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第6話⑤ 拉致されて・妙な少女


==杏耶莉(あやり)=エルリーン城・城内通路南側==


「……ようやく出口だな」


 城内を駆けて移動する最中、ゾロギグドの声に反応するように正面を見上げると城の外に繋がる開かれた扉が見えてくる。


「外には逃げてきた人を保護する手筈が既に整えられています。 あそこまで行けば安全ですよ」


 嬉しそうに出口を指さすジャッベル。その様子を見て緊張していた感覚が和らいでいく。

 そう安心したのもつかの間、突然背後から口を塞がれて、首筋に硬いものが押し付けられる。


「(喋るなあ”)」


(――!!?)


 姿が見えない相手に音もなく引きずられる。

 最後尾を走っていた私は他の騎士達に気づかれることなく、彼らとの距離が広がっていく。


「あれ、アヤリさんは?」

「いないな」

「は? どこ行っちまったんだあの嬢ちゃん……」


 騎士達は振り返るが私の姿が見えていないらしく、明らかに私の方角を向くも気が付かない。

 抵抗も空しく手慣れた様子で姿の見えない何者かに城内へと引き戻された。


 ……


「別にてめぇに恨みはねぇんだが、人質になってもらうぜえ”」

「んーー!!!」


 暫く場内を引きずられた後、猿轡を噛ませられ、手足を縛られた状態で城内の一室で転ばされていた。

 私を連れ去った男の姿は見えない。だが声から社交界の会場で最初に襲ってきたペルナートという男であるとすぐに気が付いた。


「精々てめぇは唸って奴らを引き付けてくれやあ”」

「んんーーーー!!!」


 どうやら姿を消した状態で私を囮にするつもりらしい。


 部屋が静まって少し落ち着きを取り戻したので、冷静に現状を考えてみよう。

 仕組みはわからないが、姿は消せても音は消えないようで、特に足音に気をつけていることが伝わってくる。私を攫うときもそう言った技術の賜物だったりするのだろう。


(そういう努力を別の良いことに使えないのかな……)


 どれだけ考えても犯罪者の思考なんて理解できないので諦める。それよりも今の状態を打開する方法を考えなければならない。


(まず、囮になってる私がマズイよね。 姿を隠して待ち構えていることが伝えれれば良いんだけど……。 それに人質のままだと最悪私が死にかねない。 どうにかしてペルナートの隙を作れないかな?)


 縛られた腕で気取られないようにしながら持ち物を探る。すると、ジャッベルという騎士から受け取っていた水のドロップがあることに気が付く。


(今ディートして、ペルナートに水をかけてもしょうがないけど、誰か戦える人が来たタイミングでなら……)


 そう考えていると、明らかに子供という身長の子が私の捕らえられた部屋に気が付く。


(!? 子供は不味い……!)


 あからさまに見える位置に転がされた状態の私に、どうやら気が付いてしまったらしい。真っ直ぐに部屋へと駆け寄ってくる。


「んーーっ!! んんんんー!!!!!」


 どうにかして危険であることを伝えようと、首を振りながら唸った。




==カーティス=エルリーン城・城内通路南側==


 殿下と共に教徒を引き付けていたが、しばらくして流石に供給が途絶えた。殿下と分かれて残党処理をすべく城内の見回りをしていると、扉が大きく開かれた一室に捕らわれた少女を見つけた。


(あれは……、明らかに罠だよな)


「んーーっ!! んんんんー!!!!!」


 ゆっくりと近づくと、その少女も俺に気が付いたらしく、俺に向けて手足を縛られながらもしきりに体をくねらせている。意味はわからないが、部屋で何者かが待ち構えていることは間違いないだろう。


(それよりもこの子の外見が気になるんだが……)


 この大陸の女性は髪を伸ばすのが当たり前なので、短髪の女性というだけで異質に見えてしまう。稀に職業的な理由で短くすることはあるものの、少なくとも社交界に参加できる格のドレスを着ているので普通ではないのだろう。

 とはいえ見過ごすわけにもいかないのでその部屋に近づき、部屋に入らずに一度その前で立ち止まる。


「ん……? ん、んーー!! んんんんーーんーっ!!」


 少女は俺の顔を見るなり、さらに激しく何かを伝えようと動くのだが、彼女の真意を理解できそうにない。気にしないことにして、幻術のドロップを警戒しながら部屋へと踏み入った。


(…………)


 一歩だけ部屋へと入った状態で立ち止まり、耳を澄ますが何も聞こえない。(警戒のし過ぎだったか?)と思い、部屋に立ち入ると、何も見えない位置から強烈な殺気に気が付く。その方向を向いた時点で何かのドロップを取り出そうとするも、間に合わな――


「『ガッ』んーーーーーっ!!!」


 捕まった少女の方角から水が何もない空間に引っ掛けられ、見えない何かに水がぶつかった。それと同時に一瞬だけ怯んだ気配があり、それを逃さずに染料のドロップをディートして、その位置へと液状の染料をぶちまけた。


「ぐおぉぉぉ! ざけんじゃねえぞ、なあ”!」


 幻術のドロップは認識の阻害ができる。だが万能な能力ではなく、既に正しく認識されてしまったものに対しての効力は薄い。あくまで奇襲や変装に特化しているだけで、認識の上書きにはめっぽう弱いという弱点が存在する。

 俺が実践したように、染料で色を塗られた状態では新たに幻術のドロップによる認識阻害はできない。


「お前、会場に居た奴だよな。 さっきは聞きそびれたが、今回の襲撃の主犯格なんだろ? 幻術のドロップについて知識がある者の手引きがされていると感じた。 それもお前の功績だろうな」


 無駄な話をしている風を装って、捕らわれた少女への位置計算をする。この位置なら短剣生成からの投擲で縄が切れるだろう。


「それがどうした、あぁ”!?」

「否定しないんだな――」


 短剣のドロップをディートして生成と同時に投擲する。予想通りに足の縄が解ける。


「んー!!?」


 足が自由になった少女は転がる様に立ち上がると、幻術男から距離を取る。


「ぢっ……、計画が台無しじゃねぇかあ”!」

「お前の計画なんて知ったこっちゃねえよ」

「んー!」


 少女は物言いたげに唸るが、意味がわからないので再生成した短剣を彼女の足元に投げる。


「んんーーっ!?」


 それを拾った少女は腕の縄を切ると、口の猿轡を外して怒り心頭な様子で怒鳴る。


「■■■■■■■! ■■■■■■■■■■!」

「……??」


 会話ができるようになっても、意味はわからなかった。


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