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第43話① 翼の女王について


==杏耶莉(あやり)=灼天の節・十五週目=エルリーン城・応接室==


 ジャムーダに関して調べた日の翌日、待ち合わせていたリスピラ達と合流して借りた部屋に集まっていた。

 この場に居るのは私と付き添いのエスタル、リスピラに連れて来てもらったサムドラスである。話を聞いたチェルティーナも参加したがってはいたが、忙しさを理由に断念していた。


「先ず、久しぶりだなアヤリさん。 多忙を言い訳に改めて挨拶できなかった非礼を詫びさせてもらいたい」

「え、別に私は感謝される程の事はしてないけど……」

「そんな事はない。 我々が今こうして平和に暮らせているのは全てアヤリさんがあの翼の女王を降したのが要因だ」

「……そう、その翼の女王について聞きたくて今回来てもらってるだけど……聞いて大丈夫なの?」


 サムドラスは背中の翼をバサッとはためかせると、大きく頷いた。


「リスピラさんから一応の話は聞いている。 あの翼の女王に近い存在と対峙する必要があるのだろう?」

「うん、その為には私は知らなさすぎるからね……」

「わたしを含めた多くの者は思考こそ歪められて配下とされていたが、その記憶そのものは失われていない。 未だにわからぬ部分も多くあるが、協力させてくれ」


 そう言ってサムドラスは順を追って身の上話を始めた。


「初めにわたしの暮らす世界に侵略者として現れたのがあの翼の女王を含めたその配下達だった。 何やらあの女王――真名ではないが奴が一度名乗っていたクリリヤと仮称しておこう。 そのクリリヤは数多の世界にて翼を持つ存在を集めていた」

「翼を持つ存在……」

「えぇ、我等の故郷と呼べる世界の住人にもわたしと同じく翼を有していた。 わたしの故郷の世界の前後も含め、侵略した世界には翼や羽を持つ種族が必ず存在したな」

「わたしのとこもそーなの」


 サムドラスの説明にリスピラも同意する。確かに妖精であるリスピラ達にも翅がある。そして捕らえられていた者はことごとくそれが?がれていた。


「クリリヤはそんな翼に執着していた。 その理由は定かではないがな。 今にして思えば悪趣味な奴のキメラ翼が最たる例だろう」

「今にして思えばって……」

「……配下にある時にはそれが自然だと思っていた」


 翼の女王改めクリリヤは、小さな子供が見たら泣き出す程度には禍々しい物体を背負っていた。


「それで、そんな支配力によってあたかも自らの意思によって忠誠を誓わされていた。 進んで自らの出身世界や他の世界を脅かしたと言う事になる。 それが奴の能力であった」

「……」


 影霧に魅入られた、接触者は特異な能力を得る。それがクリリヤにとってのそれだったのだろう。協力である半面、そんな彼女が執着していた翼を持つ者にのみ作用するのではと思われる。


「恐ろしいのはそれが本来の感情であると錯覚させられる部分だ。 アヤリさんが止めを刺すまでは洗脳であると気が付けなかった。 それによって幾つもの世界を影霧に沈めて来た」

「影霧に……?」

「えぇ。 人を苦しめ、殺める事で発生する影霧が一定に達するとその世界に大量の影霧が流れ込み世界そのものを包み込む。 そうして一部の影霧に飲み込まれずに留まった者のみを連れて次なる世界の支配へと向かう。 それを幾度となく繰り返していた」

「何の為に……?」

「わからん。 だが、そんな奴にはあらゆる攻撃が阻まれた。 それを何故アヤリさんには効かなかったのかというのもわからん。 わたしがわかるのは、クリリヤが認めた一部の配下――わたしも含むそれに、影霧を操る術を与えていたという事だけだ」

「影霧を操れるように……?」

「えぇ、それを奴は翼四天と命名して幹部としていた。 今となってはわたしには出来ないがな」


 影霧を操れるという存在に一つ心当たりがあった。


「それって、接触者なのかな?」

「……接触者というそれが何を指すのかはわからぬが、奴はわたし達翼四天を克服者と呼んでいたな」

「そっちなんだ……」


 接触者は影霧を操る才があった者、克服者は影霧に耐性があった者という認識だったが、それも違うのだろうか……。


「翼四天はクリリヤの手によって影霧を操る術を得る。 だが稀にそれなしで操る術を得た存在が居たが、必ずクリリヤ本人の手で仕留めていた。 奴は自分と同じ存在で脅威になり得ると呼んでいたな」

「……」


 おそらくそれが接触者なのだろう。私の推察でしかないが、クリリヤには翼を持つ種族を操る能力と、克服者に影霧を操れる様にする能力、そして私みたいな接触者以外からの攻撃を防ぐ能力があったのではないだろうか。

 思い返せば私はあの時既に接触者で、だからこそ攻撃が通った。そして、彼女は脅威に成り得る接触者となってしまった存在をを排除していたのではないだろうか……。


(あの時、クリリヤは私に対して不干渉とか何者であるかとか言っていた。 それに、大会の時の口ぶりからジャムーダはクリリアの存在を認知していた。 だったら私もクリリヤもジャムーダも同じ接触者で間違いないと思う)


 そんな接触者だが、誰も彼もが別々の能力を有している。ジャムーダをクリリヤと同じ方法で倒せると考えるのは難しいだろう。


(強くならなきゃ。 皆を守るための力が……)


 いつからか、強くならねばと焦りを感じてこっちに来れない三年間は全力で訓練していた。だが、その時の焦りとは違う部分の感情から強くなりたいと感じている。

 私はなかった事になっている期間で数えきれない人数を殺め、その間に確実に強くなっている。肉体的な部分ではなく剣術としての部分が殆どなのでそれは今でも残っている。

 だが、あの時のカティには手も足も出ずに敗北している。そしてジャムーダがどれ程強いかわからない以上実力を見に付けるに越したことはない。その為には今とは違う技術に触れたかった。


「……サムドラスさん、お願いがあるんだけど……」

「ん……?」

「剣の稽古を付けてもらえないかな?」

「剣の……か?」


 相まみえたカティ曰く、サムドラスは翼を使った空中における戦い方で強かったと話していた。

 私も剣の技術には一日の長こそあるが、あくまで高さを使わない二次元的な動きに限られる。あの時聖剣を使ったカティの三次元的な戦い方について学びたかった。


「――という訳で、お願いできなかな?」

「……純粋な実力であればクリリヤを降したアヤリさんの方が強いと思う。 だが、剣士として異なる流派と相まみえるという重要性は、結果として幾つもの世界を渡ったわたし知っているし理解もある。 影霧が操れず斬撃を飛ばせぬわたしでも力になれるやもしれんな。 わかった、協力させてもらおう」

「ありがとう」


 協力を取り付けてくれたサムドラスに対し、リスピラが疑問を投げかける。


「サムドラス、だいじょーぶなの? むこーもはたけとかおうちづくりとかでいそがしいとおもうの」

「唯一生き残った元翼四天として難民をまとめ上げていたが、それも既に形骸化しつつある。 わたし一人欠けた所で支障はないだろう。 それに、アヤリさんへの協力だと伝えれば皆納得もする」

「私、そっちでどんな扱いになってるんだろう……」


 預かり知らぬ所で持ち上げられてそうで嫌だと思いつつ、エスタルが淹れてくれた紅茶を口にした。


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