第41話① 戦前準備
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==杏耶莉=灼天の節・十三週目=レスプディア・プイストス平野==
私は、レスプディア王国東部に位置する、ある平原に立っていた。
迫り来るギルノーディアの軍勢を国境で迎え撃つのは距離的にも時間的にも難しく、そこから少し離れた列車駅のある町のやや国境寄りの開けた位置なのだという。
(なんかよくわからいけど、胸騒ぎがする……)
緊張とも違う僅かな違和感を抱えつつ、私は他の人達が世話しなく準備している姿をじっと見ていた。
(カティが居れば……。 いや、頼ってばかりは駄目だよね……)
彼との数日前のやり取りを思い出す。
「――え……。 カティは協力してくれないの?」
私が彼に尋ねると、肯定の意味を込めて彼は頷く。
「あぁ。 勇者の制約みたいなもんでな。 戦争みたいな国と国との争いには干渉しないって決めてるんだ」
「決めてる……。 つまり、別に法律とかで縛られてる訳じゃないんだね」
「そうだな。 けどこれに関しては歴代勇者でも厳守してる。 勇者が付いた陣営が間違いなく勝つだろうしな」
「……本当~? 闘技大会では私に負けたのに?」
そう聞き返すと、彼はわかり易くむっとする。
「……そりゃ、全力じゃなかったからな。 本気の殺す気で戦えば、まず俺は負けないぞ?」
「本当?」
「……本当だ。 それにドロップの供給さえあれば、本来俺は多人数相手の方が得意だしな」
「ふーん」
「ふーんてお前……」
直接相手取って、彼が本気でなかったのは理解している。試合の最後の方は記憶が曖昧であるが、それでも殆ど攻撃されなかった筈である。
「って訳で、あのお姫様にも言ったが俺は不参加だ。 ……正直、アヤリにはそんな危ない所二行ってほしくないんだがな」
「そんな事言われても……。 参加しないって宣言してる人に止められなくないんだけど?」
「……仕方ないだろ? 歴代勇者でこの国生まれの勇者、チェルグリッタですら戦時に際しても勇者の力は使わずに後方支援に徹していたんだ。 俺が破る訳にもいかんだろ」
「……そっか――」
「おーい杏耶莉ー。 チェルティーナが呼んでるぞー!」
「あ、うん。 行くよ」
物思いに耽っていると、瑞紀に呼ばれてそっちへと向かうことにした。
……
突貫で建てられた天幕の中でてきぱき支持を出すチェルティーナの元へと到着すると、詳しい報告を受ける。
「かの軍勢が、国境を越えたそうですわ。 およそ三日後、この平野を通過する見込みですわね」
「……ここを避けて進む可能性は?」
「……絶対ないとは言い切れませんが、その可能性は低いかと思われますわ。 彼らの狙いは列車ですもの」
「ここ、プイストス平野を抜けずに列車駅のある町へ向かうとなれば、南方のフォグレンの森か、北部のメルオルの肘を越える事となります。 フォグレンの森は軍行には向かない深い森です。 軍で進むのは消耗が激しすぎるでしょう。 そうなればメルオルの肘ですが、あちらも厳しい山越えとなりますし、時間も倍以上掛かります」
地理に詳しくない私の為に、フェンが解説してくれる。山の名前に体の部位の名前が付いているのか不思議ではある。
「そこで、宿理様の案で準備した策によって迎え撃ちますわ。 上手く決まれば敵方は撤退を余儀なくされるでしょう」
「全滅はさせないんですか?」
私がそう質問すると、彼女達は目を丸くさせる。
「お前は……なんでそう極端なんだよ……。 ジェノサイドはヤベェだろ!」
「そうなの?」
私に対してツッコミを入れる瑞紀に聞き返すと、ため息を付きながら得意げに説明し始める。
「あのな? こういった戦争において、全滅が三割、壊滅が五割って言われてるんだ。 それを十割ってのがどれだけヤバイと思ってんだよ?」
「――あ、六笠さん。 それはあくまで軍事的要素における攻撃の役割を担う方が三割である作戦において、その三割を消耗すれば戦えずに全滅とみなすという意味です。 壊滅五割は、それだけ人数が減れば兵は逃げてしまうだろうという基準です」
「ん、そうなんか?」
「はい。 勘違いされる方が多いですが、砲兵戦術講授録にそうした記載があるのみで、実際の状況で変動すると考えるが妥当かと思われます」
「カエデ様のお話で考えるのであれば、今回攻め手となる兵に比べて補給部隊等の後方支援は少ないとお聞きしていますので、全滅にも相応の兵を倒す必要がありそうですわね」
「……またアンタは聞きかじった知識をひけらかして」
「まぁまぁ。 また一つ賢くなれたって事で……」
風向きの悪くなった瑞紀はしらーっと天幕から外へ出て行ってしまう。
「まったくアイツは……」
「……カエデ様の策で多くの敵兵を無力化できる算段ではありますが、それでも直接相手取る必要のある相手は必ず出てくるでしょう。 最前線で戦っていただく必要はありませんが、アヤリ様に武力を期待する方々が多い自覚は持っておいてほしいですわ」
「うん。 それはわかってる」
「……」
不法入国者という犯罪者であれば、躊躇なく斬り捨てられる。犯罪者が残れば、それはそれ以外の人達へと影響が出るのだ。その感情は変わらない。
「私もちょっと外の空気を吸ってくるよ」
「えぇ。 それがよろしいですわね」
そう言って、瑞紀と同じく天幕の外へと出た。




