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第43話② 友人への嘘・エスタルの行動


==杏耶莉(あやり)=灼天の節・十五週目=天桜市・自宅==


 そんな訳で、「向こうで簡単に引き継ぎを終えたらこちらの世界に滞在する」というサムドラスの言葉を受けてから私も一旦戻ることにした。

 半ば無理やりこっちの世界に来てしまっていたので、何か瑞紀(みずき)宿理(しゅくり)への言い訳を考えなければならないだろう。


(突然何日も留守にして、心配してるよね……)


 結局こっちでカティに会うことなくステアクリスタルで転移した後、一番に瑞紀(みずき)宛に電話を掛ける。時間帯からしてもう学校は終了している筈だった。


「……あ、瑞紀(みずき)?」

「おまっ……。 今何処だ?」

「い、家だけど……」

「そうか……」

「……」

「まーなんだ。 学校側には適当に話しておいたから大丈夫だ。 わたしじゃなくて宿理(しゅくり)が、だがな」

「そう、ありがと」

「……はぁ、めんどくせぇ! 杏耶莉(あやり)!」

「うぇっ!?」


 低いトーンで通話していた所を突如大声で名前を呼ばれて素っ頓狂な声を上げてしまう。


「一人で抱え込むなよ! あの場では平気そうだったかもしれんが、やっぱり気にしてんだろ?」

「えっ……」

「戦争だよ戦争。 あの戦いが気にならないって訳ないからな」

「あ……。 そう、だね……」


 都合よく勘違いしてくれた瑞紀(みずき)に対して、私は嘘を付いた。


「ならしっかり休んどけ! でもって、つらいときは相談しろ!」

「……」

「返事っ!!!」

「う、うん……わかった……よ」

「よろしい!」


 そう言ってこっちから掛けたにもかかわらず勝手に通話を断ってしまった。


(これで良かったんだと思う……。 私がやらないとだから……)


 私の贖罪としてジャムーダを止める。その為に瑞紀(みずき)達は巻き込めない。何度となく考えたそれを改めて認識すると、明日以降の準備を進めた。




==カーティス=灼天の節・十五週目=カーティス宅・店舗==


「本当に助かりました」

「あぁ」


 最後に礼金を渡した依頼人がそうお礼を言って出て行った。

 この建物は家としての部分と併設して、客を迎える場所とそっちが出入りする用の入り口が存在する。原則商談なんかはこっち側を使っていた。


(ランケット以外でも依頼される事が増えてきたな)


 地道な活動を続けたことによる口コミで、胡散臭さが勝っていた何でも屋だが、それへの依頼が増えていた。

 そもそもノーヴスト大陸外ではこうした商いはまま存在する。そういった存在を持ち込んだに過ぎない。

 そして肝心の依頼だが、大きな仕事と呼べるものは今の所存在しない。脆くなった壁の補修だったり迷子のペットの捜索だったりと雑務に近いものが主だった。

 前者は専門業者に頼むより安価で済ませたいという理由で頼まれはしたが、仕事に手は抜かず、下手な専門業者よりしっかり仕事している。後者も目撃証言やら生態への知識やらを活用して難なく見つけている。

 そんなこんなで順調に知名度を得られているのは喜ばしい限りである。


(にしたって、趣味のガーデニングがうまくいかないとかって相談もどうかと思うけどな……)


 そんな風に考えていると、玄関の鍵が開けられる。誰かが訪ねて来る予定はなかった筈だし、その鍵を所有している人間は限られる。そんな開けられた玄関の方へと向かうと、ある人物が居た。


「――っと、どうしたんだ? エスタル?」

「あ、カティ様」


 その限られる鍵を所有する同居人の従者、エスタルによる予定外の訪問であった。


「確か、アヤリが次来るのは向こうで言うドニチってやつだろ? まだ数日あったんじゃないか?」

「それがですね……。 アヤリ様の衣類を持ちだしたく思いまして……。 アヤリ様が此方に来る前に済ませておこうかと……」

「何かあったのか?」

「それはですね……。 少し痛んでいる品が存在するので修復をと。 それをチェルティーナ様に相談しまして、お願いする事になりました……」


 アヤリのこっちで使う服は全てここに置いていた。非滞在の時に漁ったりはしていないが、修復が必要な程痛んでいた記憶はなかった。


「しっかりした布を使った奴だし、そんな早く痛んだりするか?」

「えぇと……。 アヤリ様ですので、扱いが杜撰な事もありまして……」

「……あぁ」

「アヤリ様本人にも相談しておりますので……」


 出自からして仕方ない部分も往々にしてあるのだが、それを否定できない自分も居たので納得する。


「苦労してるな」

「わたしが選んだ道ですので……」


 そう答えたエスタルは、アヤリの衣類がまとめられている部屋へと向かおうとする。


「……どれだけの品を直すかは知らんが、それなりの重量になるだろ? 手伝うぞ?」

「え……。 いえ、女性のお召し物を殿方に見せる訳には参りません、ので……」

「あーそう、か。 ……すまん」

「いえ……」


 今の反応からして、持ちだす衣類には肌着が含まれるのだろう。確かに彼女のいう通り、当人の居ない所でそれを見てしまうのは色々マズイ。

 それに、精神面こそ大人である俺だが、体は多感な思春期真っただ中である。否応にもその端的な言葉から想像を巡らせて熱を発してしまう。


(アヤリの――いや、考えるな! 想像を止めろ……。 ぐぬっ……)


 荒ぶる精神を落ち着かせ、エスタルの邪魔にならない様に移動した。


 ……


「それでは失礼します」

「……あぁ」


 不用意に疲労感を感じている俺を尻目に、エスタルは最後に俺に挨拶をする。


「……カティ様」

「ん?」


 そう言って出て行こうとしていた彼女は、立ち止まると俺に声を掛ける。


「どうした?」

「いえ……その……」

「……?」


 何か言いたげではあるが、それを憚る様子に違和感を感じる。


「……アヤリ様が困ったら、カティ様は協力していただけるでしょうか?」

「アヤリが、か? それは当然協力するが、アヤリに何かあったのか?」

「いえ、何でもありません。 変な質問をしてしまい、申し訳ございません」

「……?」


 そんな不思議な質問をすると、エスタルは改めて出て行った。


(アヤリに何かあったのか……?)


 そう考えはするも、結局今の状態から結論は出ない。次会った時にでもアヤリ本人に聞こうと思った。


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