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第6話④ 騎士との共闘・意外な出会い


==杏耶莉(あやり)=エルリーン城・城内通路南側==


「すみません。 お願いがあるんですが、ドロップが余っていたら分けてもらえませんか?」


 三人の騎士と城内を移動する途中、私自身が身を守る術を持っていないことに気づく。


「オレはドロップは使わんから、ないな」

「オレは水のドロップならあります。 嬢ちゃんは使えますか?」

「た、多分……?」


 以前マークが適性について話していた気がするが、自分の適性について把握していない。曖昧な返事をしながらもジャッベルから青色のドロップを受け取った。


「これをつかえ」


 その後に、ノアックと名乗っていた騎士から銀と水色が混ざりあったような色のドロップを差し出される。見慣れた剣のドロップのそれであった。


「……何でお前、剣のドロップ(そんなん)持ってんだ?」

「予備だ」


 どうやら騎士の人は全員が実物の武器を使用するらしく、目の前の三人は腰に剣を差していた。


「ノアックは兎も角、寧ろ何でゾロギグドさんは使わないんすか?」

「貧乏性なんだよ、悪いな。 支給されるってんなら使わんでもないが、今回見たいな時には持ってねぇ」

「そうっすか? オレみたいに水のドロップなんて便利で良いじゃないですか」

「いーや、そんなドロップ(玉っころ)を携帯しなきゃいけない方が面倒だ」

「そういうもんですかね」

「人による」


 軽口を叩きながらも、私と同じ速度で走り続ける三人の騎士。私自身の速度が遅いのもあるが、それでも重そうな鎧を着ているとは思えない。特にゾロギグドに至っては、メイドの女の子を背負っているとは思えない移動速度だった。


 十字路に差し掛かった時点で、待ち構えていたと思わしき黒フードの集団が姿を表した。


「罪国たる兵に我らの正しさを見せつけるのだ!」

「「おぉー!」」


 現れたフードの人は三人、騎士の人達は各々一人を担当しようとするが、メイドを背負ったゾロギグドを私が制する。


「私も戦います」

「いや、だがな……」

「その子を背負っていたら戦いにくいでしょうし、危険に晒すことにもなりますので。 任せてください」


 それでも尚、食い下がらないゾロギグドに対してジャッベルが進言する。


「嬢ちゃんの言う通りですよ。 ここは任せてみましょう」

「あぁ、では頼んだ」


 ゾロギグドが下がるのに入れわかる様に、私は通路を陣取ったフードの男性に対して向き直った。受け取ったばかりの剣のドロップをディートして、剣を生成する。


「滅びろ愚民!」


 フードは手を構えると、火の玉を私に放ってきた。ボールが投げられたぐらいの速度で近づくそれを、生成した剣で()()()()()()


「な、なんだと!?」


 フードは驚いた様子で私を見る。別段驚くことはしていないが、その隙を逃さずに距離を詰める。そして剣を大きく振りかぶった。


(犯罪者とはいえ、余裕があるなら出来るだけ殺さないように……)


 剣で斬り裂いてしまえば、簡単に人の命など奪ってしまう。剣の刃ではなく腹をフードの男性に向け、それを頭部へと叩き下ろした。『ガンッ』という鈍い音と共にこの男性は地面に崩れ落ちる。狙い通りの結果だった。

 後ろに振り返ると既に他の騎士はフードの人達を倒していた。


「……嬢ちゃん、何だあの戦い方は?」

「……? どうかしました?」

「自覚ないのか……」

「??」


 戦っているところを静観していたと思われるゾロギグドは驚いた表情で私を見る。


「良くわかりませんが、殺さないようにしましたが不味かったですかね?」

「それは構わないが……」


 彼は、私の顔、私が生成した剣、もう一度私の顔という順で見つめると、何かを諦めた様子で移動再開の提案をした。




==カーティス=エルリーン城・城内通路東側==


 社交界会場を後にして何度か騎士を助けながら進んで行く。


(大多数は逃げれたみたいだし、あとは残党処理で終わりか)


 そう考えると走り回った疲労感が『どっ』と押し寄せてくる。だが、まだ休むわけにはいかないので気合を入れなおす。


「堕ちよ、邪教徒よ!」


 その掛け声と共に、戦斧を振り回す一人の男性を見かける。


(あれは……)


 圧倒的な存在感を放ちながらダルクノース教徒を吹き飛ばす金髪の男性、噂に聞いた容姿と同じそれに気が付いた俺はすぐさま助力する。


「手伝うぞ、ディンデルギナ殿下」

「うむ、助かる。 雑魚とはいえ、こう虫の如く寄られると敵わん」


 明らかに子供である俺に対し、一切の侮りもなくそれを受け入れた殿下と背中合わせに立つ。


「愚国の長に勇者寄りの子供だと! 神の裁きを!」

「「「神の裁きを!」」」


 相も変わらず目の前の敵を呪い殺さんとする勢いの教徒たち。それを倒すべく風のドロップをディートした。


 ……


 一心不乱に教徒達を対処し続け、攻撃の勢いが止んだのを見計らって殿下へと声をかける。


「なんで国のトップが、こんな前線で戦ってんだ?」

「正確には()だ《・》トップではないな」

「はぐらかすな」

「うむ、王族として国賊を処罰するのは当然の義務だろう?」


 戦斧の刃を下にして立てると、寄り掛かりながらあっけらかんと答える。


「……この国の上層部は腑抜けてると想像してたんだがな」

「二十八代目勇者殿に置かれては、そう考えて貰って構わんぞ」

「……何でもお見通し、ってことか」

「ふっ……。 とはいえ、その年にしては良く鍛えられておるな。 基礎に訓練の痕が見られるが、大部分は実戦の差という所か?」

「まぁ、な。 ノーヴスト(この)大陸以外はまだまだ荒れてるからな」

「そうか。 だが、我が国は目の前の問題だけで手が回らん。 それに――」


 突然空間が歪み、新手の教徒が姿を現す。


「正義の執行を――ごばっ……」

「面倒な奴らよ」

「……そうだ、殿下。 お前のとこの騎士だが、随分と幻術のドロップに手を焼いていたぞ」

「うむ、このような襲撃を想定してなかったな……。 今後の鍛錬に加えておこう」

「是非そうしてくれ」


 ドロップで生成していた槍のエネルギー残量が心もとないのを確認して、それを消失させる。その後、ポーチから新たにドロップを取り出して次の攻撃に備える。


「随分とドロップを使わせてしまったみたいだな。 ランケット経由で申請すれば今回使用したドロップの費用は建て替えるぞ」

「おー、それは有難い。 もうすでに今回の報酬から頭が出てたからな」

「……どれだけ戦ったのだ、其方は……」


 使用したドロップを指を折って数えていると、殿下は嫌そうな顔をする。


「して、勇者殿よ。 一応の願いなのだが、自身の素上について暫くは公表を控えてくれると助かる。 不穏な動きを見せている貴族も居るのでな」

「政治利用されるつもりも、面倒事になるだけの公表もしねーよ」

「この国で最後に見かけた勇者が、チェルグリッタ殿だったのでな。 其方はそうしてくれ」

「あぁ……、そうだったな」


 チェルグリッタ。二十五代目勇者にして、レスタリーチェ家の過去の当主である。彼女が目立ちたがりだったのは十二分に理解しているので、殿下の心配も当然なのかもしれない。


「当分はこの国で大人しく過ごすつもりだから安心してくれ」

「そうしてもらえると助かる……」


 案外苦労人気質なこの国の第一王子に、心の中で合掌した。


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