の反撃には弱かったりするのだ。 そんな攻撃を迎撃する技術に居合というものが存在した」

「居合……」

「鞘に収まった剣を抜いて即座に相手を斬る手法だ。 それによって予期せぬタイミングでカウンターを決めることが可能なのだ」


 何かの拍子に聞いたことがある技法に、素朴な疑問を返す。


「それって、普通に剣を抜いてから戦った方が強くない?」

「……あくまで奇襲性に長けた技だからな。 剣の軌道も限られるし、相応の技術も要する」

「それに、私ってドロップで生成した剣しか使わないから鞘がそもそもないし――」

「その通りだ。 だからこその提案なんだ」

「……?」


 理解の追いつかない私の顔を見たサムドラスは話を続ける。


「君達ディーターは、各々が好きなタイミングで武器を生成出来る。 その性質は、居合による奇襲性のみを継承して使えるのではないかと考えたのだ」

「確かに……。 でも、そんな上手くいくかな?」

「それに限っては練習あるのみだ。 それ以外にも上空に対する剣の振り方であったり、わたしが教えられる部分はあるだろう」

「うん、お願いします」

「任せてくれ」


 こうして、サムドラスの特訓が始められた。




==カーティス=風天の節・一週目=カーティス宅・店舗==


 此方に来て早々、アヤリが何処かへと出かけてしまった。

 ミズキとカエデが居なくなるのは普段通りだが、少なくともこっちの世界に居る半分以上の時間をこの家で過ごす彼女と離れるのは若干の寂しさを感じている。


(何か、ここ何週間かは特に距離を感じるな……)


 一度アヤリが元の世界に帰る前と比べて仲が微妙だったのだが、戦争があって少し経ってからはそれが顕著になっている。


(避けられてるって訳じゃないけど、距離感が掴めないんだよな……)


 そう考えていると、店側の玄関が開かれる。それを聞いて見に行くと、二人組の男女の子供が様子を伺っていた。


「どうかしたのか? 親は?」

「えぇとその……」

「ほら、大人じゃないと駄目っていったじゃない!」

「でも困ったらここにお願いすれば良いよ、っておばあちゃんが……」

「こういうのは大人の人がお願いする所なんでしょ!」


 俺が軽く声を掛けると、二人の子供は言い争いを始めてしまう。特に気の強そうな女の子に男の子が押されている状態である。


「一応年齢に制限は設けてないぞ? 内容次第で料金は取るがな」

「ほ、ほら……子供でも大丈夫だって」

「……でも、お金も必要だって言ってるよ! わたしたちお金ないじゃない!」

「うぅ……」


 どちらかと言えば、言い包められそうになっている男の子に同情心を感じるので、仲裁しようと思った。


「話だけなら聞くぞ。 困ってる奴の為にやってる仕事だからな」

「……だってよ?」

「……それなら話を聞いてくれますか? お兄ちゃん」

「あぁ構わんぞ」


 そうして、話を聞くべく二人を中へと招き入れた。


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