第42話⑤ ジャムーダの素性
==杏耶莉=灼天の節・十四週目=エルリーン城・地下牢==
そうしてペルナートから受けた説明を要約すると、以下になる。
まずジャムーダはダグリスという名でダルクノース教に所属していた。その特徴からしてディクタニアの言う通り同一人物とみて間違いないだろう。ややこしいので以降の説明はジャムーダで統一する。
そんなジャムーダだが、突然現れてダルクノース教に協力を持ちかけたらしい。一時期は存続すら危うい状態からギルノーディアで国単位の影響力を得られたのはそんな彼の協力に寄る部分が大きかったそうだ。
その際に使っていたのが影霧だという。私の想像通り、影霧へ特殊な感染能力を付与して邪魔者を排除したりしていたそうだ。
「単なる腕っぷしがって訳じゃねぇが、本能的に敵わねぇって訴えかける何かが奴にはあったなあ”」
「……」
突然現れたジャムーダの出自は不明らしい。その様な不審な人物であり同じ信徒としても信頼出来ないジャムーダは教団内でも異端として扱われていたらしい。
この場では話さないが、恐らくこことは違う異世界から来たのではないだろうかと予想している。
「……それで、ジャムーダの協力によってどの様な技術提供がなされていたのでしょう」
「それは話すつもりはねぇなあ”。 あくまでオレは奴を陥れるのみで、ダルクノース教が不利になる情報提供はしねぇなあ”」
「……」
こっそり情報を得ようとしたディクタニアは、バッサリとペルナートに拒否される。
「で、だ。 最大の情報ナンだが、奴は陽の光を避けていたなあ”」
「陽の光?」
「ああ”。 それを浴びて即座におっ死ぬってこたぁねぇみてーだが、嫌っていたのは事実だなあ”」
「……」
「潜伏してるなら薄暗いとこだろうなあ”。 理由は知らねーがなあ”」
「そう、わかった」
ベージルの路地裏は左右が建物に隠れて、闘技大会は会場に屋根があって、巻き戻る前のあの日は土砂降りで雲に陽は隠れていた。
どの場合もジャムーダが現れるタイミングは確かに陽光が遮られた時に限定されるので、ペルナートの話には一理あった。
「それと、奴は正面から戦うより不意打ちが得意だなあ”。 地面から飛び出す棘に注意が必要だろうなあ”」
「それは知ってる」
「……」
必要な情報を得られたと判断した私は、この湿気た牢の前から立ち去ろうとする。
「おい、娘え”!」
「……何?」
「テメェからはダグリスと同じみてぇなそうでもねぇ様な雰囲気を感じる。 ナニモンなんだよ、なあ”」
「……私? 私は私。 他の何者でもないし、もうジャムーダみたいにはならない」
「あ”? 意味が――」
「貴方を許す訳でも好きな訳でもないけど、一応情報をくれた事は感謝しておく。 ありがとう」
あの時エスタルが傷つけられ、それで感じた怒りは間違いなく私の中に存在する。だが、それとこれは別だと割り切って軽く頭を下げる。
すると、もう一度ペルナートは私を引き留めた。
「……おい”!」
「……?」
「この国は裕福だよなあ”。 ギルノーディアと違ってオレに与えられる残飯みてーなもんですら向こうならご馳走だあ”」
「……」
「格差なんてもんがなけりゃあ争いは生まれねぇ。 んなもんねぇ方が良い。 そう思わねぇかあ”」
「……そんな事ないよ。 世界は不完全だから、存在するし意味があると私は思うから……。 それで犯罪が起こるのは残念だけど」
自分でも自然とそんな言葉が出ていた。その考えが巻き戻す前の考えの正反対である事にも気が付く。
「……テメェはダルクノース教にゃあ向いてねぇなあ”。 オレ等の教義は平等な世界の実現、だ。 その為に持たざる者は持つ者から分け与えられるか奪う必要があるからなあ”」
「……そっか。 私は与えるは自由だと思うけど、奪う事に共感は出来ない。 多分私は持ってた者、だから……」
聞きたい事、言いたい事はそれだけだったのか、もうペルナートに話し掛けられる事はなかった。
……
「ハルミヤ男爵、今の情報から貴方の目的は達せられますの?」
地下から出た所で、ディクタニアにそう尋ねられる。
「うーん……。 そうですね、多分大丈夫だと思います」
「不安な回答ですわね。 ですがこれ以上となりますと、わたくしは多忙ですのでそうお手伝い出来かねますわ」
「りょーかいです。 十分助かりました、ありがとうございます」
「……ええ、どういたしまして、ですわ」
そう言ってディクタニアは自らの業務へと戻って行った。
「……エスタル、今日ってチェルティーナさんの所に泊まれるかな?」
「そうですね……、聞いてみない事には判断出来かねますが、恐らく可能かと。 ですが、カティ様の所でなくて宜しいのですか?」
「うん、カティは巻き込みたくない。 出来れば知らせない様にもしたいかな」
「……承知しました」
「明日には来るだろうリスピラ達から話を聞いてから今後については考えようと思う」
そう言って、一旦チェルティーナの別荘へと向かった。




