表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリームドロップ ~魔法のようなドロップと呼ばれる道具がある異世界に転移してしまった剣の少女が、現地の最強勇者と交流します~  作者: ヒロナガユイハ
断章 わたしの友人が失踪したと思ったらとてもヤバい奴になってしまったんだがどうすればいい?
231/341

長い時間を掛けてようやく友人を捉えた件について part5


==瑞紀(みずき)=雨天の節・三週目=エルリーン・南中央道==


「――った……」


 わたしの一撃を受けた杏耶莉(あやり)は、その場で呻く。


「お前は本当にアホだな!」

「阿保って……何が?」

「アホ! アホアホアホアホ!」


 わたしは連続で杏耶莉(あやり)の頭を叩く。縛られて身動きの取れないコイツは、只管にそれを受け続ける。


「痛い! 痛いって!!!」

「うっせぇ! アホのアーちゃんにわたしから有難い御言葉を掛けてやる。 耳掻っ穿って聞きやがれ!」

「っー。 何なの……?」


 わたしは面と向かって杏耶莉(あやり)に正直な言葉を投げかける。


「わたしからすりゃあ、他人がどう被害に遭おうが、誰が犯罪を犯そうが知ったこっちゃねぇ! わたしと、その知り合いに被害がなきゃどうでもいいんだよ!」

「……は?」


 対岸の火事というやつだ。わたしからすればどうでも良いのだ。


「けどよ。 今回みてーにお前が居なくなんのは死活問題なんだよ!」

「私? 私は世界の意思を――」

「うっせぇアホ!」

「痛っ!」


 わたしは再度チョップをお見舞いする。


「だから、んな崇高な使命みてーな話は関係ないんだわ。 わたしも、宿理(しゅくり)もカティも。 それに、この場には居ないがチェルティーナとかエスタルとか……お前を必要としてる人間はどうすんだよ!」

「私を必要としてる……?」

「そうだよ! 昔っから、お前は自分ってもんを蔑ろにし過ぎてる。 もっと周りをよく見ろ! お前を必要としてる奴が居んだろ!」

「私には救済が――って痛いって!」

「だーかーら! わたしはお前が居なくって寂しいっつってんだよ! 恥ずかしいセリフ言わせんなよアホ!」

「……」

「確かにお前の立場からすりゃあ、お前の敵の男がやった事は許せねぇだろ。 けど、その敵討ちの代わりに別の犯罪者を憎んで誤魔化すのはもう止めろよ。 んな事してもお前の家族は帰ってこない」

「……」

「確かにお前の一連の行動によって犯罪率ってのは下がったし、それによって被害を受ける筈だった奴がそうならなかったんだろうけど、それはお前じゃなくてもいいだろ」

「それは力が――」

「別に走るのが早い奴全員が陸上やらにゃならんって理屈はねーだろ。 お前はお前と親しい人間の間に挟まれてろよ。 わたしからすれば、んな力を活用するよりよっぽどお前の存在を発揮できる、お前の魅力を引き出せる。 それがお前の価値だとわたしは思う」

「………」


 目を伏せて、長い沈黙ののち、杏耶莉(あやり)は口を開いた。


「……まだ、納得した訳じゃない。 けど……けれど、少し考える時間が欲しくなった、かな」

「おう、それで十分だ!」


 おそらく、一連の出来事の精算はコイツが一生を掛けても達成できるレベルじゃないだろう。少なくとも元の自由な生活が送れるとは到底思えない。

 爵位も剥奪され、刑務所にぶち込まれるだろうが、それでもこんな状態よりよっぽどマシだろう。


「もう逃げないだろ?」

「……そう、だね」

「カティとリスピラ、解いてもらえるか? 宿理(しゅくり)もあの壁、撤去してくれ」

「あぁ」「わかったの」「承知しました」


 簀巻き状態から脱した杏耶莉(あやり)に、手を差し伸べる。


「ほら」

「うん――」


 わたしの手を杏耶莉(あやり)が取る瞬間、わたしの胸に衝撃と熱を感じた。


「……は?」


 驚愕の表情でわたしを見る杏耶莉(あやり)の視線を追って下を向くと、左胸から黒色の棘が生えていた。否、背中から突き刺されていた。


「んだ、これ……」


 もう一度強い衝撃が走った後、支えを失ったわたしは地面に衝突する。


瑞紀(みずき)!!! 瑞紀(みずき)!!!」


 必死の顔で、わたしを揺さぶる杏耶莉(あやり)の顔は、救世主だかなんて馬鹿げたそれ、ではなく、わたしの知る友人の、表情だった。


(……寒い)


 体の端から、急激に冷える感覚。そして、それとは対照的に、溢れ出る鮮血は、燃える様に熱い。


(ヤ、バイ……)


 思考が、段々と、遅くなって、いるのを感じる。


「■■!!! ■■、■■■■■■!!!」


 杏耶莉(あやり)、が、何か、わたしに、問いかけ、ているが、もはや、それも、聞き取れ、そうも、ない。

 だが、その、必死な、表情が、取り戻せて、良かったと、思った。


「良かっ、た――」


 その、時点、で、わたし、の、意識、は、完全、に、途切れ、た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ