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ドリームドロップ ~魔法のようなドロップと呼ばれる道具がある異世界に転移してしまった剣の少女が、現地の最強勇者と交流します~  作者: ヒロナガユイハ
断章 わたしの友人が失踪したと思ったらとてもヤバい奴になってしまったんだがどうすればいい?
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杏耶莉の過去 part4


==あやり=天桜市・自宅のリビング==


 私が一人暮らしを始めて最初にしたのは掃除だった。

 あの事件から間が開いていたのもあったが、それ以上にそれを思い出させる汚れが存在したからだ。

 ホームセンターで調達した用具を活用して、その汚れを取り除く。仮に家族が帰って来ても怒れない様に綺麗に保っておきたかったからだ。


(これは多分、お母さんの、だよね……)


 愛しい家族に流れていたそれを、汚れとして扱わなければならないという事実に、やるせなさを感じながらもひたすらに作業した。


 ……


 次にしたのは料理だった。元々外食をあまりしない我が家の習慣を、極力崩したくなかった。あの時と変わりたくなかった。

 お父さんと一緒にキッチンに立っていた事を思い出して、買って来た材料でそれを何とか再現しようとする。


(……違う)


 見た目や調理方法こそ我がながら上出来なのに、味付けだけは未経験な私ではそれも難しい。


(そうだ、ノート……)


 お父さんが、いつか私が一人で料理出来る様にと準備していたノートの存在を思い出す。

 冷蔵庫の端にぶら下げられた、すこしよれよれになっているそれを開いて、味付けの部分をしっかりと読む。


(お父さんは目測でやってたけど、私はしっかり測ってやらないと……)


 じっくり時間を掛けて、塩や醤油なんかの量を調節する。そして、出来上がったそれを一口味見する。


「あ、お父さんの味だ……」


 自然とそんな言葉を口にしていた。それと同時に目頭が熱くなり、視界がぼやける。


「何、で……」


 私は二度三度拭った所で料理続行を諦め、コンロの火を止めて、その場に蹲る。


「何で……」


 それは単に慣れた味を食べただけなのにこんなに涙があふれるのか。何でこんな目に私が遭わなければならないのか。私の家族が何故死ななければならなかったのか。そんな尽きない疑問だった。


「な……んで……」


 私は、こうして一人になった。


 ……


 暫くそんな生活をしていると、チャラそうな刑事が訪れた。


「……あれ、君の保護者は?」

「要りません」

「要りませんってそれじゃ監督義務が――ま、いいや。 報告もめんどくさいし」

「……」


 いかにも面倒な仕事をさせられているという態度の刑事は、簡潔に私へと説明をする。


「なんかさ、君の家族を……した男? 獄中自殺しちゃったみたいなんだよね」

「そう、ですか……」

「そうそう。 元々薬の反応もなかったのにヤバそうなのだったし、運がなかったね」

「……」

「しっかり死刑なら死刑で罪を償えって、君も思わない」

「どうでも、いいですよ……」

「あっ、そう?」


 軽そうな態度で話すは暇なのか、聞いてもいない話を始める。


「ここだけの話、なんでもあの男って三回はお縄になってたみたいなんだよね」

「……」

「内容は暴行罪とか傷害罪で、大して懲役せずに出て来たんだって。 そんなのずっと閉じ込めとけとかって思わない」

「……そうですね」


 あの男性についてなんて、知りたくもない。そう考えて適当に流していた私だったが、その情報については同意していた。


「だよねー。 日本の法律って甘いなって思うんだよね、おれ。 そんな犯罪者ってのは、スーパーとかのスタンプみたいに罪に関わらず何回犯したら死刑とかで良くね? って思うわけよ」

「……そうかもしれません」

「おっ、君もそう思う? でも実際は被害が出ないと警察は動けないんだよな。 だからそんな警察になんて期待しちゃ駄目ぞ? ……っておれも警察だったな」


 最後に「転職でもすっかな」なんて言いながら、その刑事は家を出てい行った。


(犯罪者……)


 そう言われてみれば、私は法律について何も知らない。この事件にて細かい説明を砕いて説明してもらった程度で、それ以外はさっぱりだった。


(……調べてみようかな)


 私は元々埃をかぶっていたお父さんのパソコンを起動して、犯罪者、犯罪行為について調べる。

 当初私が知りたかったの何をしたら罪なのかだったのだが、検索の仕方が悪かったのか、現れたのは過去に起こった犯罪と、その被害に遭った人の話だった。


(うわ……こんな……)


 そこには状況や様々な条件こそ違うものの、私に近かったり、私より悲惨な被害に遭っている事件が多く残されていた。

 それを見て私はまだマシなどと思う気は微塵もない。だが、その中には加害者――つまり犯罪者に対して強い怨念を感じる叫びも目に入った。


(犯罪者か……)


 窃盗の様な軽い犯罪でも、それが災いして店を畳まなければならなくなった話。詐欺に遭って、家庭が崩壊した話。そんな話を気が付けば食い入るように私は呼んでいた。

 『死ね』『殺してやる』『苦しみを味わえ』そんな言葉の暴力を目の当たりにした私は、あの刑事の言葉、「獄中自殺しちゃった――罪を償え」というのを思い出す。

 それを考えれば、私は怒りを憎しみを向ける相手が既に存在しないという事実に気が付いた。


「私は、何を……」


 そんな最中、『犯罪者なんて全員殺しちまえ』などという物騒な書き込みを見つける。


(……そうだよね。 全員が死ねば解決だよね)


 そう感じはするものの、それ以上何を考えるでもなくパソコンの電源を落とした。


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