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第41話② 楓の軍略


==杏耶莉(あやり)=灼天の節・十三週目=レスプディア・プイストス平野==


「敵軍、この地点から観測機器にてその存在を確認! 作戦開始の合図をお願いします!」

「――これよりギルノーディア軍迎撃作戦開始ですわ! 先発射撃部隊! 敵を目視次第発射を許可しますわ!」


 前線の総指揮を執るチェルティーナの号令によって、控えていた遠距離ドロップの部隊が次々とディートする。


「発射!!!」


 その合図とともに、火球や電撃。矢といった後方へと届く殺傷能力の高い攻撃を次々放った。

 ギルノーディアとレスプディアの大きな違いとしてドロップ資源の豊富さが挙げられる。ここ数年でドロップ製品の燃料として需要の高まり、マークが潤沢な資金で支援しているのもあって三十年前の戦争では不可能だった数の暴力が可能だった。

 以前の戦争でも使われていなかった訳ではないらしいが、職人が一つ一つ丁寧に作っていた当時ではその希少さは雲泥の差だという。せいぜいごく一部の者が二、三個所持しているのが限界だったそうだ。そんな者はドロップ術士と呼ばれ、当然目立つので真っ先に狙われた。それに、目の前の相手は手にしている剣や槍を振るう方が手っ取り早かったのもあったのだろう。

 宿理(しゅくり)の策では王族の特権にてドロップ店の品を買い占めて、それを軍事転用する運びとなった。それでもディートする手間があるが、それはかの有名な戦術である三段撃ちに倣って交代制を採用している。因みに瑞紀(みずき)もこの部隊に加わっていた。

 また、人数確保の為にどうしてもドロップによる遠距離攻撃に慣れない者も起用しているのだが、そんな人は敵しか居ない方向にだけぶっ放すというのを厳守させることになっていた。練習させる時間もドロップもないのでその点は不安材料であるが……。適性がそれなりにあれば突貫でも意外と扱えるので心配ないのかもしれない。


「敵前線! 規定ラインへ一定数突破を確認しました!」

「では、先発射撃部隊には撤退の合図を頼みますわ!」

「承知しました!」


 この部隊はそれなりに敵軍の接近を許した時点で下がる手筈となっていた。


「退避! 退避ー!」


 狼煙を確認した射撃部隊は、当初より負傷等によって人数の減った敵軍に背を向けて一目散で一気に下がる。それを見た敵軍は追撃しようと速度を上げて飛び込んでくる。


「――掛かりましたわ!」


 あるものが等間隔で敷き詰められた地点へと侵入した敵軍は、それを踏み荒らしながら前進する。そうして暫くすると黒い煙が舞い上がって、その勢いは急激に落ちた。


「やっぱり想像を絶する威力だよね」


 舞い上がった煙の正体は香辛料である。撤退を確認した大人数が勢い付いて迫ればボロボロの頭陀袋に入っていた香辛料が敵方の手によってばら撒かれた。

 その刺激に目や鼻、口から侵入を許した兵はせき込んで鼻水を垂らして叫んでいる。

 一応私達の待機する位置は風上であるそうだが、念のため風のドロップに長けた人員にて防壁を張っていたりする。


「罠地帯突破されました!」

「アヤリ様、出番をお願いしますわ!」

「はい!」


 だが敵方も馬鹿ではない。配置された頭陀袋が原因であると知ればそれを避けて進軍するだろう。そこで出番となるのが私を含めた最終武器部隊である。

 主に遠距離の何かを使えなかった者か武器の扱いに長けた者が配属されたこの部隊が先の二つを突破した兵を相手取る事になっていた。

 私は急ぎ、戦場へと向かった。


 ……


 私の担当は呆気ないの一言であった。

 兵の数が減って統率力皆無且つ香辛料のあおりを多少なりとも受けている相手。それでなくても私からすれば万全の状態の一対一で負けない実力だと思われる敵に遅れを取る事はなく、対した敵全員の首を斬り落としてしまった。激しい戦いであれば兎、ほぼ流れ作業であるこれにいくらスタミナのない私でも限界は迎えない。

 程なくして甲高い笛の音が聞こえるのと同時に進軍してきた敵軍は撤退を始めた。おそらく撤退の合図か何かだったのだろう。

 追撃しようかと迷いはしたが、薄れてきているとはいえ香辛料の風壁の向こう側へと消えていく相手を追いかける気にはならなかった。


 私は前線を後にして負傷者が集められた天幕へと向かっていた。


「あ、春宮(はるみや)さん……」

「……怪我した人、結構居るね」


 今回の作戦の立案者、宿理(しゅくり)が負傷者へと手当てをしていた。彼女は後方で支援すると言って聞かなかったのだ。適性レベルからして活躍は確実であったにも関わらずである。

 

「射撃部隊で撤退の遅れた方。 それと、春宮(はるみや)と同じ配属の方も順次運ばれてきました……」


 流血は言わずもがな、部位欠損している人に、黒い布が腕に巻かれて呼吸をしていなさそうな人も居る。


「あれだけ準備してても犠牲は出るんだね」

「――いえ、貴方達の協力によって想定より数段負傷者や死亡者は抑えられていますよ」

「うわっ! びっくりした……」


 私と宿理(しゅくり)との会話にしれっと紛れ込むフェンに驚く。


「……チェルティーナさんの護衛は?」

「お嬢様より現在最も忙しいであろうここを手伝うよう仰せつかっております」

「あ……。 ではあちらの方をお願いします」

「承知しました。 アヤリ様は外部で処理が始まっておりますよ」

「わかった。 じゃあ私は外を手伝ってくるね……」

「……はい」


 戦場跡地には大量の()()が散らばっている。私からすればそれが野生生物の餌になろうが関係ないのだが、疫病にもつながりかねないので焼却処分する事になっていた。


(料理と違って、この後片づけは面倒なだけだよね……)


 内心そんなぼやきをしつつも、自らの役割はこなさねばと戦場跡地へと向かった。


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