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ドリームドロップ ~魔法のようなドロップと呼ばれる道具がある異世界に転移してしまった剣の少女が、現地の最強勇者と交流します~  作者: ヒロナガユイハ
断章 わたしの友人が失踪したと思ったらとてもヤバい奴になってしまったんだがどうすればいい?
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杏耶莉の過去 part1


==あやり=天桜市・自宅の自室==


「あやりー!!!」


 気持ちよく眠っていた所に、不満感の強い声が下の階から響くのと同時に目が覚める。

 もぞもぞと布団から顔を出して天井を仰ぐ。少し経ってリビングへと降りなければ、もう一度私の名が呼ばれる事は知っていたので、嫌々ながら上半身を起こし、両腕を天井に掲げながら『ぐーっ』と伸びをする。

 ぼやける視界を目を擦って何とか整えると、もう一度名前を呼ばれる前に寝巻のまま自室を出てリビングへと赴いた。


 リビングに出ると、卵が焼ける匂いが充満して、それを焼く『ジュ―』っという音とテレビのアナウンサーの声が聞こえた。


「おはよう杏耶莉(あやり)

「……いおりは~?」

「トイレ」


 椅子に座ってニュースを見ながら短く答えたのは、私のお母さん。そして、その後ろで何かを焼いているのはお父さんだ。


「今日は一回で降りて来れたな」

「……いつも降りれてるよ」

「んなことないでしょ。 今週は五回中今日ので二回目だ。 それ以外は二回呼んでる」

「……」


 元々この家を買った時から私といおりの部屋は準備されていたのだが、最近まで両親含めた四人で寝ていた。

 五年生にもなったからと、自分の部屋で寝られるようにベッドを買ってもらったのだが、朝は目覚めの悪い私は二度寝ばかりしている。

 私はちょっぴり意地悪なお母さんから離れ、キッチンに立つお父さんへと近寄った。


「おはようお父さん」

「おはよう」

「何作ってるの?」

「今日はベーコンエッグが食べたいってママが……」


 私の家庭では家事全般をお父さんがやっている。世間的にはお母さんがやるのが普通なのだが、お仕事の忙しいお母さんに比べて融通が利くお父さんがやるのが習慣になっていた。

 ……単に家事全般はお母さんよりお父さんの方が得意だし、性格も向いている。それにお母さんの料理は美味しくない。


「……あ、お姉ちゃん、おはよう」

「おはよー、いおり~」

「じゃま」


 いおりは私の妹で一つ年下の四年生。可愛い可愛い妹だが、最近くっつくと嫌がられる。

 今日もトイレから戻ったいおりの背中から抱き着くと、顔を思い切り手で押しのけられてしまった。


「さ、出来たよ。 机開けて」

「はーい」「はい」「ん」


 お父さんのそんな号令に、私、いおり、お母さんが別の反応をしつつもテーブルの物を退けた。


 ……


「明日から旅行だね、楽しみ!」


 朝食を家族で取りながら、私がそう話題を切り出す。


「うん、明日は土曜日で僕もママも休みだから、二人共早めに帰ってね」

「わかってるよー。 楽しみだから忘れないって!」


 明日の土曜日は半日授業のある日だけど、三連休だからと珍しく旅行に出かける計画になっていた。

 旅行自体は一泊二日で、帰って来た次の日の月曜日は家でまったりするのだ。旅行帰りの翌日に仕事はつらいからなんだって。


「……でもお姉ちゃん、昨日いっしょにかえるってやくそく忘れてた」

「うっ……。 今回は忘れないよ、本当だよ?」


 そもそも土曜日は給食もないのでお腹が空くから毎回すぐに帰ってくる。


「にしても熱海か。 杏耶莉(あやり)は覚えてるかもしんないけど、伊捺莉いおりは覚えてないでしょ」

「うん、おぼえてない。 ……写真は見たけど」


 私が五歳で辛うじて記憶があるタイミングで一度行った事があった。なので私も鮮明には覚えていないからいおりには無理だろう。


「私覚えてるよ! えぇと、ご飯が美味しかった!」

「……美味しそうに食べてたのって、ファミレスじゃなかったかな?」

「そうなの?」


 基本家では外食をしない。食費が掛かるのもそうだが、外の食べ物よりお父さんの料理を食べたいというお母さんの意見だった。

 昔お父さんは料理人を目指していたみたいだった。けれど、今みたいに少し料理するだけなら大丈夫だけどお仕事で長くフライパンが振れないから止めたんだって。


「――あ、そろそろ準備しないとか」

「え、私まだ食べ終わってない……」

「私は終わった」


 そう言って、いおりは立ち上がって洗面所へと向かう。そう言われてみれば、既に着替えているいおりと寝巻姿の私とでは支度に差が出ていた。


「ちょ、ちょっと待って!」


 急いで朝ご飯を詰め込むが、のどに詰まらせてしまう。御父さんから麦茶を受け取って落ち着いた頃にはお母さんもスーツに着替え、いおりもランドセルを背負っていた。


「……今日は一人で行く。 行ってきます」

「私も出る。 行って来るよ」

「待ってぇー」


 何もかもを準備し終えていない私は、お父さんい手伝われつつバタバタしながら家を出た。


 ……


 何とか学校へと走って間に合わせた私は、息を切らせながら席に座る。


「……あやりちゃん、おはよう」

「はぁはぁ……。 おは、よう……みずきちゃん」


 私の前の席に座っているのはむかさ みずき。二年生の頃にお母さんが死んじゃってお父さんは逮捕されてで大変だったけど、最近は元気になってよく笑う様になっていた。そんな私の一番仲の良いお友達である。


「……大丈夫?」

「大丈夫、だよ……。 ちょっと朝話に夢中になって支度が遅れただけだから……」

「そうなんだ……」


 そう間を置かずに担任の先生が来て、朝の会が始まった。


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